073狂気と恐怖
時をもどし、薬剤も作った。
後は宴の後に「お願い」をするだけ。
もういい。これで最後だ。
腹を括るしか無い。
もうどうしても助かる道はないんだ。
私も早く楽になりたい。
でもお兄様をあのまま放っては置けない。
「ああああ、拾ってくださいー。」
…
「ところで、達人様...ニーロでの活躍をお聞きしまして...お願いがあるのですが...」
…
「ラーヘイ...さんですよね?」
「すみません、達人様。ちょっと待ってください。」
「!?…ラミナ!?なんでここに!?」
「シッ、あのお兄様は今は人間じゃありません。」
「どういう事だ?」
「この瘴気の立ち込める場所に生息している人喰い植物と癒着して、もう化物と化しています。」
「どういうこと?今になってそんなことを言うなんて。まるで私たちをおとしめるような言い方ね。」
「ごめんなさい。許してくれるとは思っていません。」
「いえ、許してください。これまで私があなた達にした残酷な行いを。」
「何を言っているんだ?」
そう言いかけた途端、ラミナは急に5個の瓶を一気に取り出した。
「おい!なにを…」
また言いかけた途端にラミナは一つの瓶を開け、全身に浴びた。
その瞬間。
「ぎゃあああああああああ!!!」
あんな華奢な体から出るとは思えないほどの、狂気すら感じる叫び声を上げた。
何かを問いかけようとしたが、急な行動とその狂気で誰もが動けなかった。
叫び声が落ち着き、ラミナは2つ目、3つ目の瓶の中身を飲み干した。
「ゴポッガガッゴエッグウウウウウアアアアアエフッラッヌッカッカッカアアアア…」
もはや人の発する声となっていない。
狂気から恐怖へ。
いや、どちらも混ざり合って何にも形容しがたい感情が芽生え出す。
…
異様な状況に絶句している間にラミナは4つ目を浴び、5つ目を飲み干したみたいだ。
なんだ「コレ」は。
そこにはラミナがいたはずだ。
そうラミナが。
しかしもう「ソレ」はまるでゾンビと成り果てていた。
肉がそげ、黄色い脂肪、白い骨、赤黒い血と血管。
「ソレ」がなにか呻き声を上げながらこちらへと向かってくる。
ラミナだ。
そうラミナだ。
わかっているが、あまりにも異様な姿に皆が驚愕し、各々武器を構える。
俺は前衛だ。
剣を構える。
しかし動けない。
切りかかってもいいのか?
ラミナを治す手立てはあるのか?
明らかに瘴気を振りまくラミナの姿に葛藤ばかりが続く。
「達人!!!」
リリの怒号でハッと現状に戻ってこれた。
しかし遅い。遅かった。
ラミナだったものは俺の剣をがっしりと掴んでいる。
「クソッ!!!」
剣をラミナから遠ざけようと思い切り引き戻そうとした。
…動かない。
微塵も動かなかった。
まるで山を動かそうとして足掻いているような感覚に陥った。
しかしなんだろうか。この違和感は。
ラミナに攻撃性を感じない。
何かを覚悟している様子が窺える。
「ラミナ…?」
またまた言い切る前にラミナは剣を体に突き刺し、剣の中程まで体を貫通させた。
何をしている?
いくらなんでも死んでしまうぞ。
そう思った束の間、ラミナが溶けた。
いや溶けながら剣に絡みついてきている。
まずい。
すぐに剣を離そうとしたが遅かった。
体に貫通した途端、恐るべきスピードで剣の柄まで、俺の手ごと絡みついていた。
やられた。
そう思ったが、体に異常はない。
「達人!!!」
「タツト…!」
「テメエ、大丈夫か!?」
「あ、ああ…大丈夫…だ。」
もはや俺の剣、アトワーデは今までのようなシャンとした出立はなくなり、まるであらゆる動物の臓物や骨をくっつけたような狂気の剣と化していた。
しかし俺の体には害はない。なにか優しい、そして悲しげな雰囲気を手の感触から伝わってくる。
ごめんなさい、でも大丈夫。大丈夫だから安心して。
そのような安堵感を得られている。
「ウグアアアアアアアアアアアアア!!!!!????」
狂気の瞬間が終わったと思ったら、今度は後ろから叫び声が聞こえてくる。
ラーヘイだ。
ラーヘイがなにかに怯えた様子で逃げていく。
しかし、あまりにも恐怖を感じているせいか、つまずいては立ち上がり、走っては転び、這いずり回っては立ち上がりを繰り返すばかりで全然距離は離れて行かない。
(オ、ニイ、サ、マ、ヲキッ、テワタ、シデハ、ヤク。)
頭の中に直接声が流れ込んでくる。
俺たちの中の誰でもない。
声は潰れているが、ラミナの声だ。
「何言っているんだ!!!お兄さんなんだろ!!!」
「な、なにを言っているの達人…?」
「ちょっと黙っていてくれ!!!俺もわからないんだ!!!」
(ワタ、シハア、ナタタ、チヲダ、マシテ、イタ。デ、モイマハソ、ンナコト、ヲキニ、シテイ、ルバア、イジャ、ナイデス。)
(ワタシ、ガゲン、キョ、ウナ、ンデス。ハ、ヤクマヨワ、ズニオニ、イサ、マヲ、キッテ。)
「だから何を!!!お兄さんが死んでしまうぞ!!!」
(ス、ミマセ、ン。サ、イゴマデ、タニ、ンニタ、ヨッテシマ、イマイ。セメ、テ、ワタ、シガ、コ、ノジケン、ノケリ、ヲツケ、マス。)
「何をっ…!!!」
説得しようとしたが剣が勝手に動いた。
俺の手にまでラミナが侵食しているんだ。
動かせるのも頷ける。しかし。
「達人!!!待って!!!何してるの!!!」
その台詞はかなりスローに聞こえた。
なぜなら。
俺は剣が動くまま引きずられる様に走り、ラーヘイの顔面を突き刺していたからだ。
(アリ、ガトウゴ、ザイマシタ。タツ…)
ラミナは剣の柄を残し、刀身ごと溶け、ラーヘイへと垂れていく。
「ウゴ…ガアア…」
ラーヘイはラミナを浴びるとまるで一つに、融合するように溶けて地面へと吸収されていった。
依頼は意外な方法で達成した。
瘴気の森の道に大きな血溜まりを残して。
構想はできているのですが、いざ文字に起こそうとすると中々難しいですね。
なるべく頑張って少しずつ書いていきます。




