029ハーマリーのダンジョン
ダンジョン事件とヨハナ事件があってからというものの。
俺は十分にレベルアップをしていないため、旅に出ることができず。
最近は稽古ばかりしている。
そんな悠長にしていられるのか。と聞かれるとちょっと痛いが、大丈夫ではある。
世は名無しの異星人一強時代だ。
しかし、偵察軍のおかげで、捕虜は未だに無事なのを確認している。
それにこの国ルズベリーはルルの結界のおかげで安全だ。
なんにせよ時間は経ってはいるが、安全を確認できる限りは急ぐべきではない。
焦っては死に急ぐだけだ。
そうならないように俺は稽古に没頭している。
のだが。
やはりリリには勝てない。
つくづく俺は魔術使いと相性が悪いことを実感させられた。
先日のヨハナとの戦いで聞いた、魔術発動条件。
リリにもあると言っていたので、探ってみた。
おそらく、条件は足を踏み鳴らすこと。
魔術使いにしては動き過ぎな気がする。
ヨハナとは正反対なのだ。
常に動き回って、俺を圧倒してくる。
リリに聞いても、やはり弱点なのかはっきりと教えてくれなかった。
どうしても勝てないので、リリがダガー使いとのこともあり、近接戦の稽古をお願いすることにした。
俺は無痛の長い棒。
リリは、ダガーサイズの短い棒を二本。
「なかなかやるじゃないのっ。」
なかなか緊迫した戦いになってきた。と、思う。
最初はやはり勝てなかった。
いくら動きが見えるとはいえ、見えるだけ。
すばしっこく攻撃を仕掛けてくるから、どうにも剣の振り方が定まらない。
こちらのほうがリーチが長いので、俄然有利と思っていたのだが。浅はかだった。
斬った!!と思っても、リリは避けている。
もしくは、あんな短い棒で見事にキレイにさばかれる。
丸腰のリリを叩くのとは大違いだ。
振り切った棒の先につま先で乗られていた時はさすがに屈辱だった。
同時に感嘆もしたが。
「なあ、さすがに俺基礎がないんだし、そういうのから始めたほうがいいんじゃないか?」
「なーに言ってんの。あなたバカねえ。」
バカ呼ばわりをされてしまった。ちょっとムッとする。
「確かに時間はあるかもしれない。けど、いつ奴らが動き出すかは私にもわからないわ。」
「手が届きそうなところまで来たってのに、絶望の光景なんて見たくないでしょ?」
「今は大丈夫だけど、それは今だけ。」
「時間は無限にあるわけじゃないの。そんな基礎にいくらか時間かけるなら、実践して、体に身に着けたほうがはるかに早いし、楽よ。」
「それに、あなたはそれに適応した能力を授かっているはずよ。」
おそらくリリもそうしてきたのだろう。
戦争が間近にあったというのに、戦闘レベルが高い。
「さあウォーミングアップも済んだし、いくわよ!!」
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つらい稽古が終わったと思うと、すぐにダンジョンに行くことになった。
どうやらハーマリーがダンジョンの変更を終えたらしい。
まだ1フロアしかないが、手ごたえはありそうだ。
以前は全く目にしなかった冒険者たちの姿が見えた。
支持がもどりつつある。
「達人!!後ろ!!」
「うおっと!!」
もちろん俺たちはツーマンセルで潜入している。
もちろん以前のようなまっすぐなダンジョンではなかった。
道に松明がたかれていて、道の確認もある程度しやすくなっている。
それにモンスターの奇襲。
前回とは違い、刺激がある。
モンスターではなく、ウルフの大群が待機していた時は正直驚いた。因縁の仲だ。
ダンジョンは住み心地がいいのだろうか?
それにしても楽しい。今まさに命がけの戦いをしているはずなのだが。
脳内麻薬がドバドバ生成されている。
あっという間にダンジョン攻略をしてしまった。
「どうじゃった!!?わしのダンジョンは!!」
相当頑張ったのだろう。
ハーマリーは今か今かと俺たちの評価を待っている。
今にも取れてしまいそうな勢いでしっぽをブンブン振り回している。
「すごく楽しかったです。」
「むふふ~。そうじゃろそうじゃろ~。」
「私にはちょっと退屈だったかしらね~。」
ハーマリーはちょっと不機嫌そうにする。
「リリ殿、だったかの。」
「聞けば、ルズベリーを代表する冒険者なんだそうじゃないか。」
「そりゃ今は一階しかないんじゃ。リリ殿には赤子の手をひねるより簡単じゃろう?」
「それもそうね。ごめんなさいね。」
「わかればいいんじゃ。」
「しっかし、あなたとパートナー組んで大丈夫かと思ったけど、意外とコンビネーションはいいみたいね。」
「意外ととはなんだ。意外ととは。」
「最初あんな感じだったから~?」
「ブッ...もうわるかったよ。」
「そういえば、モンスターの襲撃があったけど、以前はなかったよな?あれは制御できないんじゃなかったか?」
「あれか?あれはモンスターの出現ポイントを通路とは別に一室つくったんじゃ。」
なんと...かわいそうに。閉じ込められていたのか。
「そのせいで、モンスター数がかなり増えてての。」
「お主らが踏破してくれたおかげで、ある程度減らすことはできたじゃろう。」
なんだって。
「まだ出来たばかりじゃが、また来てくれるか?」
「もちろん。」
「いや~。初踏破者が出て本当によかったわい。」
「え?俺たちが初なのか?」
「そうじゃ。他の者はみな途中でリタイアじゃ。」
「どうせ怠けてたんでしょ~?そりゃあんな簡単なダンジョンもクリアできないんだから。」
リリの発言が聞こえていたのか、ほかの冒険者がムキになってダンジョンへと突入していく。
「あーあー。こりゃ忙しくなりそうだわい。」
言葉のわりには、嬉しそうだ。
耳が空を突き抜ける勢いで立っている。
「腐っても冒険者ね。向上心は大事よ。」
「ダンジョンへとけしかけるつもりで...言ったんだよな?」
「もちろん。」
「ああいう冒険者たちがいるなら、当分はこのダンジョンも安泰ね。」