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005適合者

「私の名前はルルとお呼び下さい。」

「私はリリでいいわ。よろしくね」

「保護観察対象としてあなたをこの城で面倒を見ますので、何なりとお申し付けを。」

「突然変異起こさないでよ~?」

突然変異...?と聞き返す間も無く話は終わってしまった。


あれから1週間が経った。

城から出るなというものの、出ることは叶わなかった。

さすがお姉さま。

どこに行くにもメイドがついてくる...といってもここのメイドは予想の範疇を超えている。

俺が欲するものをノータイムで用意する、それでもって、料理の腕も最高で、ほっぺたが本当に落ちそうになったり、そのメイドがベッドメイクをしたらもうおしまいだ。

一瞬で魔境だ。冗談じゃなく。魔境へと変貌する。

ただし、家事だけではない。

運動能力、というかその。

姿が見えないからと、外にちょっと出ようなんて勝手な行動をしようとすると、

「達人様、どちらにいかれるのですか?」

すぐに拘束されてしまう。

逃がさないぞ、というような気概さえ感じる。

とまあ、そんなメイドが平凡な一般人である俺についている。

城にいること以外なんにもできやしない。

それに。

最初の3日間はベッドの上だった。

魔境(ベッド)」のせいではない。

身体が燃えるようだった。

熱く、焼け焦げるような、強力な酸に浸かり、溶かされているようでもあった。

あの姉妹曰く、適合現象だったようで、まず普通の人間の場合、運悪く現象が起きてしまうと、乗り越えられず発狂し死亡するらしい。

運よく適合者だった俺は峠を下ることに成功したのだが、異変はそれだけではなかった。

力持ちになった。

身体がムッキムキのマッチョになったとかそういうわけでではなく。

見た目が変わらないのに、すごく力持ちになった。

先日リリが言っていた突然変異という言葉に引っかかっていたが、これのことだったのか?

突然変異という意味合いからゾンビになってしまうとか。

リリの言い方から死に関する意味合いが強いと思われるのだが。

それより力持ちになったくらいで悩んでいるなんて、雪花が捕らわれている今、考えることにしてはあまりにもちっぽけだと思う。

だが、度が過ぎているのだ。

適合現象がおさまりつつある日、自室のベッドで食事をとっていたのだが、フォークを落としてしまった。

フォークはどうやらベッドの下へと転がり込んでしまったらしく、手を突っ込んでも全然届かない。

このベッド邪魔だな~、とどうにかずらしたり持ち上げたりできないだろうかとあきらめ半分でベッド下をのぞき込んでいる姿勢から片手で持ち上げたところ。

持ち上がってしまったのだ。

俺の体には大きすぎる、お城サイズの大きいベッド。ついでに天蓋までついている、とてもかわいらしいもの。

それでもって、大理石でできている、目玉が飛び出るような値段をしているのだろう重量級のベッド。

持ち上がってしまったのだ。

片手で。

驚き、すぐに報告へ向かう。

城のトイレが女性用しかないという事実よりもびっくりした。

女性と共用で使うようにとルルからぶっ飛んだルールを提示されてしまった時よりもびっくりした。(個室だからいいものの...)

「あら、どうかされましたか?」

ルルはいつもの優しい笑顔で対応に入ってくれる。

「ベッドが!!ベッドが!!じゃなくて、持ち上がって!!」

「あらあら、そんな事が。適合現象が収まって、能力が目覚めたようですね。」

なぜ伝わってしまったのかは置いておこう。

ミステリアスなお姉さまなのだろう。そう納得しておこう。

「さて、この世界は稀に能力開花のような現象が起こります。リリや私のように魔術が使えたり、極端に動きが速かったり、知能が優れていたり、あなたのように力が強かったりします。ちなみにその能力は超筋力と呼ばれています。」

「あくまで一例で開花する人はまれですけど。適合者ではない人も発症してしまうので、悪魔の気まぐれとも呼ばれていますが…まあ、個性のようなものと捉えてください。」

ああ、もうやっぱりファンタジーなんだな。

それが俺に起こってしまったと。たまたま生き残ったと。死にかけるのは実は2回目だったのか。

「そうですねぇ。百聞は一見にしかず、です。明日リリとお使いを頼みましょうか。」

「外にでられるのか!?」

「すごくうれしそうですね。でも、リリと一緒です。離れることは許しません。」

ずっと城にいて外が恋しかった。

あいつの事もある。

監視役のリリがいるようだが、ちょっとでも雪花に近づけるようになったんだ。

嬉しくないはずがない。

「そのようすだと、決まりですね。あ、ちょっとこれを。」

ガチャリ。

なにやら首輪をつけられてしまったようだ。

犬か。犬か俺は。ワンワン。

「ちょっ、なにをするんだ---

「あなたの力はとにかく強いみたいなので。それも私達では抑えきれないくらいに。」

声のトーンを下げてルルが話す。

「城を抜け出されて死んでしまった。なんて話を聞いたら寝覚めが悪いです。一応の保険として制御をさせていただきます。無礼をお許しください。」

そもそも城を抜け出そうなんて考えもつかなかった。じゃなくて。

「なんだよこの首輪は!!すごく屈辱的なんですけど!?」

「申し訳ございません。でも着け心地はいいでしょう?まるで何もつけていないくらいに。」

「確かに…じゃなくて、首輪なんてもんじゃなくて他の方法はなかったのか!?」

首輪に手をかけ、外そうと試みる。ダメだ。びくともしない。こんな軽いものなのに。

勢いよくひっぱったせいで、咳が出る。

「私が示す方法でしか外せませんよ。」

「それに、ほかの道具となると...猿轡と、制御マークをつけたり...この場合おでこに刺青のように制御と浮き出るのが難点ですけど。」

「それと手錠ですね。これは重さが20kgありますし、その力を制御するので筋肉痛は防げないでしょう...あとはアイマスク...目隠しですね。これも首輪同様外すことができませんが。他には---

「もう首輪でいいです。いや、首輪がいいです。」

「そうですか。よかったです。」

選択肢は少なかった。というか一つだった。ひどすぎる。あきらめよう。

「では、明日。おつかいお願いしますね。」

そう言って、この件は解決?したのだった。

部屋に戻り、制御の話が気になってベッドに手をかける。

びくともしない。

やはり制御はこの力持ちになった現象を抑えるものだったのか。

それにしても城を抜け出せるであろう力だったとは。

そんなに...いや過信は禁物というやつだろうか。

死の可能性を提示されたばかりだ。

あまり調子には乗るべきではないのかもしれない。

あのリリと「おつかい」か...

なにやら嫌な予感がするので、体調を万全にするのに務めるおれだった。

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