006おつかい
魔境。
そうここは魔きょ---
「早く起きなさい!」
殴られた。痛い。
「今日はお姉さまのおつかいの日よ!!さっさと支度なさい!!」
「もうちょっとマシな起こしかたできないのか、お前は!!」
「言ったでしょ!!おつかいの日なのよ!!し・た・くなさい!!」
あまりの剣幕に押されてしまった。
しぶしぶ支度を始めることにした。
こんな起こされ方は久しぶりだな...
雪花は元気なのだろうか...
とにかく朝食を済ませて「おつかい」に行くことにしよう。
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ああ、こんなに朝飯がうまいと思ったことがあっただろうか。
素材がいいのだろうか。
「早く済ませていくわよ~。」
この空間で食べるのがいいのだろうか。ただのコップ一杯の水でさえ美味である。
「ちょっと聞いてるの?」
さすがにお城といったところだろうか。朝からフルコース並みの勢いである。
「はあ、だめだこりゃ。下げちゃって。」
フォークとナイフを手に取り、メインディッシュを味わう...
しかし、フォークとナイフは空を切った。
「あれ?朝飯は?消えた?」
「あなたどれだけ時間かけてるのよ。下げられたわよ。」
「はあ!?下げたってお前、俺は味わって---
「言ったでしょう!!今日はお・つ・か・いの日なのよ!!さっさとしなさい!!」
「だからってこれはひどいだろうが!!」
「何よ!!私の話を聞かないあんたが悪いんでしょう!?」
「なんだよ!!俺の気持ちも察することができないのか、妹さまよぉ!!?」
「何よ!!」
「なんだよ!!」
「あらあら、お二人とももう打ち解けたのね。仲がよろしいことはいいことですわ。」
「誰がこいつなんかと!!」
「まあまあまあ。」
朝飯の件はなかったことにされてしまった。
昼食はしっかり準備させますから、とルルに言われたので、しっかり腹を減らしてくることにした。
それにしてもルルの守りたくなってしまうオーラには勝てないな。
いつもふわふわしていてほってけないというか、それにあの笑顔に声、お願いされたら断ることは至難の技だろう。
実は俺ダメ男なんじゃね?
「さあ、いよいよおつかいよ。言っておくけど、私からは離れないようにね。15mが許容範囲だから気を付けるように。」
「離れるとどうなるんだ?」
「それはお楽しみよ。試してみればいいじゃない。」
「遠慮させていただきます。」
こうして、ルルのおつかいとやらが始まった。
「で、おつかいの内容はどんな感じなんだ?」
「えーっと、メモによると...ああなんだ。食料確保と、入門用魔導書のおつかいね。あとは...」
「なんだ、ルルがお前とおつかいだなんていうから、ちょっと身構えてたが、普通にこなせそうなんだな。
「本当よねぇ。こんなのはメイドの仕事なんじゃないかしら...っと、お姉さま...こんなのを頼むなんて...一体どういう...」
「ん?」
「まあ、さっさと済ませましょうか!!」
「ああ。」
こんな会話をしているだけでも、すぐに商店街へとたどり着いた。
アノヒトッテ、ウワサノ?
ソウデショ、ダッテオトコヨオトコ!!
ミルノハヒサシブリネ…ツギノコウホハダレカシラ?
「なにかすごく視線を感じる気がする。」
「なにかじゃないわよ。実際見られてるわよ。あなた。」
「なんで!?」
商店街へとつくやいなや、どよどよと騒ぎが起こり始める。
その視線の先には、俺。
一体何が起きているのやら皆目検討がつかない。
「言ったでしょ。お姉さま。この国は女性しかいないって。」
「はっきり言ってあなた種馬なのよ。」
「ブッ」
「原則男性厳禁の国、男がこの国に来るときは…まあそういうことよ。」
...聞かなかったことにしよう。これは夢だ。いや、確かに夢だ。浪漫だ。
「私がいるんだから、なにかしようものなら...」
「すみませんでした。許してください。」
男なら一度夢見るハーレムも今や保護観察状態の俺では成し遂げることはできないことなのだろう。少し...少し悔しい。
「私は男じゃないから、あまり想像ができないのだけど、なんとなく軽蔑するわよ。」
「なんで!?別に何にも考えてませんけど!?」
「あなたってわかりやすいわね。」
一蹴されてしまう。情けない。
「そ、そういえば、ルルが百聞は一見にしかずと言ってたけど、一体何なんだろうな。」
「さあね。あ。例えばあの...」
リリが指さした方向を見る。
見ながら歩く。
直後。
ビリビリビリッ!!!
「あばばばばば」
「まあ、こんなところかしらね。」
何がだ。こんなところじゃないだろ。
しびれてしまい、身動きが取れない。
思いっきりにらみつける。
「ごめんなさい。これが百聞は一見にしかずってやつよ。一見というより体験しちゃってるけど。」
「よそ見させて、15mわざと離れたわ。」
「移動拘束魔術。ただし、かけられたものには身体的ダメージはないから安心してね。」
「回復条件は発動した後、すぐに10m地点まで術者のところまで戻ること。」
何が百聞は一見にしかずだ。痛い。
リリがこちらへ歩いてくる。
3秒ほどで何もなかったかのように動けるようになる。
本当に身体的ダメージは無いようだ。精神的ダメージがすごいが...まるで動物の躾のようだ。
「聞いたと思うけど、この世界は能力が突出する人が存在するのよ。」
「私は魔術に長けているわ。なんとなく察しがついてたでしょうけど。」
「電撃のせいですぐに10mなんて近づくことなんてできないと思うんだが。」
「まあ、そうでしょうね。男の子でしょ?気合いよ気合い。」
こんちくしょう。
「なんでもしますんで、もう不意打ちは勘弁してください。」
「...なんでも、ね。その言葉は重いわよ?使うのは控えておきなさい。」
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「さあ、ここが最後のお店よ。さっさと済ませましょう。」
本当におつかいだった。
買い物をして帰る。
まるで子供が初めて任されるようなおつかいだった。
「それにしても、お城の雰囲気とは違って、市場は小奇麗とはいかないものなんだな。」
「...そうね。そんなものよ。」
「そうかぁ。あまりにもお城が立派だったもんで、ちょっと拍子抜けだったよ。もっとこう、おとぎ話に出て来るような城下町みたいな…」
「早く済ませるわよ!!」
「な、なに怒ってるんだよ。おい!!」
リリはさっさと店に入ってしまった。
Red Lips.
店の看板にはでかでかとこう書かれていた。
黒い背景に赤い文字。
何の店だろう。
外からはまったくわからない。
窓はついているのだが、カーテンがかかっているのか、スモークガラスか、外からは店の中をうかがうことはできない。
それに問題は所在地だ。
市場とは違って、誰も寄り付きたくないと思うであろう裏路地にそのお店は位置していた。
そんな店にリリというお城の重役が入っていった。
恐る恐る俺もリリの後ろをついていくのだった。
動物の足の骨のようなドアノブにびっくりしつつドアを開ける。
「「いらっしゃい。」」