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023進歩

夜明けが来た。

ダンジョンへ再出発である。

昨日は全くの足手まといであった。

せめて一歩、一歩だけでも踏み出したい。

「リリは後悔したことないのか?」

「突然どうしたのよ。」

「なんで戦いの道へ踏み込んだんだ?」

「言ったでしょ。私がやるしかないの。私にはできるの。」

「...この負の連鎖を終わらせるには、犠牲がつきものよ。」

「私だってできれば殺しはしたくない。」

「でもやらなければ、死ぬわ。それでおしまい。」

「その負の部分を私が背負うだけで、みんなが幸せになれるのなら。」

「喜んで私は踏まれるわ。」

「...屍の上に立ってる。」

「よく知ってるじゃないの。」

この考えはどうやらどこの世界でもあるらしい。

英雄と言うものはこのような気持ちを抱きながら戦っていたのだろうか。

結局は頭で理解していても他人事なのだ。

いざ自分で体験しようものなら、俺みたいにちっぽけな人だとビビってしまう。

「あとダンジョンまでどのくらいなんだ?」

「ちょっとはやる気出た?早くて2時間、遅くて一日ってところよ。」

予想時間の差が大きいが、昨日のようなトラブルがあったらを加味しての事だろう。

やる気が起きたのはちょっとだけある。

現在の道のりとは違い、ダンジョン内では魔力で生成されたモンスターが多いと聞いた。

魔力により無限にモンスターが現れるという。

ダンジョン専用の無限に湧く敵、ゲームでいう歩き回っていればいつでも出会えるようなもの。

どちらにせよやる事は変わりないが。

生き物を殺すよりは精神負担的には軽いだろう。

...俺はまだまだ甘い。

人の通りが少なかったせいか、道が険しい。

あっという間に昼になった。

「今日は静かね。平和的でいいわ。」

リリの言う通り、昨日とは打って変わって、モンスターの襲撃はない。

「それにしても、こんなに道が変わってるなんて。」

「もうちょっとかかりそうね。」

「冒険って本当大変なんだな。」

このための稽古でもあったのだろう。

運動なんてまったくしない俺には、稽古無しでは体力が持たず無理だったと思う。

「そうね~。今回の場合、近場のダンジョンだから、徒歩だけど。」

「国外遠征だったらもっと楽よ~。」

「あまり遠くじゃなかったら、テレポート専用の魔法陣が整ってる国どうしで移動できるし。といっても最初は登録されていないから、徒歩か足を使って移動する必要があるけど。」

「ま、お姉さまなら何かしら足を用意してくれるわよ。きっと。」

「それにしても、リリって料理うまいよな。意外と。」

「意外、は余計よ。そりゃ伊達に冒険者やってないわよ。」

リリが用意してくれたのは、トマトベースの食事。

「トマトは万能なのよ。毒だなんだのって騒いでた人たちが哀れだわ。」

と豪語している。しかしうまい。

今冒険中の食事だよな?と思うくらい。なにかのフルコースのような。

ミネストローネはもちろん、どう作ったのかトマトクリームパスタまで。

サラダなんかはモッツァレラチーズとバジルまで添えられており、やはりとても冒険中の食事とは思えない。

「こんな立派な皿まで用意して、こんなのただの荷物にしかならないだろうに。どこに仕舞っていたんだか。」

「あ、それ食べ終わった?片づけちゃうわね。」

と言われたと思うと、手に持っていた皿が消えた。

食器についていた微量のソースが地面に落ちる。

「これは...もしかしなくても?」

「そう。魔術で出したの。魔術能力者なら大体が覚えられるわ。あなたでもできるかもね。」

「それは便利なこって。」

「実際便利よ。洗い物しなくていいもの。荷物も無いし。一握りの一般人でも結構頑張れば覚えられるし。」

「さあ、あともう少しよ!!気合い入れなさい!!」

背中をたたいて励ましてくれる。

「目の前にダンジョンが見えてきたのは、いいんだけど。」

「正直やばいわね。」

「達人、死ぬんじゃないわよ。私に任せて。」

険しい道を踏破し、ようやくダンジョンがお目見えだという時に。

ウルフの大群が現れたのだ。

以前感じたあのピリピリと似ている。殺気だ。

「昨日やったウルフの知り合いってわけじゃないわよね?」

「かたき討ちって感じだけど。」

習性というやつだろうか。

前面に何匹か。そして、草むらに隠れて結構な数がいる。

前面にいるウルフは駆り立て役だろう。

あるポイントに誘導し、隠れていたウルフが狩る。

うろ覚えではあるが、授業のこぼれ話で聞いた記憶がある。

そして今が誘導されるその時である。

一匹がこちらに飛んでくる。

「来るわよ!!気を付けて...?」

ザシュッ

「きゃあっ!?」

地面に大量の血飛沫が舞い、染み込んでいく。

「あ...あ...」

リリに向かって、皮肉めいた表情で言う。

「死ぬんじゃないって自分に言い聞かせたのか?」

「た、達人ぉ!!?」

リリは目を丸くし、そして指をさしびっくりしている。

「ふ、ふん、なかなかやるじゃないの。」

そんな中でも背後から飛んできたウルフを難なく切り裂いた。

「でも油断するんじゃないわよ!!」

ダガーをしまったかと思うと、炎魔術で応戦する。

後ろに構えていたウルフが灰塵と帰す。

「動物ってのは本能的に炎に弱いのよ。知ってた?」

「そんなのは知ってる...さっ!!!」

「しかし、誘導役がいなくなったら、隠れてるのはどうするんだろうな?」

目の前に立ちふさがっていたウルフをある程度片付けることができた。

あとは隠れている奴らのみ。

「さ~ね~、今頃しっぽ巻いて逃げてるわよ。」

「そうだと楽なんだがっ!!」

死角から飛び出してきたウルフを一斬。

「向かってくるなんて、なかなか度胸があるのね。」

「「はあっ、はあっ。」」

大群だった。

相手も飢えていたのだろう。

何が何でも俺たちを喰らってやるという勢いが凄まじかった。

「ふ~。一件落着っと。」

「それにしてもすごい進歩ね。どうしちゃったのよ。」

「言っただろう?」

俺が成し遂げて見せるんだ。

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