013Red Lips.再び
「あら~お久しぶり~」
「そんなに経っていませんよ。」
サラさんは可愛らしく手を振ってくる。
今日はルルリリ姉妹と一緒にRed Lips.へ来ている。
「以前発注した物なのですが...」
「は~い。ただいま~。」
サラさんが裏へ行ったと思うと、重そうにしながら、大剣を持ってくる。
相変わらずのガスマスク姿だ。
先日手にしたアーデの大剣と似たような大きさだろうか。
件のアイアンメイデン事件のサラさんとは思えないほど重そうにしている。
「ふー。私でも扱うのが難しいなんて、誰が扱えるのこれ?」
「もちろんこの方です。」
「こんにちは。サラさん。」
「あら~名前を呼んでくれるなんて嬉しいわ~。」
サラさんは俺を抱きかかえる。
(苦しい!!折れる!!)
胸のクッションのせいで窒息死をしてしまいそうだ。
「名前、教えてないはずなのに。ああ、リリちゃんね~?」
ようやく解放された。
それにしてもすごい包容力だった。
思わずうずくまってしまう。
「お兄ちゃん、生きてる?」
「ああ、大丈夫。」
エミーがトコトコと駆け寄ってくる。
「さあ、達人様。持ってみてください。」
ルルがカウンターに置かれた、大剣を指差す。
以前とは違ったデザインだが、すごい威圧感を感じる。
まるでアーデの大剣そのもの。
試せるものなら試してみろ。と言いたげな。
しかし、なぜか魅力を感じずにいられない。試したい。この剣を。
吸い寄せられる様に剣に手が伸びる。
まるでこの剣を知っていたかのようだ。
剣を担いたばかりで、知らないはずの構えができる。軽々と。馴染む。すごく馴染む。
剣が俺を選んだような、すっかり魅力の虜となる。
「あら~。すごいわね~。」
「お兄ちゃん、私びっくり。」
Red Lips.の二人は驚きを隠せない態度で、俺を褒めちぎる。
「俺もびっくりですよ。剣を持ったことない俺でも出来が素晴らしいと感じるんです。さすがサラさん。」
「私だけじゃないわよ~?ほとんど作ったのはエミーちゃんよ~。」
「エミーが?」
エミーは恥ずかしそうに、俺の後ろで隠れている。
はじめに会った時もそうだが、服の引っ張り癖があるみたいだ。裾を掴まれている。
「エミーちゃんは、すっごく器用でね~私には理解できない機械をまるで朝飯前とでもいいたげに作り上げるのよ~。」
「能力は、魔導エンジニアといったところね。しかも最年少で天才クラスよ。」
どこかリリは誇らしげに語る。
「私みたいな脳筋とは大違いなのよ~。」
今度はリリとサラさんでエミーを褒めちぎる。
エミーは真っ赤だ。
俺の後ろで文字通り小さくなっている。
「あの、これはおいくらなんですか?」
ここに来たばかりで持ち合わせなんてあるわけないのだが。聞かないわけにはいかないだろう。
「お代なんていいのよ~。ルルから話も聞いてるわ~。」
驚いたことに、こんな素晴らしい剣が贈られるという。
「でも..」
「平和を取り戻してくれるのでしょう?」
サラさんがいつになく真剣なトーンで話す。
「私たちの国は、国民はひどい目にあったわ。そして戦争が終わらない限りこの悲劇は続くわ。」
「悲劇を被るのは私たちだけで十分よ。だって、それを対価にみんな幸せに暮らせるなら、それはもう願ってもないことですもの。今はルルさんのおかげで平和は維持されているけど。」
「あなたが命をかけてくれると聞いて、私もエミーもすごく嬉しかった。」
「あなたを一目見てこの人はもしかしたらと思ってたけど、どうやら間違いではないようで安心したわ。」
「強いて言うなら~、料金は平和を取り戻してくれたらタダってことで。望み過ぎかしら~?」
「とんでもないです。俺、頑張ります。」
サラさんは力強く頷く。
命をかけるとはこういうことだ。
みんなの期待も俺の命にかかっている。
裏切りたくない。
かつてのアーデのように俺も英雄となれるだろうか。
いや名誉なんて必要ない。みんなの笑顔が取り戻せるのなら。
「そういえば~リリちゃんは私たちのこと全部話したのかしら~?」
「いや、一応かいつまんで話したつもりだけど..」
「じゃあ、私たちのことはあまり話してないのね~?」
「...達人ちゃんは私たちのこと気にならない?」
「...というと?」
「私たちこんな姿じゃない?最初すっごく怖かったと思うんだけど~」
サラさんは、ガスマスクに気を向けるように、人差し指を頬に立てる。
「確かに怖かったですけど。理由があると思いました。そして、話しているうちによくわかってきたというか、見た目で判断した自分をぶん殴りたい気分です。」
「あらあら~、嬉しくて恥ずかしいわ~。そんなこと言ってくれたのはあなたが久しぶりよ~。」
「聞いたと思うけど、私たち、ちょっと嫌われていてね~。今のところはお金を落としてくれる人って認識されているみたいだから平気なんだけどね~。」
聞けば聞くほど不遇である。でも。
「私たち、せっかく知り合ったんだし、全部知ってほしいの。特に達人ちゃんはこれから戦いに出る運命でしょうし、ためになると思うの。」
「私たち以上に辛い思いをしている人たちに会うかもしれない。変な話、慣れてほしいの。」
サラさんたちは辛いだろう。
でも、俺に教えてくれようとしている。その辛さを。
そして、サラさんの話は未来永劫聞くことができない英雄譚でもあるだろう。
その辛さを俺の強さに変えることができるなら。
感謝をしつつ、俺は話を聞くことにした。