021出発と衝撃
いよいよ出発の時。
まだまだ俺のレベルアップ段階ではあるが。
「いくらレベルアップのためのダンジョンと言っても油断は禁物よ。」
とリリは言うが。
正直ワクワクが止められない。
冒険とは、正に男の浪漫。
妄想するか、本で読むか、アニメを観るか、ゲームするかで疑似体験するしかなかったあの冒険を実際にすることができるのだから。
心が躍るってものだ。
以前決まった、リリとのツーマンセルで、近辺のダンジョンへと移動中だ。
「最近私はご無沙汰だし、なまってないといいんだけど。」
と、稽古であれだけの動きをしていたリリが武器を確認しながら言う。
「魔術だけじゃダメなんだな。」
「そりゃそうよ。ルズベリーにいる時と違って、私もガス欠を起こしやすいのよ。」
ダガーを二本。二刀流だ。
「それに。気を付けたほうがいいわよ。」
リリが言った瞬間。
衝撃が走った。
なにか重いものが俺に衝突をした。
「ウルフね。」
「お、おい!!助けてくれよ!!!」
ウルフが俺の喉笛にかみつこうとしているのを必死に防ぐ。
「あなたね~...」
「あなたの能力は何だったかしら?」
俺の能力は超筋力。そういえば。
必至に防いでいた腕に力を込める。
ウルフの体は軽く持ち上がり一気に形勢逆転。
そのまま思いっきり投げた。
「はあ...はあ...」
「先が思いやられるわね...」
「そりゃ、ちゃんと戦えなかったけど。今度はこんな風には---
「そうじゃないわ。」
リリの目が冷たくなる。
「そんなんじゃダンジョンですぐに死ぬわよ。あなた。」
どういうことだ。
不意打ちを食らったのがまずかったか。
ウルフ程度に手こずったということなのか。
「まだそんな顔してても私は文句は言わないけど。一応経験者、先輩として言わせてもらうわ。」
「私だって不意打ちは食らうわ。それに、あなたの能力をもって危機回避できる判断も素早くていいものだったわ。」
「それじゃあ何が...」
「なんでトドメをささなかったの?」
食い気味で鋭く言われる。
トドメ。命を奪うアレ。
「それは...そこまですることじゃ...」
「弱肉強食って知ってる?食物連鎖でもいいわ。」
「そんなんでモンスターも、奴らも倒して、あの人を助けられると思ってるの?」
「っ...」
「やらないとやられるわよ?」
「わかってる...」
「本当に?」
「...」
「はあ、まあいいわ。いくわよ。」
責任がおもいのは理解していたつもりだが、覚悟がたりない。
少し考えればわかったはず。
戦いに身を投じること。
殺しだってやる。
無邪気な子供が蟻を踏みつぶして遊ぶのとは断然違う。
どこまでも俺は軽い。
「リリは倒せるのか?」
帰ってくる答えは決まっている。
それでもリリは真摯に答えてくれた。
「やらなきゃいけないから。」
「私がやらなきゃ誰ができるの?」
「あの戦争で戦えなかったのが本当に悔しかったから。」
「この戦争を終わらせたかったから。」
「でも、私だけじゃ力が全く足りないの。」
「そこにあなた、達人が来てくれた。」
リリが俺の目を射抜くようにまっすぐ見る。
「っ...!!危ない!!」
グシャ。
さっきのウルフが戻ってきたのだろうか。
リリに飛びかかってきた。
と思った瞬間。
「あなたと違って、私は場数を踏んでいるからね。」
「気配がだだ漏れなのよ。ほとんど殺気だから気づけるわ。」
ウルフは急所をやられたのかぐったりとしている。
これが戦うこと。
そして戦争を終わらせることのできる一つの手段。
「達人は優しいのね。」
「え?」
「私も最初はそんな感じだったわ。」
「でも、その優しさでわからせてあげればいいじゃない。」
「奴らがやっているのは間違っていること。」
「私たちはそれをしようとして犠牲を出したし、逆に殺しもしたわ。」
「私たちの国のために死んでいった人たちの手向けになるとも考えているわ。」
一応俺は善良な一般人だったので、そんな経験はない。
しかし。
ここへ来て、いろんなものを見たし、聞いた。
これからも経験をしていくだろう。
俺がやらなければ誰がやるんだ。
雪花も救うんじゃなかったのか。
甘ったれるな。進歩するんだ。
パァン!!
「よし!!」
気合いを入れなおす。
俺は勇者だ。平和を取り戻すんだ。
俺にしかできないんだ。
「あなた手形で顔真っ赤よ。」