061 全滅
歩を進めるのはいいのだが、どんよりとした空気が立ち込めている。
リリやローズが言うには瘴気に近いものだという。
戦闘経験がある俺達にはあまり気にする程度で無いようだが、だからといって長居すると取り返しがつかない後遺症を患うかもしれないとのこと。
しかし...なぜこのような場所があるというのにアルヴァルトの国民は全く気づいていないんだ...?
疑問が残る中進んでいくと人影が見えた。
どうやら1人のようだ。
このような場所に1人でいるだなんて。とにかく避難するように警告だけでもしなければ。
駆け寄り、その人物に近づく。
顔を見るなり驚いてしまった。
ラミナが大切に飾っていた写真のお兄さん、ラーヘイがいるではないか。
「ラーヘイ...さんですよね?」
「...」
人違いだったのだろうか。
返答もなければ、俺の言葉が聞こえていないのか、背を向けたまま、微動だにしない。
「ちょっと...達人...」
「ラーヘイさん!?帰りましょう!ラミナが待ってますよ!?」
あまりの無反応さにリリの言葉を聞き入れず半ば怒鳴るようにしてラーヘイに言葉を投げかける。
「おい、達人。お前は節操というものを覚えた方が良さそうだな。」
確かに嫌な予感はしていた。
ようやくラーヘイがこちらを向いた。
首だけ。
フクロウのように首を180℃曲げて顔がこちらを向いている。
さすがにパーティみんなが固まる。誰もが動かなかった。
普通の人間だと思っていた人がこのような動きをするだなんて。
その瞬間。ラーヘイが口を開いた。
人間の限界を超えた開口をしている。
次の瞬間。
蔦のような太いロープ状のものが口から飛び出してきた。
1本だけではない。複数だ。
数え切れないくらい。ラーヘイの体型から考えられないほどの蔦がこちらへ襲ってくる。
俺は前衛。
後衛を守らない訳には行かない。
迫り来る蔦をできる限り切り落としていく。
ベストを尽くしたつもりだが、何本かを取り逃してしまう。
ローズは持ち前の銃の腕前で蔦を退けていく。
一方リリは水の魔術を使い蔦を切り落としていく。
水を圧縮し、まるでビームのように発射し切り落としていく。
「リリ!あいつは蔦を使っている!!!炎の魔術が最適だろうが!!!」
リリに向かって怒声を浴びせる。
「あんた馬鹿じゃないの!?周りは森よ!?こんな所で炎魔術なんて使ったら、山火事どころじゃないわ!アルヴァルトまで被害が及ぶわ!」
リリの言うこともごもっともだ。
周り、いやこの国はほぼ自然の緑だらけだ。
下手に炎の魔術なんて使ってしまうと、俺たちだけじゃない。
国の人たちの命も危うくなってしまう。
「他人の心配する前に自分の対処に集中なさい!!!こんな多くの蔦、処理しきれ---」
「あぐあぎゃあああ!!!!」
リリが蔦に巻き付かれてしまった。
早く助けなければ。
こんな瘴気を放っている場所での戦闘。
ただで済むわけがない。
「チャップ!!!...しまった...!?」
「あああきゃあああああ!?」
チャップとローズまで...!?
どうする!!!
チャップはすでにビリビリと破られ、原型を留めない程に裂かれていた。
綿と銃弾が落ちていき、銃弾は自然消滅していく。
ただごとではない。
速く。
速く!!!
仲間を失う!
蔦を切りながらリリとローズの元へ向かう。
しかし。
「ぱぎゃあああああ!!!!」
「こ゜ぱあぁぁあああああ!!!?」
リリとローズの身体に巻きついていた蔦が人間の身体に耐えられないほどの締めつけを行う。
身体はまるで雑巾のように絞られ、一般の人に想像できるようなウエストサイズではない、とにかく細く。10cm程まで絞られている。
地面には鮮血が滴り落ち、地面へ吸収されていく。
嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ。
こんなことがあってたまるか。
動揺して動けない俺の首に蔦が絡みつく。
苦しい。
しかし抵抗する気力がない。
仲間が目の前で死んだ。
苦しい。
蔦の締め付けが増している。
ボキッ
どこからか音がした。
不思議なことに俺の背中が見える。
そんなに身体は柔らかくないはずだが...
意識が遠のいていく...眠い...
重要な依頼があったはずだが...
とにかく、眠い。眠ろう。明日は明日の俺に任せよう。
視界が暗くなり、俺は完全に眠りに落ちた。
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やはり達人様方では荷が重いか...
これで何回目だっただろうか。
それにもう回数がない。
同じ光景をずっと見ているが、何も変わらない。
お兄様を救うことが私の最優先のタスク。
でもあいつらはやはり役に立たない。どうしたものか...
あの出来事は全部私のせい。
そう。全部私が悪いのだ。
私のせいでお兄様があのような姿になってしまった。
自業自得と言うべきか。
達人様は何回も死んでしまっているが、何度も私の依頼を受けてくれる。
相当お人好しだ。というか記憶が無いからいつものように事が進むだけ。
だからといっていつまでもその優しさに甘える訳にはいかないというわけか。
私に天罰が下ってきているのだろう。
さあ、もう一回だけ戻ろう。
多分体力的にこれが最後...
そこでこの私の罪を終わらせるんだ...




