015Ertoide
この現実を。
この運命を呪った。
いくら強くても、いくら敵を倒しても、戦果を出しても。
認められないのか。
私たちは救われないのか。
ある日、
「私、邪魔じゃない?」
エミーが突然そんなことを言う。
私の最近の態度に出ていたのだろう。
苛立ちを覚えてしまう。そうじゃない、エミーは悪くない。
「どうしてそう思ったの?」
「私、お仕事頑張るから。なんでもするから。」
私の焦燥感がエミーに重くのしかかってしまったようだ。
その時は、重労働だから手伝って欲しい時に呼ぶと返答をした。
しかし、エミーは私が仕事をしていると、ちょくちょく顔をだす。
私の顔を見るたび笑顔を見せる。
いつもこの子の笑顔に助けられた。
私にはこの子が必要だった。
依存しきっていた。
エミーの押しに負け、仕事を手伝ってもらっていたある日。
「サラ、見てこれ。」
ぱぁっと音が聞こえそうな表情をしながらエミーは駆け寄ってくる。
手には何やら見たことのない素材を手にしていた。
不思議な光をまとっている。
「これ、エミーが?」
「うん。頑張ったんだよ。」
ニコニコとエミーが答える。
それにしてもこれはなんだろう。
エミーは理解しているようだが、説明してくれても理解が追いつかない。
どうしても理解できず、正体をつかめなかったので、ルルに見せることに。
「これをどこで?」
ルルは驚いていた。
これは一種の魔導結晶だという。
一般に見られる魔導結晶なのだが、純度が見たことないくらい高いらしい。
100年に一度見られるかどうかの一品だそうだ。
すぐにエミーはその能力を買われ、査定試験を受けることに。
もちろん一発で合格をした。
「これで、サラの役に立てる?」
「私、頑張って、サラのお店もっともっと有名にするの。」
「みんなの役に立つのは難しいけど、まずはサラの役にたってからにする。」
「サラ、最近笑ってないの。」
だからこの子は私に飽きずに笑顔を見せてくれたのか。
感極まり、エミーを抱きしめる。
「?、サラ、苦しいの。」
「ごめんね、ごめんね。ありがとう。」
こんなにエミーは気をつかってくれるのに。
私は何もできはしないのか。
この子の夢を叶えるための手足となれるなら。
私は何だってしよう。
この子の幸せのために。
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「つまらなかったかしらね~。」
不憫だ。
どうしてあの状況からこの二人は立ち直れたのだろう。
二人の信頼関係、惨劇からの積み重ねが功を奏した。
端的にこれに尽きるだろう。
もはや他人事のようだが、こんな目にあっても前向きに生きていける2人に尊敬の念を抱いた。
サラさんからも聞いたが、世界にはこんな不幸な人たちがたくさん存在する。
そんな広い世界を笑顔でいっぱいに。
平和を取り戻す。
生半可な覚悟じゃできない。
そうサラさんは教えてくれようとしてたんだ。
「ありがとうございます。俺、やります。」
「いい顔になったわね~。」
俺は恵まれている。
ここに来る前の環境もそうだが、今の仲間にも。
昔の軽く見ていた俺をぶん殴りたい気持ちに駆られる。
「気負いすぎるのも十分な重荷になりますよ?」
「確かに私はこの国を救ってくれと責任重大なお願いをしました。」
「でも、出る前からパンクするのも問題ですよ?」
「仲間はいます。あなたのそばに。そして、長い旅を共にするのです。ちょっとくらいは楽しむことも大事です。」
ルルは気をつかってくれたのか、俺の緊張をほぐす。
「そうそう。旅に出ると言っても準備も大事よ。」
「戦闘のせの字も知らないあなたは、すぐにダンジョンでレベルアップしないとね。」
リリはどことなくワクワクしている。
「私の一つの夢でもあるしね。もちろん同行させてもらうわよ。」
「え?リリが?」
「何よ不満?」
「いや、そういうわけじゃ、お城の重役っぽいし、意外だなって。」
「まあ一応冒険者の端くれってとこよ。この前のがやっとの任務って感じで。」
「だって危ないじゃありませんか。」
「成功したんだから結果オーライですわ。お姉さま。」
リリもだが、ルルもなかなかのシスコンかもしれない。
「他はどうなんだ?」
仲間は多いにこしたことはないだろう。
とりあえず疑問に思ったので聞いてみる。
「お姉さまはこの国の結界を維持するのに大変だから、国外に出るのは無理ね。」
「サラはこの国の武器屋としてトップですし、その店の主人となると無理ですね。」
「エミーはそのお店のお手伝いだし、魔導設備担当でもあるし、無理ね。」
「リリしかいません。」
「私しかいないわね。」
「いないわね~。」
「いないの。」
「はあ。」
さらっと言ったが、ルルはそんなすごいことをしていたのか。
いつもなんかふわふわな感じだから、なんというか。
「とにかくビシバシ稽古つけるから覚悟することね!!」
とりあえず明日の覚悟はきっちりしておこう。
「大事なこと忘れたの。」
エミーがソワソワした様子で言う。
「剣の名前。かっこいいのつけたの。」
「アトワーデ。」
聞きなれない単語。それもそうだ。
英雄アーデと星を意味するエトワールを掛け合わせた名前だ。
エミーの想いがそれに詰まっている。
「すごくいい名前だ。気に入ったよ。エミー。」
「お兄ちゃん。応援してるの。」
エミーと力強くハイタッチを交わした。