001襲撃
魔境。
そうここは魔境だ。
何がそう思わせるのか。
居心地のいい空気か。
はたまた危険な状況と紙一重なこのスリルのせいか。
そうここは魔境。
一度入ったら誰もが簡単には抜け出すことのできない...
ここは魔----ピピピピピピピピピピピ
ピッ
「・・・あと5分...」
「こら。また遅刻するよー。さっさと起きて支度する~!!」
いつものヤツだ。
こいつ何度も何度もよく飽きないな。
というかいるなら叩き起こしてくれ。
幼馴染か。
幼馴染パワーなのか。
「わーった。わーった。」
「キャッ...なんで下着で寝てんのよ!!」
殴られる。いつものことだ。
「いつも俺はこの格好だろうが!!」
「いつも私が入ってくるんだから、ちょっとは恥じらいというものを持ちなさいよ!!」
そういつものこと。
この後朝ご飯をなんだかんだで一緒に食べて、一緒に登校をするのだ。
よくある学園ものの幼馴染同士の付き合いをしている。
---あの事件が起こるまでは。
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俺は達人。
隣のおしゃべりな幼馴染は雪花。
幼馴染と言ってもそう仲がいいわけでも...
「でねー。んー、ちょっと、聞いてるの?」
「あーはいはい。聞いてる。」
「もー...いつも生返事なんだから。」
仲がいいわけでもないと思うのだが、周りからはテンプレだのお似合いだの言われてしまう。
俺もそう思う。仲がいいという部分ではない。テンプレの部分だ。
俺が過ごす現実がまるで学園物ゲームのように感じてしまう時が多々ある。
別にそうゲームのように感じてしまうからといって、俺がそうそう認めるわけがない。認めたくない。
「・・・ねえ。」
だって、
だって、
恥ずかしいじゃん。異性を意識しちゃうとか、恋愛しちゃうとか。
そう思ってしまう俺自身が恥ずかしいんだろうなぁ。
これが思春期か。思春期なのか。高校3年生春の思春期なのか。
「ねえ...」
もう卒業の年だってのに、こいつとの関係も全然変わってないし。
別に特段特別に意識を回しているわけでもないんだけど!?
確かにこいつも可愛いし、ナイスバディ(死語)だし、なんといってもこの声---
「ねえってば!!!!!」
「なんだよ!!今すごく大変なことを考えて...じゃなくて!!その、あの、
「人がいなくない?というか、この時間なのに、一人も見かけないなんて。」
「え?」
今は午前8時。
登校や通勤でいつもはこの道が人であふれかえっているはずなのだが。
---マダ イルトハナ
頭痛。突然の頭痛。
---コイツラハ テキゴウ シタト イウヤツ デスカイ
頭痛がやまない。急なことで思考が追いつかない。
---ワレワレノ カイワモ キコエテイルモヨウ
---ケッテイデスネ
頭に直接太い棒か何かを突き刺されているかのようだ。ついでにかき回されている感じか。
!!雪花は!?
すぐ隣を見る。
どうやら衝撃に耐えられなかったらしく、ぱったりと直立した姿勢を維持したまま倒れていた。
その様子を見てびっすりする。息ができない。
いくら耐えられないとしてもこの倒れ方はまずいんじゃないか。
どうみても普通の倒れ方じゃない。
生きているのか!!!?
先ほどの恥ずかしいという考えもどこへ行ったのやら、すぐさま胸に手を当て、脈を確認する。
ほどよいクッションがあるせいか、確認に時間がかかる。というか普通首とか手首だろ俺。この変質者。
息をしているのも確認。どうやら、生きているみたいだ。
・・・脳は大丈夫だろうか。倒れ方が尋常ではない。
正直俺もここに立ったり座ったりしただけで、もう動きたくない衝動に駆られている。
---コレハ ワカイ コタイ デスカイ
---ソウダナ トリアエズ ショウメツセズ ソンザイ シテイル
追ってこいつらの会話だ。
明らかに人間業じゃない。ノイズが入っていて、気持ちが悪い。
違う。問題はそこじゃない。
---≪テキゴウ シテイル≫
顔を上げる。
上げなければ...よかった。
そこには。
そこには、絶対的な強敵が立っていたから。
見た目が人間じゃない。
もうそれだけで平常心や戦意すらもぶっ飛びそうだってのに。
こいつら。
俺たちを抱えやがった。死ぬ。
死ぬ。連れ去られたら終わる。
さっきの衝撃のせいで全く動けない。
そして、こいつらは空に手を伸ばすと、空をこじ開けた。
まるで、ゲームやアニメで見る、異界へとワープするアレだ。
空間が裂けた。
「やめ...
奴らは俺を抱えたまま、避けた空間へと入っていく。
やめてくれ。
その願いは叶わず、俺の意識はここで一旦途切れた。