059 アルヴァルト観光旅行
「ほんっとうに何もないわね。」
今日はアルヴァルトの実態を調査する予定だったのだが。
リリの言うように全く何もない。
見渡す限り自然が広がっていて、平和そのものである。
かといって、大きな事件があるわけでもない。
「お姉さまに報告して次へ向かいましょうか。」
「何もないだって~?」
「うおっ。」
「昨日のコーラ屋の...えーと?」
「あれ。名乗ってなかったっけ?私はガラナ。よろしく!!」
突っ込むべきか。
「そんな事より...この国が退屈って聞き捨てならない話が聞こえてきたんだけど...」
「いや、退屈と言っていたわけでは...」
「とんでもない!!ここは自然の国アルヴァルト!!自然研究の成果も見ずしてアルヴァルトを語ろうなんざ、迂闊もいい所!!」
「さあ、こっちこっち!!」
ガラナは両手を高く掲げ、手招きをする。
「リリ?」
「ま、ちょっとした暇つぶしができたみたいね。お姉さまに報告できることが増えそうだわ。」
ガラナに言われるがまま着いてくとそこは。
先日のあのやせ細った少女の家だった。
「ここは?」
「ここはあの有名な自然科学者...と言ってももういないんだけど。その妹さんが住んでいる家さ!!」
「今じゃすっかり落ち込んでるけど、お兄さんの能力をしっかり受け継いでいるのさ!!」
「家にいるはずなんだけど...出てくれるかな~?あ、ごめんけど私は休憩時間終わっちゃうから、案内はここまでにしとくね!」
といいつつ、ガラナはコンコンとノックをする。
ノックをした瞬間にガチャと扉が開く。
「うへへ...タツト様...」
という不気味な笑顔と主にあの少女が現れた。
「こ、こんにちは。はじめましてだったよな?」
「え...?」
意外という顔をされてしまった。
「なんで俺の名前を知ってるのかなぁって思って。」
「う...それは...」
心底困っている様子だ。
何故かリリに睨まれる。
「まあまあ。ラミナは風の噂で聞いたのさ。だって自然科学者だし?」
それはなにか違う気がするが、納得しておこう。
泣きそうになっているラミナを見て気にしないことにした。
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流石は自然科学者。
小学生並みの感想だが、やはりこの一言に尽きる。
ラミナの家...研究所...というよりは果樹園と言った方が伝わりやすいだろうか。
植物が育ちやすい気候にセッティングされた部屋ごとに栽培を行っているようだ。
ラミナ曰く、ほぼ全世界の植物がそこに集約されているという。
かのエミーが作った臭い湿布の原料も育っていたが、もうあそこには立ち入りたくない。
まず寒い。
行ったことはないが、南極や北極を連想させる雪景色。
いくら厚着をしても寒く、その部屋を抜けた時にはあらゆる体液が固まっていた。
鼻水がつららになるとは。しかも俺だけ。
漫画でしか見たことないぞ。
みんなに盛大に笑われたのは言うまでもない。
それにしても、やはり地球では見たことない植物ばかりでなかなか面白い。
後付けで不要に近寄らないようにと注意されたおかげで死にかけたが。
人喰い植物があるとは聞いてなかったぞ。
最も目を引いたのが蘇生する方法。
植物限定だが。
枯れた植物に何かしらの液体をかけると、その部分から新しい芽がすぐに生えてきた。
新しい芽が生えるまではすぐだが、育ちきるまでは普段通り世話をして待たなくてはならない。
お国柄ということもあり、食糧難を避けるために開発をしたらしい。
国は精霊によって保護をされているとはいえ、天候までは保障されないらしい。
アルヴァルト特有の気候でそんなに頻繁ではないが、夏と冬のみが巡り、その期間は不定である。
1ヶ月で真冬というのもありえるという。
そのせいで、食料となる植物が絶滅してしまうリスクがある。
最悪の場合に最低限の食料を出せるようにと、ラミナは植物管理を任されており、結果的にこのような果樹園を構えるまでになったそうだ。
「ここまで広くなっちゃったら、そもそもこの蘇生薬も必要ないんじゃないかって思うんですけどね...ねえ?達人様...?」
「まあ、そうだよなぁ...」
それにしてもなんか慣れてきたな...ラミナにこう呼ばれるのも。
二ーロの件もあったし、意外と噂になってるのかな?
そう考えると悪い気がしないのも...俺も単純というか。
「ん?この写真は?」
研究所を一周して戻ってきた。
棚があったのだが、ひときわ目立って輝いている写真たてがあった。
「あ...それは私とお兄様、ラーヘイの思い出の写真です...」
ラミナの表情が曇ってしまった。
しまった。
国民の話でも聞いていたが、お兄さんは行方不明という話を聞いていたはず。
それにしても、この写真のラミナは眩しい笑顔を放っている。
いまとは大違いだ。髪も綺麗でクマも全くない。
相当お兄さんのことを慕っていたのだろう。
「ラミナ、すまない。辛いことを思い出させたな...」
「いえ、そんな!...わたしも思い出の写真として飾っているだけですし...」
そうこうしているうちに、ラミナがご飯を振舞ってくれるとのことだ。
この国では菜食のみとのこと。
腹は膨れるのか?という疑問もすぐに吹っ飛んだ。
サラダが主だが、肉っぽいのが出てきたのには驚いた。
見た目はよく見る緑の大きな葉っぱ。
しかし分厚い。5cmはある。
それに鉄板に乗ってジュージューと音を立てていてなんとも美味しそう。
「これは?」
「葉っぱステーキです...見たまんまの名前です...へへ...美味しいですよ....?」
「鉄もあるんだな。ガラナなんかは久々に見ると言ってたけど。」
「そうですね...この研究所の建造物等、意外と使われてるんですけど、みんな自然のものと認識していて、鎧のような加工されたものは初めて見たという意味かと...」
「なるほど。普段使うものは自然からできたもの...それが共通認識とかいう感じ?」
「そうそう!端的には...!金属のように硬い植物もありますし、自然がたくさんなので、鉱石もありますし!」
「達人!これ美味しいわよ!まるでお肉!」
「ジューシー。」
「まるで観光旅行している気分だな。」
「これも仕事の一環よ!!!食からいろいろと学ぶことは多いんだから!」
確かに口へ運んでみるとおいしいのなんの。
植物特有のせいか水分が多めで熱いくらいだが、味はまんまお肉。
肉汁ならぬ葉汁。
肉では味わえないような食感が舌を刺激する。
葉っぱくさいということもなく、まろやかな味...
そう、まるで森の中、緑一色の新鮮な空気の中で味わうようなステーキの味。
「これは美味いッ!!!」
「でしょ〜!!!おかわりあるっ!?」
「リリ〜。食べすぎると太るぞ〜?」
「それには心配ご無用...腹持ちもいいのですが、やはり菜食...カロリーも低いですし、食物繊維たっぷりでダイエットにもってこいです…」
「ほ〜ら、ラミナ様々よ!!!」
「まあ、あえていうなら、食べ過ぎも毒という言葉もあるぜ?」
「そこのぬいぐるみ!黙らっしゃい!!!」
騒がしいながらも、アルヴァルトグルメを堪能したのだった。
「ところで、タツト様...ニーロでの活躍をお聞きしまして...お願いがあるのですが...」




