024初パーティ、初ダンジョン
「なんか助けられちゃった感じね。ありがとう。」
「まあお前ビビってた感じだったしな。」
「...調子に乗るんじゃないわよ。」
「覚えときなさいよ?もしまたしくじったら、灰にするわよ?」
「へ」
「電撃で、じっくりと。ゆっくりと。」
「すみませんでした。」
「ふふっ。冗談よ。」
「それよりも。これから本番に入るのよ。」
「大丈夫だと思うけど、容赦なくモンスターは襲ってくるわ。これ以上に。」
「ああ。俺は前衛だ。フォロー、しっかり頼むぜ!!」
「なにを偉そうに。私に抜かりはないわよ。」
「それにしてもおかしいわね。」
ダンジョンに入りかかったところで、リリは疑問を口にした。
「いつもなら、新規が来ると、ダンジョンマスターが顔を出すのに。」
「それにここは有数のダンジョンの中でもかなり人気のあるスポットのはずなのに人っ子一人もいないわね。」
「人が見当たらないのは挑戦中かもしれないし、マスターが来ないのはリリが一緒だからじゃないか?」
「そんなものかしらね。まあ、ダンジョンをクリアするか、諦めて入り口から出ていったらたまに会えるから気にすることではないかしらね。」
「さて、繰り返し言うけど、ここのダンジョンは不定期で形を変えるわ。」
「私は攻略ルートを知っているわけでもないし、他の冒険者もいるわ。助ける場合もあったり、裏切られる可能性もあり。」
「もちろん命を落としたらそこでおしまい。私もフォローするけど、自分の身は自分で守る覚悟をすること。」
リリのいつにもなく慎重な警告が頭に残る。
それほどダンジョンとは危険な場所なんだろう。
意を決してダンジョン内へと入る。
目に飛び込んできたのはまっすぐな道。
先は暗くてよく見えない。
リリが魔術で明るくしているが、せいぜい身の周りが視認しやすくなった程度。
ふく風が生温かく感じ、不安感を刺激する。
これがダンジョン。
狩るか狩られるかの前に、ダンジョンに狩られそうな錯覚に陥る。
ダンジョンが敵のように感じる。
一歩一歩危険を回避できるようにまるで探りながら歩みを進める。
なぜかというと。
「不思議ね。さっきからまっすぐしか歩いていないわ。」
言われて気が付く。
「不定期に形が変わるとはいえ、こんなパターンは初めてよ。松明すらないダンジョンなんて。灯りがなかったら相当な上級者向けよ?」
「それに道がまっすぐな程無防備なことは無いわ。油断したら大変なことになるわね。」
経験者の言うことは聞いておくものだろう。
それに俺のダンジョンの認識も、曲がりくねったものしかない。
侵入してきた者を、消耗させ、最後に狩る。
ゲームでの知識だが、大体の認識はそれだろう。
「ただの風ね。びっくりさせてくれるわ。」
まっすぐな道の壁にできていたくぼみ。
そこに風がふくだけで、ちょっとした乱気流となり、その風は敏感になっている俺たちの肌をかすめる。
十分驚かせるのにピッタリな風だ。
「考えたわね。消耗する一方よ。」
「ああ。しかもモンスターにもまだ出くわしていない。」
「いつ出てくるかプレッシャーになるわね。」
「そうだな。道がまっすぐなだけあって、予測しやすいかと思ってたけど、こうも出てこないんじゃな。」
予想だにしない事態にすっかり怯んでしまい、思惑通りなのか俺たちはすぐさま消耗した。
仕方なく小休止を入れることに。
そして小休止が終わるやいなや、歩を進めるが。
まったく終わりが見えない。
時間はどのくらい経っただろうか。
モンスターは襲ってくるのか。
このまっすぐな道はどこまで続くのか。
頭がどうにかなりそうだ。
「どうなってるのよ!!こんなに平和なダンジョンは初めてよ全く!!」
リリは苛立ちを隠せない様子だ。
「落ち着くんだリリ。これがこのダンジョンの狙いかもしれない。」
「そんな事わかってるわよ!!」
「いや、わかってない。落ち着くんだ。」
「そんな状態で襲撃にあったら、フォローに手を回すだけの余裕も無くなるだろう!?」
かくいう俺も苛立ちを隠せない。
小休止を入れる間隔がどんどん短くなる。
本当に数歩歩いたんじゃないかという時間でも小休止を入れた。
耐えられなかったのだ。
こんな道がまっすぐなだけで、戦闘もなんのイベントもありゃしない。
じりじりと歩を進め、時間の感覚も無くなった時。
一枚の扉を見つけた。
突き当りである。
この扉を開けないと次には進めない。
本来緊張しなければいけない場なのだが。
内心嬉しかった。
扉を開けるイベントが発生したのだ。
「さあ!!準備はいいわね!!」
リリも嬉しそうだ。
嬉々として扉を開ける。
次の光景など全く予想せずに。