004奴ら
「先ほども聞かれたとは思いますが、結果から言ってあの女性の方は無事です。保障いたします。」
そんなのにわかに信じられるわけがないだろうと言いたかったが、口が開かない。
仕方ないので、話が終わるまでおとなしく聞くことにしよう。
「賢明な判断です。妹の魔術はまあまあ強力ですから。」
「一言多いのよお姉さまは...」
お姉さま、に優しく微笑まれる。
しかしこの笑顔を見るだけでなぜか忠誠心が湧いてくる。まるでお姫様のような...?
もちろん今はそんな場合ではないのだが。俺は焦っている。
「あなたが登校中、突然襲われ、彼女が連れていかれたという肉塊、異星人ですが---
待て...?何故彼女は事情を知っている?
おれからは何も話していないはずだ。
---っと、あなたはなかなか聡明ですね。」
お姉さまは何かを察したようだ。見た目にそぐわず、中身はかなりの大人のようだ。
「失礼ですが、記憶を少しだけ覗かせていただきました。あなた方が異変を体感した時からの記憶を。」
「それ以前の記憶は覗いていませんのでご安心を。プライバシーの問題もありますし、必要以上の情報を覗き見てしまうと誰がやろうと重罪になります♪」
彼女が何を言っているのか全然わからない。
俺はこうも遠いところへ来てしまったのか。
「とはいえ、あの異星人、名前がないのです。しかも雄だけの種族です。」
「彼らの活動指針はひとつだけ。欲望のおもむくままに活動をする。その活動にあなた方は巻き込まれたわけです。」
「彼らは地球に奴隷と繁殖用の雌を求めてやってきて、彼らの国にあった適合者を探していたみたいですが、その適合者を探すプロセスでほとんどの生物が消えてしまいました。」
「そもそも地球に侵略すること自体が禁忌なのですが...その行動の真意は依然不明のままです。」
「いわば私とあなたははたから見たら宇宙人です。交流があるならまだしも、接点のない場所への転移は許可がいるのですが。彼らはそれを承知で行ったのでしょうか?」
宇宙人...確かに見た目はそのようなニュアンスというか、それ以外に表現する術がない。それに侵略の時...頭痛もあったが、誰一人もいなかった。
「宇宙人」を見て皆隠れていたのだろうか?
「そう。激しい頭痛を伴うあの会話のような音。あれで大半の人間は無に帰しました。跡形もなく。人間様方のご冥福をお祈り致します。」
「ただ、あなた方を除いて。あなた方は唯一の生き残りになります。人間最後の。」
人間が...一瞬にして...絶滅...?
俺たちだけってどういうことだよ。
いきなり全部消えた?信じられるか。
「心中お察しいたします。誰もがいきなりそんなことを言われてもーーー
にわかに信じられるか。そんな、目の当たりにしたわけじゃない---
「はぁ〜その表情、あなた。実際にその惨状を見れるとして、見てからあなたはどうするの?」
「っ...」
信じてないが、確かに見てどうなるというんだ。
それこそ目の当たりにしたら精神がもたないんじゃないか?
意思表示として、首を横にふる。
あいつにはどう説明したらいいだろう。
あいつは本当に無事なのか?
目で問いかける。
「さて、あなたのお連れ様ですが、安心してください。無事です。嘘なら私の命を捧げても構いません。」
「まあ、お姉さま。そんな勝ち確定の賭けなんてしたって面白くないわ。」
妹さま、はコロコロ笑い転げている。性格は全然似ていないなこの二人。
それにしても、笑っている場合か。
今俺がどんな気持ちでいると思っているんだ。
「だって彼らは臆病者の童貞と考えてもいいのですから。」
「お姉さま!?」
は?
なんだって?
なにを言い出すんだこの人は。
「偵察軍からの情報を聞く限り、彼らは知能のある、コミュニケーションをとれる異性に対して繁殖を成功させたことはありません。」
「むしろ繁殖に必要なセックスまでたどり着くことができていません。」
「お姉さま!?ダメですそんな言葉遣いなんて!!」
全くだ。あまり汚い言葉は綺麗な女性にはふさわしくない...じゃなくて。
なにを言い出すんだこの人は。肩透かしを食らってしまった。
あいつらの態度や言葉遣いからしてあきらかに童貞要素を感じることができない。
ひたすら強者。そのようなオーラしか感じなかった。
対峙した俺が言うんだから間違いはない。
それを。それを。
「ふざけるなよおおお!!!!」
話せた。思わず手を口に当ててしまう。
ふと見ると、妹さまが手振りでなにやら合図を送ってきている。口チャックを解除してくれたようだ。
お姉さまにビシッと言ってやって!!というような素振りだ。
「よく思い出してください。何故捕まった時に彼女はすぐに犯されなかったのですか?」
「え?お姉さま、それはこの世界に適応して、妊娠できる体になるには時間がかかるからでしょう?」
「あなたはちょっと黙ってなさい。ややこしくなります。」
妹は答えを知っている、口を出すなという事だろう。
「コホン、あなたを縛って、身動きが取れない状態にして、彼女の体を弄って楽しむことだってできたでしょう。」
「適応するまでの間中ずっと。だって彼女はあんなに豊満な---
「お姉さまッ!!!」
妹さまがどこか悔しそうな顔で静止にはいった。お姉さまも心なしか悔しそうだ。
「コホン、現に私達の仲間も奴らに捕らわれています。」
「は!?大丈夫なのか?繁殖とかって言ってたよな今!!」
「だから大丈夫なのです、彼らは童貞---
「お・ね・え・さ・ま・!!!」
「コホン、失礼。彼らはコミュニケーションが取れる異性には全く手が出せない代わりに、戦闘能力が非常に高いのです。」
「そのせいで救出に手を焼いている状態です。あのオーラを直に感じたでしょう?」
…そう。あのオーラ。平和な世界で暮らす一般人である俺でも感じ取れた。
万が一感じ取れなくてもあの見た目じゃ誰でも恐れおののくとは思うが。
「納得いかない点があるな。やつらはそれだと絶滅するんじゃないのか?」
「なかなかいい線をついてきましたね。先ほど私は繁殖用の≪雌≫を求めて侵略を繰り返しているといいました。」
「つまり、コミュニケーションが取れない動物と畜生よろしく繁殖を惨めに繰り返しているのです。」
「その繁殖目的で捕らえられた人たちはひどい仕打ちを受けるんじゃないのか?」
「言ったでしょう?彼らはコミュニケーションが取れる異性には弱いんです。とはいえ繁殖用なので、管理だけはしっかりしているみたいです。偵察軍によると、病気も怪我も全くありません。」
「男は?俺もさらわれたんだが、男はどうなるんだ?」
「奴隷、ですよ。男は使い潰されて確実に死にます。」
信じられない話だ。
しかし、確かに船内でのやつらの行動、助けに来た彼女の鋭敏な判断と行動に合点がいく。
だからあの時雪花に飛びつかず人命優先で俺を助けたのか。
「どうですか?落ち着くことができましたか?」
「マシになった。雪花が無事とは信じがたいが、あんた達も仲間を捕られてるんだもんな。」
「お気遣いありがとうございます。きっと力になりますので、いつでもお申し付けを。」
「とりあえず今日は休んで、後日またお話をしましょう。衣食住は保証しますので、ご安心を。」
「あと、この城からは一歩も外出しないように。」
「...この国、ルズベリーには女性しかいませんからね。」