030ニーロへ
「ダンジョンを攻略されたようですね。」
帰るやいなやルルに見透かされたように言われる。
「では、もうそろそろ出発となるのですね。」
ダンジョン攻略にはもっと時間がかかる予定だったのだが、途中でいざこざがありすぎた。
すっかり俺のレベルアップは済んでいたようだ。
「そうね。ようやく私も役立つ時が来たのよ!!お姉さま。」
「その前にRed Lips.の二人にもあいさつしないとな。」
出発の日。
Red Lips.へとあいさつをしに顔を出す。
「昨日来たばかりと思ったら、もう出発なのね~。」
「リリ、回復薬たくさん持ってくの。」
「リリの好きなトマト味ができたの。」
「あら。もう、エミーったら。先にコーヒー味作りなさいよ。もう。」
「それはいつでも作れるの。リリ、帰ってこなくなるの?」
「そうね~。旅に出るんだもの。」
「コレ覚えていくの。」
エミーは床に描かれた魔法陣をリリに見せる。
「これは...ふむふむ。転送魔法陣ね。」
「到着先は...Red Lips.。」
「それってもしかして...」
「そう。国に設置してある魔法陣にちょっと組み込めば、ここへと飛んでこれるわ。」
「いいですわ。腕が上がりましたね。リリ。」
「...お姉さま?」
「リリなら読めると思っていました。エミーがどうしてもというので。」
「それとこれを。」
「ピアス?」
「簡単にですが、私と連絡を取れます。」
「なにかあったら連絡するので、返事はしっかりお願いしますね。」
服の裾を引っ張られる。
「お兄ちゃん、本当は行っちゃヤなの。」
「でも、これでいつでも戻ってくるの。待ってるの。」
エミーはボロボロ泣いている。
「あー、エミー泣かした~。」
「達人ちゃん最低ね~。」
「あなたがそんな人とは...」
「ひどい!?」
まさかのブーイング。さすがに俺も失笑。
「泣くな。エミー。」
「俺はみんなを笑顔にするんだ。この不幸を絶対に終わらせてやるからな!!」
「うん。うん。頑張るの。お兄ちゃん。」
「おう!!」
---------------------------------------------
「早速のお願いなのですが、行ってほしいところがあります。」
「ニーロへと最初に向かってください。」
「ニーロ!?」
リリの目が急に輝きだす。
「ニーロって言ったら、すべての欲が満たされるっていうあの、理想郷って国じゃないの!!」
「でも、あそこは審査を通った人間しか入れないんじゃなかったかしら?」
「はい。大丈夫です。私の顔を通しています。しかし理想郷というのは違いますよ、リリ。」
「欲の塊です。我慢を知らなければあっという間にすべてを失うことになります。」
「それに我慢できたとしても、欲が満たされるのです。」
「みんな中毒のようになって入り浸るようになってしまいます。」
国はそれを防ぐために、今では入国審査を厳しくしているとか。
そのせいか国は、大富豪のみが通う国となって経済的に潤っている。
「そこへと飛んでいける魔法陣が効力を無くしました。」
「それって、奴らがやったんじゃないの?」
「わかりません。最近はさっぱり察知できません。」
「察知って?」
「ほら。あなたを助けに向かった時。」
「奴らは派手に空間を割って登場するからね。わかりやすかったんだけど。」
「頭を使ったのか、最近はさっぱりどこで何をしてるかなんて察知できたものじゃないの。」
「確認するだけでいいので、まずはニーロへ。よろしくお願いします。」
ルルが馬車を用意してくれた。
初めて馬車に乗った。
物語で見るような立派な馬車。
乗り心地は言うまでもない。
「どのくらいかかるんだ?ニーロまでは。」
「ちょっと遠いけど、一応隣国だからね。馬を走らせれば1日で着くわ。」
「今は馬車だし...3-5日はかかるかしらね。」
「奴らの居場所はわかってるんだよな?直接行ったり、例の魔法陣とやらで行ったほうが早いんじゃないか?」
「そんな単純な話で済んだらいいわね。」
「確かに居場所はわかってるけど、直接向かうのはおススメできないわ。」
「まず魔法陣は登録する必要があるのよ。でないと飛んでいけないし、私は奴らの居場所に行ったこともないし、奴らの居場所に魔法陣は無いわ。」
「それにルートが限られているのよ。偵察軍のようにうまくこなせるのならいいけど、彼女達はいつでも死ぬ覚悟ができているのよ。だからこそうまくいく。」
「とにかく身軽に動けるように武器は携行していないわ。中には超速能力者もいるわ。それに気配を消すのがすごくうまいの。」
「私たちのように武器を携行していたらアウトね。武器を携行するということは少なくとも殺気を放つことになるわ。万が一奴らに感づかれたらやられる可能性が高いわね。」
「感付かれないように、ちょっと遠回りをしてでも向かう価値があるのよ。ニーロの魔法陣はついでね。」
「それに道中での戦闘は少なからずあるわ。なによりも戦闘経験を積まないと、瞬殺されちゃうわ。それもついでね。」
「お姉さまから適切指示があると思うから、それに従っていけば安泰よ。」
「まあ、そんなウマイ話なんてないよな。聞いてみただけだ。すまん。」
「それにしても、お前本当になんでもできるよな。」
リリは御者台に座り、手綱を握っている。
「馬を操るなんて、小さいころから習ってたわ。」
「意外とお嬢様なんだなー、リリって。」
「ふふっ。よく言われるわ。おてんばって。」
「俺にも教えてくれよ。なんか難しそうだけど。」
「そんなに難しくないわよ。背中に乗るわけじゃないもの。」
「手綱を引っ張るだけで操れるのよ。」
リリは俺に手綱を握らせる。
「でも、あまり強く引っ張りすぎちゃダメよ。」
「馬も動物。生きているからね。それに手綱をつける口周りは特に敏感で、強く引っ張ると混乱するわ。」
リリに教わるとおりに操ってみるとこれがなかなか面白い。
道を曲がるのに、手綱を左右にちょっと引っ張るだけで、思い通りに曲がってくれる。
軽く引っ張ると、しっかりと止まってくれる。
まるで意思疎通ができているかのようですごく楽しい。
「どう?」
「楽しいな。これ。」
「そうでしょう。これから私たちの旅の足として頑張ってくれるのよ。」
「感謝しなさいよ。達人。」
そう、俺たちの旅が始まった。