025ハーマリー
開けた扉の先には。
部屋が一つあった。
真ん中には魔法陣がひとつ。
部屋があるのだが、出口となるような扉は見当たらない。
行き止まり。デッドエンド。進行不可。
「なあ、リリ?」
「ふっざけてるの!!!!!!?何よこれ!!!!!!!!?」
突然リリが怒鳴る。
「お、おい。どうした?何が気に入らないんだ?」
「これが何かわかる!!!?あなた!!!?」
リリが魔法陣を指さす。
「ま、魔法陣?」
「そう、魔法陣よ魔法陣!!」
「そ、それがどうしたんだ?」
「どうしたんだ、じゃないわよ!!」
「この魔法陣はね!!このダンジョンをクリアしたっていう魔法陣なのよ!!」
どうやら俺たちはダンジョンを踏破したらしい。
歩いただけだが。意味が分からない。
「え、えーと、要するに...」
「そうよ!!!この魔法陣を踏んだら外に出られる!!ワープできる!!ダンジョンマスターと面会してハイお終いってわけ!!!」
「えええええええええええええええええええ!!!!?」
まっすぐな道をモンスターとも全く出くわさず、ビクビクと精神を消耗しながら進み、意気揚々と扉を開けたらそこはゴールだった。
何を言ってるのか俺でもわからない。
そもそもこれはダンジョンなのか?
前代未聞である。
歩くだけでクリアできるダンジョンなんて。
「え?もうクリア?」
ようやく絞り出したセリフがコレ。
「何度も言わせないで!!!バッカみたい!!私達なんのためにダンジョンに潜入したのよ!!」
リリの神経を逆撫でしてしまった。
「もう言い合ってても仕方ないわ!!行くわよ、達人!!!」
「お、おう!!!」
リリに半ば気圧されながらも後に続いて魔法陣を踏む。
踏んだ一瞬で外に出られた。
一刻前に見た入口だ。
だが、知らない人物が一人。
「どうじゃった?わしのダンジョンは!?」
見た目のわりに似つかわしくない言葉使い。
身長はエミーと同じくらいだろうか。
そして、人には見られない、耳としっぽ。ピコピコ動いている。
「あなたは?」
「わしか?わしはハーマリーという。」
「わしは入れ変わったばかりなんじゃが、このダンジョンを任されるようになったんじゃ!!」
「ダンジョンマスターというやつじゃな!!」
誇らし気だ。
「あなたね~...」
「バッカじゃないの!!!?」
「ひっ。」
「あんな歩くだけのダンジョンなんて誰でも攻略できるじゃないの!!」
「唯一のイベントが扉を開けるだけなんて一体どういうつもりなの!!?」
「ダンジョンマスターが聞いてあきれるわ!!」
「ルズベリー名物の変形ダンジョンなのに、これじゃ名が廃るわよ!!」
「入れ替わったばかりだと言ったけど、先代のマスターのほうが仕事していたわよ!!」
「道理で人っ子ひとり見当たらないわけだわ!!!」
一気にリリがまくしたてる。
「ご、ごめんなのじゃ~...」
さっきの誇らしげな態度はどこへやら。
ダンジョンマスターとやらは大変小さくなっている。
「何がごめんなのよ!!」
「あんなダンジョンじゃ名折れどころか、ルズベリーの恥になってしまうわよ!!」
「ダンジョンマスターがコレじゃルズベリーも廃れてしまうわ!!」
「こんないい加減なことをしないでくれる!!!?あなたは!!?まったくもう!!!!!!」
ダンジョンマスターは今にも泣きだしそうだ。
反論したいが、勢いに負けて言い出せなくなっているようだ。
「リリ。」
「なによ!!落ち着けっていうの!!?落ち着いていられるわけがないでしょう!!?だって---
「リリ。」
「だって...!!!だって!!!もう、わかったわよ!!!」
意外と聞き分けがよかった。助かった。
それにしても拍子抜けもいいところなダンジョンだった。
他の冒険者も見かけなかった。
ルルに有名なダンジョンだと聞いたのだが、どうしてこんなにもみすぼらしくなってしまったのか。