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014英雄譚

「たとえ何を成し遂げても、誰もが讃え、認めてくれるわけではないの。」

サラさんはいつになく元気のない口調で話す。

戦いの中で存分に力を振るい、軍の中でも頭ひとつ飛び出た戦績を出した。

エミーは幼いながらも、医療班で活躍したこと。

以前リリに聞いた話だ。

戦力を大幅に減らしてしまい、サラは消耗し切っていた。

遠征のせいで遅くなったとはいえ、ルルに会わせる顔がない。

疲れ切った彼女には健闘をたたえてくれないだろうかという甘えた考えも湧いてしまう。

案の定ルルは彼女をたたえた。

すぐにでも国をあげて彼女を祝福しようと計画も立てていた。

感謝をしつつ、エミーはと聞くと、ルルは表情を曇らせてしまう。

連れて行かれた部屋には、汗でビショビショのエミーの姿。

「来ないで!!」

今まで聞いたことのない怒声でエミーは言う。

想像しなかった展開に気を押されつつも、エミーの元へかけよる。

「ダメだよ、サラ。」

観念した様子で、エミーはいつもの調子で話す。

それにしても、私を認識しているようだが、私の方を向いていない。

いや、なんというか顔はこっちを向いているが、話をしているというのに目が合わない。

輸血液がたくさん常備されていることも不思議だ。

まさかとは思うが。私は考えないように意識を反らしていたのだろう。そんなことがあり得るはずがない。

エミーが動けないのをいいことに、不自然に布団で隠された部分を確認するためにめくる。

「あっ、ダメっ...」

看病していたのだろうか。

リリが扉をくぐりながら何か言ったような気がする。

無い。あるべきものが無い。

人には普通あるべきもの。あったもの。

ああ、奴らは命、そして私たちの大切なものまでもを奪っていくのか。

不思議と落ち着いてはいた。

しかし、静かな怒りと言えばいいのだろうか、その熱い火は心を焼き尽くす。

「サラ、すごい怪我。大丈夫?」

こんな状況に陥っているというのに、彼女は私の心配をする。

何と優しい子なのだろう。

この子だけは、この子だけは私が守る。私の命に代えても。

ルルがみんな歓迎してくれるはずですよ、と言うのであまり気が乗らないが、出席することにした。

エミーの言葉が背中を押してくれた。

「私の分も楽しんでね。サラ。」

この笑顔は私には眩しすぎる。

地獄は始まったばかりだ。

何やら外が騒がしい。

次の日、祝福祭の準備をしていたルルの姿が見えず、外に探しに行こうとした時。

「申し訳ございません。私の力が及ばず...」

ルルが何やら申し訳なさそうにしている。

「部屋に戻っていなさい。ここは危ないわ。」

リリが有無を言わせない態度で言った。

国民が騒いでいるらしいのだが、どうやら私が原因で悲劇が起きた、ということらしい。

アーデのように、一度泥がつくだけで英雄にはなれない。

不思議と落ち着いていられた。

しかし。

「死んでいった人達や戦ってくれた人たちがかわいそうじゃない!!!早くサラを出せー!!!彼女に償わせろー!!!」

そんな言葉が聞こえて。

何かが切れた音がした。

次の瞬間、私は大きな扉を蹴破っていた。

扉の前に立っていたであろう国民共が飛んでいく。

「あなたたち!!それ以上戦士の侮辱は許しません!!これ以上文句があるというなら、私にかかってきなさい!!私に立ち向かってみなさい!!いくらでも相手になりますよ!!?」

国民共は恐れをなした様子で蜘蛛の子を散らしたかのように帰っていく。

私はなんと言うことをしてしまったのだろう。

「ごめんなさい。国を救う立場のはずなのに、国民を脅してしまいました。」

「いいえ。あなたは立派です。胸を張ってください。英雄なのですから。」

ルルが私の目をまっすぐ見る。

だが、そんな肩書き私には似合わない。

「国を出る覚悟はできています。いつでも言ってください。」

「あ、ちょっと!!」

エミーのいる部屋へと逃げるように向かう。

「エミー?」

「サラ。」

昨日まであんなに辛そうだったのに、今日はなんだか涼しげだ。

リリの手当が相当良かったのだろう。

しかし失ったものは大きい。

いくら魔術があるとはいえ、二度とは帰ってこない。

私の心を抉る。

もっと強ければ。もっと、もっと。

「ごめんね…ごめんね…」

「サラ?」

エミーが心配そうな顔を見せる。

「サラ、私ね、みんなの役に立てるような人になりたい。」

「エミー?何を..」

「医療班で頑張っても、ごく一部の人しか救えなかった。でも、結局ダメだったの。」

「私は無力って思った。でも、ありがとうって言われるのは本当嬉しくて。」

「私悔しかったの。私にもっと力があればって。」

「私、みんなの力になりたい。」

エミーは私の先を視ていた。

私はなんて小さいのだろう。


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ありがたいことにルルは積極的に協力をしてくれた。

裏路地へのお店の移動、私の活躍を認めてくれる少数派の国民の斡旋をし、私の安心の土台を構築してくれた。

エミーが怪我から復帰したが、大変だった。

腕をなくしてしまったのもそうなのだが。

失血性ショックだろうか。

目が弱くなってしまったのだ。

それでも彼女は前向きだった。

滅多に弱音は吐かない。

歩くこと、食事をとることもままならないというのに。

唯一寝ることだけがまともにこなせるだけだ。

しかし、日に日に目のクマがひどくなっているのは気のせいだろうか。

ある時、変化が見え始める。

彼女曰く、わかる。だそうで、今ではスイスイと歩く。

「まるで空気の流れを感じ取っているみたいね。」

とリリは語る。

リリには感謝をしてもしきれない。

魔術で治療を早め、自らリハビリを買ってくれ、今の今まで付き添ってくれたのだ。

「当たり前じゃない。妹のように可愛がってきたのよ。」

本当に感謝をしきれない。

エミーはあの体になってしまい、友を無くした。

みんな気味悪がって逃げて行ってしまったのだ。

かくいう私も知り合いと井戸端会議もしなくなった。

戦場で負った傷が深く全身に、顔にも残っている。

皆、見た目でエミーや私を避けていったのだ。

人は非情だ。

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