019RedLips.のお手伝い
「今日の稽古はお休みよ。」
嬉しいと思う反面。
「いいのか?日々の積み重ねが重要なんじゃないのか?こういうのって。」
どっかの格闘家がテレビで言ってたような。
「ここ最近ずっとでしょ?」
「毎日毎日やってたんじゃ、体壊すだけよ。たまには思いっきり休むことも重要よ。」
「というわけで、行くわよ。」
なにやら、ダンジョンに潜る前に装備を作ってもらおうということだ。
「あなたの力量なら、その辺のダンジョンは大丈夫だろうけど、まだ気配察知ができないのが痛いのよね。」
「気配なんて、ここ最近じゃメイドの鋭い視線しか感じとったことないけど。」
「あら、視線を感じることはできるのね。」
「そりゃ、あんなに見られてる感じがしたらな。」
「そうじゃないの。メイドは一応訓練されてるから。そうそう視線だって感じることはできないはずよ。」
「あなた素質があるのかもしれないわね。問題はどうつかいこなせるようになるかよ。」
「そうは言ってもだなあ...」
「お、あれは...」
俺の目に入ったのは、売店に並んでいた見慣れたもの。
「何してるの~?置いてくわよ~。」
いつの間にかリリは先へ進んでいた。
「リリ、すまんがちょっといいか?」
「もお〜。一体なんなのよ...」
...よし。
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そうこうしているうちにRed Lips.へと着いた。
「いらっしゃ~い。」
「こんにちは。サラさ...むぐぅっ」
いきなり抱えられる。
「あなたも人気者ねぇ。」
死にそうだ。身体的にも精神的にも。
「エミーちゃんのお気に入りですもの~。私も気になって仕方ないのよ~。」
「あなたもその力で振り解けばいいのに。」
確かに。
「達人はやさしいのよ~。そんなことしないのよ~。」
「お兄ちゃんの匂いがするの。」
あっという間に店は賑やかになった。
「あらあら、悪いわね~。」
「嬉しいの。嬉しいの。」
エミーはプレゼントを両手で持ち、ぴょんぴょん跳ねている。
先ほど、市場で見かけたりんご飴をエミーに渡した。
まさかこの国でりんご飴をみかけるとは。
ほんの少しだけど、故郷の懐かしさを味わった。
「それで、今日はどうしたの~?」
「そうそう、ダンジョン潜入の前の準備ってところよ。」
「エミーちゃんから特訓の話は聞いてたけど、もうそんな時期なのね~。」
「エミーちゃんも、張り切ってデザインしてたのよ~。」
と言いながら、デザイン画だろうか、防具の絵が描かれた紙を取り出した。
そこには、可愛らしいピンク色の防具、女の子らしい花のモチーフ。
頭の防具と思われる花飾りまでついたフルセットのデザインが。
「あら、まちがったわ~。」
どこをどう間違ったのか。
「エミーちゃんが描いたデザインだったわ~。」
「はっ。」
ふとエミーの方を見ると。
不安げにこちらを見ている。
俺の、評価を、待って、いる?
「とても、かわいくて、いいんじゃないかな?」
途端にエミーの顔が明るくなる。
だが、次の瞬間表情が曇ってしまう。
返答を間違ったか...?
「でも、お兄ちゃんには似合わないの。」
「でも、これは最高傑作なの。」
なんとなくエミーはわかっていたようだ。
「そうね~、お兄ちゃんに合うかっこいいのつくってあげないとね~。」
サラさんがVサインを送ってくる。策士だ。
「お兄ちゃん手伝うの。重いの運ぶの。」
エミーのお手伝いをすることに。
自分の防具作りだ。
きっと思い入れの深いものが仕上がるだろう。
手伝いといっても、特にやることはなく。
エミーの要求する素材を運ぶだけ。
ひたすらに量が多く、重い。らしい。
そして、エミーはなにやらぶつぶつ言いながら、例の魔導装置に入れていく。
これで防具のベースとなる素材を作り出すらしい。
「今回はこっちがい~い?」
「そうなの。相性ばっちりなの。」
サラさんが取り出したのは、炭?
その炭は、普通の赤色ではなく、真っ白に燃えた。
種類や用途によって9色あるとか。
これもエミーが作った燃料らしく、例えばこれで剣を打とうと思えば、すぐに素材は赤く燃え盛り、そこにサラさんの鍛冶職人の技量が合わさると、強靭な剣が出来上がる。
その剣を冷やす液体もあると尚いいのだが...
「まだ作れないの。難しいの。」
と泣きそうな顔をされてしまった。
液体系の物質を魔導装置で作ろうとしても、ポピュラーなものは病気や怪我に効く薬が大半で、物作りに使えるようなものはなかなかできないらしい。
とはいえ、自然界に水や油が存在するので、なかなか需要もない。
だが、エミーはその常識を覆せれば、と頑張っている。
「うん。ここまで出来れば大丈夫ね。ありがとう。」
「お疲れ様でしたなの。」
サラさんとエミーは玉のような汗をかいている。
「あとは私たちにまかせなさい。期待するのよ~?」
エミーは集中していて、作業から離れることはなかったので、サラさんが見送ってくれた。
みんなが俺に力を貸してくれる。
責任はかなり重い。
だけど逃げ出すわけにはいかない。
こんなにお世話になった人たちに俺は結果を、大きな結果を持ち帰って帰りたい。
その報酬がみんなの笑顔になるのなら。