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026矜持

「それで、こんなダンジョンになったのは理由があるのか?ハーマリー。」

「それなんじゃが...」

かわいそうに。リリに怒鳴られたせいで、声がすごく震えている。

ルズベリーの変形ダンジョンは、多くの冒険者に支持を得ていた。

以前にも話に上がったが、不定期に変形するため、戦略を立てにくく、挑戦しがいがある。

しかし、有名になり過ぎた。

関係ない立場にもかかわらず、このダンジョンが有名になるのを不愉快に思った冒険者が一部いたようだ。

ダンジョンをリタイアした時に、ダンジョンクリアした時と比べて時間は短くなるが、時々マスターと面会することになっている。

話すうちに、彼女が意外にも弱気な性格だということを見抜かれてしまった。

それから、マスターであるハーマリーはダンジョンが難しすぎると罵声を浴びせ続けられた。

それが一組の冒険者なら聞く耳を持たずともよかったのだが、その冒険者は仲間を集い、ダンジョンを潰しにかかった。

日に日に大きくなる罵声。

ハーマリーはダンジョンの変更を余儀なくされることになった。

それでも罵声は減らず、ほぼ毎日ダンジョンの変更をする。

訪れる冒険者の数が減っていることに気づかず。

いや、気づこうとしなかった。支持がなくなっていくのを認識してしまうから。とにかく罵声から逃げたい。

今のような、一本道になるころには、訪問者はいなくなっていた。

そこに久しぶりに俺たち、訪問者が現れた。

そして久しぶりにクリアされた。

それはそれは嬉しかったのだろう。

そして怒鳴られ、現在に至るというわけだ。

「冒険者のクセしてとんだ小心者ね!!そのイチャモンつけたヤツは!!」

「全くだ。よってたかって情けない...まるでイジメだな。器が小さいにも程がある。」

「そうよね!!よってたかって!!遅かれ早かれ野垂れ死にね!!そんな根性してたら!!」

「...なあ。」

「「()!!?」」

「ひっ。」

「あ、いや。すまない。なにもハーマリーを責めてるわけじゃないんだ。」

「なぜわしを責めないのじゃ?」

「こんなにも情けないダンジョンになってしもうた。」

「わしも気づいておったのじゃ。このままじゃだれも寄り付かぬと。」

「そんなのハーマリーだけが悪いわけじゃないわ。」

「そうだ。そいつらはハーマリーの弱いところに付け込んで、信用を落とそうと企んだんだ。」

「そんなことを考えるほうが悪いに決まってるじゃない。」

「それにそんなやつらは決まって言うのよ。」

「だまされるほうが悪いってか。」

「そうそう。」

「じゃが...」

「ハーマリー、あなたはマスターとしての矜持は持っているのでしょう?」

「も、もちろんじゃ!!ようやくこの座を継ぐことができたんじゃ!!やり遂げるのじゃ!!」

「そうじゃないと私たちも困るわ。」

「その気持ちがあるのなら、あなたが正しいと思うダンジョンを作りなさい。」

「言いなりになっているだけじゃ今のままで何も変わらないわよ。」

「ここはあなたのダンジョンなのよ。あなたの好きに作って誰が悪いって言う権利を持っているの?」

「そうだ。そこには誰も口を挟めないはずだ。」

「わしは...」

「わしは怖かったんじゃ。」

「一度罵声を浴びせられたが、わしは悪くないとそのまま維持をし続けた。」

「しかしじゃ、目に見えて訪問者が減っていってのう。」

「わしの心が弱いのが悪いんじゃ。死人も減って、その罵声が正しいと思い始めてのう。」

「ダンジョンを罵声の通りに変更していったのじゃ。それでも減り続けて。」

「そしていまの形になった時には、誰一人来んでのう。」

「ようやく気付いたんじゃ。わしは間違っていると。」

「ここまで変わるのにあっという間じゃった。何をしていたんじゃろうな。」

「でも、また変えるのも怖くての。そのまま待っておったんじゃ。」

「そうしたら、お主らが現れてな。」

「わしは嬉しかった。こんなになったダンジョンでも、訪問者がいるのかと。」

見た目はこんなでも、心は立派に人なのだろう。

傷つけようとすれば、簡単に傷をつけられる。今のハーマリーのように。

耳としっぽはこれでもかというくらい垂れている。わかりやすい。

そこには、ダンジョンを大事に思うマスターの姿があった。

「わしはわしの正しいと思うダンジョンを作る。」

その目には火がついたようだ。

また来てくれとのことなので、次は手ごたえのあるダンジョンに仕上がっているだろう。

「ところで...」

「どうでもいいんだが、そのキツネ耳としっぽは本物なのか?やっぱり?」

「なっ...!!!?」

ハーマリーはとても驚いた様子だ。

「そんなの当たり前じゃない。あんなに動くんですもの。珍しくもないわよ。」

「俺はリアルで初めて見たんだけど...」

「キツネと言ったか...?」

「へっ?」

「キツネと言ったかああああああぁぁぁ!!!」

ハーマリーが怒声を上げる。

木々から鳥が一斉に飛び立つ。

「よくもわしをキツネなどと...」

「ええ!!?でもその耳としっぽキツネにしか...」

「わしはフェレットじゃああああああ!!!!!!」

ハーマリーの態度の急変っぷりに思考が追いつかない。

さっきまでのしおらしいハーマリーはどこへ行った?

何に怒っているんだ?

キツネ?フェレット?

あれはフェレットだったのか!!?

「た、達人謝りなさいよ!!早く!!」

リリが焦っている。珍しい。

「ああいうプライドを持っている人はとんでもなく面倒くさいのよ!!早く!!」

「す、すみませんでしたぁっ!!!!!」

「す、素敵な耳としっぽですね!!キツネなんかじゃ到底及ばないですよね!!!?」

すかさずフォローにはいる。

ピクッ

ハーマリーの耳が動いたような。イケルッ!!!!

「きれいな毛並みですし、大変眼福にございました!!!!!」

ピクピクッ

「その耳に触れただけでも、大変な幸運に恵まれそうで大変うらやましいですぅ!!!!!」

自分でも何を言っているのやら。

「そうかぁ。わかればいいんじゃ。わかれば。」

効いた。ハーマリーはすっかり落ち着いた。

「ちょっとくらいなら触ってもいいんじゃぞ?やさ~しくな。」

「いえ、遠慮させていただきます。」

「お前さんは女心も心得ているんじゃのう。感心感心。」

俺はハーマリーを落とした。

扱いを学んだという意である。念のため。

ああ、死ぬかと思った。

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