067 禁忌
「さて、禁忌。蘇生についてはさっき言った通りだ。お前さんの記憶では植物程度のなかなか影響の少ないものでないものでしか行なっていない。」
「そして、アカシックレコードによる最悪の《禁忌》は...ヒトの蘇生だ。」
人の...蘇生...?そんなことができるのでしょうか...?第一そんなことは考え付きません。
「そのヒトの蘇生に関わってくるのがどうやらラーヘイ...お前さんのお兄さんだ。」
「お兄様ッ!?まさかわたしがそんなこと---
「一応こんなナリはしてるが、痛いほど気持ちはわかる。」
「現にその蘇生によってもう戻らぬ人となってしまったみたいだな。」
「は?」
お兄様が。お兄様が、死んだ...?私が。お兄さんを。殺した...?
「はは、ははははは、ははははははははははは。」
「...それほど愛していたんだな。精神崩壊を起こすほどに。」
「かわいそうに。でも幸いここでは俺たちの力がキク。少し失礼するぜ。」
そういうと死神はラミナの頭へと手を置いた。
...
「あれ?私...」
「お前さん、お兄さんが戻らぬ人となったと聞いて精神崩壊してしまってな。ちょっとネジを締めさせてもらったぜ。そのまま戻すわけには行かねえからな。」
「はい...」
わたしはどうかしちゃったのだろう。今はお兄様が死んでしまったことのショックが小さくなっている。
「んじゃ話を進めよう。どこまで覚えてる?」
「先ほどのお兄様が戻らぬ人になってしまった事です...」
「結構話が進めやすいな。不謹慎だが助かるぜ。」
そう言いながら死神さんは新しい煙草に火を付ける。
「さて、お前さんは知らず知らずのうちにヒトの蘇生を行なってしまった...というか植物に当たるわけだが。」
植物...それでは話が矛盾していないでしょうか。
「そう。お前さんが思うように矛盾している。ただしアカシックレコードにはしっかりと書かれている。」
「...ネジ締めるのは結構疲れるから、覚悟して聞いてくれよ。」
「...はい。」
私は長い長い深呼吸をし、身構える。
「どうやらお兄さんはあの人喰い植物と一体化してしまったみたいだ。」
「一体化...!?そんなバカな...お兄様はあれに噛み付かれていて...」
「信じられないのも無理はねえ。」
「お前さんのいう通りお兄さんは噛み付かれていた。それだけで済めばよかったのだが。」
「お兄さんの腕から大きな音を聞いた時に薬瓶を投げつけたのを覚えているか?」
瘴気実験台にあったあのたくさんの薬瓶の中の一つだ。
「そう。瘴気を含んだ薬瓶。それでお兄さんと人喰い植物が一体化してしまったみたいだ。」
「...相当痛かったみたいだな。腕を噛み切られる直前で、薬によって神経や骨や皮膚全てが全く性質の異なる植物に無理やり癒着させられたんだからな。」
「お兄さんはその瞬間にショック死。それで済めばここでお前さんと話すことは無かったのだろうが...」
「アカシックレコードによると、その後お前さんはもう一つ瓶を投げたらしい。お兄さんを助けたい一心で。」
「こういうのもなんだが...そいつがマズかった。」
「その薬瓶は瘴気を含んだ植物蘇生薬だったみたいだからな。」
やはり...私が。お兄様を殺してしまったのだ。
あんなに安全に研究ができるよう計らったというのに。
「完璧なことなんてほとんど無え。はっきりいうがな。悪く思わないでくれ。」
「問題は《お兄さんが植物と癒着してしまった》というところだ。」
「なぜかというと。お兄さんは植物と癒着してしまった時にショック死してしまった。この死亡パターンだといわゆるヒトに分類されてしまう。残念なことにな。」
「ヒトの蘇生を行う、要するに歴史を変えてしまうというわけだ。小さな動物や植物くらいならなんら問題ない。」
「そんなにヒトをポンポン蘇生させられたらヒトなんて存在はいらねえ。しかもヒトというのはたくさんの文明を築いてきた。大いに歴史にたいして影響を与える存在だ。」
「神さんや閻魔さんが輪廻転成を行うのとは違うんだ。文化を築き、歴史を作っていくヒトだからこそヒトが蘇生を行なってはいけない。」
「ここまではわかるか?」
「はい...そうそう歴史を書き換えられると混沌の世界を招いてしまう...ということでよろしいでしょうか?」
「まあそのような認識でオッケーだ。」
わたしはそのような大罪を犯したというのか。
「俺もこんなことを伝えるのが辛い。これじゃまるで冤罪だ。」
「だが神さんと閻魔さんが俺に任せたということは俺の裁量で済ましてもいいということだ。」
「...どういうことでしょうか?」
「言うなれば運試しだ。まず一つ目。時間軸の指定はできないが、というかどの時間軸になるかわからない。現世に戻れる。かといって未来に行く事はほぼほぼない。」
「そして二つ目。というかこれが最後の提案だ。極楽浄土へ逝くか。」
「もしかしたらお兄さんが生きている時間軸に戻れるかもしれない。これこそ歴史に影響する可能性が高いが、神さんと閻魔さんが俺に任せたんだ。」
「生前の行いもよかったし、現世に戻してもまあお上さんは許してくれるだろう。」
「さっきも言ったが、運試し...というより賭けだな。返事は一回のみ。イェス、オア、ノーってやつだ。」
「時間はたっぷりある。ゆっくり考えてくれ。というか不謹慎だがゆっくりしてくれると俺は嬉しい。」
そういうと死神さんはまた新しい煙草に火をつける。
現世...おそらく私は死んではいるが、例えば仮死状態と思えばいいのか。
その状態から時間軸はランダムに生き返れるということだろう。
可能性として、私が殺してしまったお兄様が生きている時間軸に戻れるかもしれない。
でもいなかったら。死んだ時間軸に戻ってしまったら...?
生きていたとしても私はちゃんと面向かっていつものように過ごせるだろうか?
それに村の人たちも困るだろう。ほとんどのメンテナンスは私一人でやっていた。
私とお兄様どちらもいなければ村は崩壊して地図から消えるだろう。
どうしよう。どうしても私情が絡んでしまう。お兄様ならどうするんだろう。
...でもお兄様が愛している村だ。
そんな大事な村をなくすわけには行かない。
「決まったか?」
そうだった。私の思考は死神さんに筒抜けだった。
「...はい。わたしは現世へ戻ります。」
「そうか...」
死神さんはどこか悲しそうな感情を込めた発言をしました。
選択を間違ってしまったのでしょうか?
「いや、お前さんが決めたことだ。それに関して俺は何も突っ込まねえ。再三いうが、時間軸はランダムだ。」
「そしてもう一つ。」
そういうと死神さんはまたまた新しいタバコに火をつけ、サイコロを二つ取り出す。
「これが最後の条件。内容は詳しく言えねえ。言えるとしたら、これはあくまで俺のための保障だ。」
サイコロが振られる。
なぜだかそのサイコロの目が出る瞬間が長く感じる。
いや、違う。死神さんが発している...なんだろうこの感情は。
本気、覚悟というか情け、悲しみというか。
なんとも形容しがたい感情だ。
ようやく、サイコロが、止まった。
4のゾロ目。
「なるほど。なかなか運はいいみたいだな。縁起はよくねえがな。」
「これは...?」
「さっきも言ったが話せねえ。だが、日常に何かしらの変化が起こったらちゃんとカウントしておけ。」
「...?」
「44回だ。いいな?」
死神さんが指を鳴らすと同時に私の意識がなくなった。
...
「敢えてその道を選んじまったか...強制できないのが辛いルールだよなあ。」
「...最悪の結果だけは出さないでくれよ。ラミナ。」
「さ〜て、最後に一本だけ吸って戻るか。」




