022ちっぽけ
どこかで読んだシェルショックというやつだろうか。
正式名称は戦闘ストレス障害だったか。
ダンジョンへはまだついていない。
しかし、野良モンスターが容赦なく襲ってくる。
そんな中だというのに、俺は感情すら湧かない。
戦闘中だというのに、俺は構えるので精いっぱい。
リリが戦闘をすべて一人でこなす。
「最初はキツイものよ。」
リリはそうフォローしてくれた。
稽古をしている時は、本気で斬りかかることができた。
挑発にのったのもあるが、リリが俺より強く絶対にかわされるであろうと予測ができたから。
それでなければあんな発言もなかっただろうし、無痛の棒を最初から使わされなかったのも証拠になる。
このケースの場合、相手を確実に仕留めることができるから。なぜか躊躇をしてしまう。
すぐにでも仕留められるのに。
俺がちょっとでも剣を振れば、当たるだろう。
リリに稽古をつけてもらった経験がある。
実際に相手の動きは止まって見える。
命を奪う。
その事実だけが枷となって俺を束縛していた。
思い通りに歩を進めることができず、辺りは暗くなり始めていた。
仕方なく、野宿をすることにした。
「ちょっと昔話でもしましょうか。」
食欲がわかなかった。
リリ謹製のスープを飲みながら、耳を傾ける。
5カ月前魔術能力が開花した後、すぐに戦力として活躍できるようにと、まずは冒険者志願をした。
ルルが結界を展開したため、軍へ志願するメリットが減ったからである。
軍となると、必然的に国を中心に活動することになるので、冒険者のほうがなにかと融通がきくだろうとの考えもあった。
そして、ようやくレベルアップを行い、ダンジョンデビューを果たそうという時。
リリは奮い立っていた。
敗北に汚泥を舐めたあの日の屈辱を晴らせるようになる。
私はもっともっと強くなるんだ。
パーティーを組んでダンジョンへと足を運んだ初めての日。
今日のように野良モンスターが襲ってくる。
リリはあの戦争の光景がフラッシュバックしてしまい、固まることしかできなかった。
奴らに目の前で命を奪われ、大切な人達を傷つけられた。
それと同じ命を奪う「行為」をできない。
それは違う...頭で理屈は理解していた。それは同じ「行為」では無いことくらい。
しかし、膝は笑っている。やはり動けない。
結局パーティー内で全く功績を残せず、おめおめと帰った。
ルルに無理かもと話した。
「無理ならやめてもかまいません。」
あんなに応援をしてくれた姉の予想外な言葉に驚いた矢先。
「ですが、そんなことであきらめるのですか?」
「そんなリリは知りませんね。血がにじむような努力で魔術を習得した、あの時のリリはどこへ行ったのですか?」
「もう少しだけ。もう少しだけ頑張ってみませんか?リリ?」
壊れかけの私をつきっきりでサポートしてくれて。
魔術能力が開花した時も自分事のように喜んでくれて。
あなたは能力を使いこなせるようになると、一生懸命教えてくれて。
でも、くじけそうな時にはいつもおなじようなことを言って、私を奮い立たせようとして。
もうちょっとだけ頑張ってみた。お姉様の期待に応えるために。
しかし、ダンジョンに入っても変わらなかった。ちっとも動けないし、進歩が見られない。
私本当にダメかも。
そう思った時。
仲間の一人が死と直面していた。
他のパーティの仲間は戦闘で助けに行けそうにない。
仲間は私がオドオドしている間にも殺されてしまいそう。
ふと目が合う。
助けて。死にたくない。
そんな意思を感じ取った時。
「やああああああああああああ!!!!!!」
モンスターを灰にしていた。
ルルに教わった、まだまだ未熟な炎の魔術で。
ようやく一歩を踏み出せた。
「結構端折っちゃうけど、そうして現在に至るってわけよ。」
「守るべきものがあったのよ。昔も今も。」
「そのためなら私は戦い続けられる。」
「そしてあの平和な日常を取り戻したいの。」
「あなたもそうでしょ?」
「...今日は遅いし、明日に備えて休みましょうか。」
寝床につき、リリの話を反芻する。
守るべきもの、か。
ここにきて、それはたくさんできた。
それのために俺はこの冒険に出ることを決めた。
そんなことくらい、わかりきってた。はずなのに。
俺はまだまだちっぽけなんだな。