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012勇者誕生

「あなたは私たち、いえ、この国に命をささげることができますか?」

そう聞かれたのは、剣を砕いた直後である。

やはり砕いたのはまずかったか...英雄の剣だし...

「いや、その本当にすまなかった。大事な剣を砕いてしまって...」

「そうではありません。勇者として、この国を救っていただけませんか?」

「え?いや、でも、そんな急に...」

「...そうですね。突然でしたね。頭の片隅においてください。私は待っています。」

急な問いかけに対して俺は最適解を出すことができなかった。

ルルのほうも、決断を迫り過ぎたとばつが悪そうだ。

「そういや、試験とやらは?」

「初年度免除だそうです。書類審査でどうにかなったようです。」

「どうにかなったって、そんな大雑把なことが..」

「あなたは外来者ですからね。こういうこともあるでしょう。」

どちらにせよ、試験が無いというので良しとしよう。

肩の荷が下りた。

「では、私は仕事が残っていますので、これで。」

ルルは足早に戻って行った。

「あなた優柔不断ね。」

さっきまで怒鳴りあっていたリリに呆れられたような口調で言われる。

「一応命の恩人なのだから。命までかける事を考えると、確かに責任はどうしても重くなるけど、ここにも結構なお世話になっているはずよ。」

「それはそうだが...確かに一度は死んだと思ってる。でも、いきなりこの国を救うだなんて。よく分からないよ。」

「...あなた。この国を守りたいって言ってなかった!?あの時のあなたはどこへ行ったの!?」

「この国を守り抜いて、みんなを笑顔にするんじゃなかったの!?」

「サラやエミーのためにも頑張ってみてよ...」

リリにすがるように言われる。

たしかにこの国が、この世界が平和になって、みんなが笑顔になるのなら。

ここに来て間もないが、心の底から俺が願っていることだ。

しかし、まさか俺がその中心に近づくようなことをするなんて。

自信はやはりない、しかし剣を振り体験をした俺は…

「いや、まだやらないと決めたわけじゃ...」

「本当!?」

リリの顔がパッと明るくなる。

「ああ。これでも前向きに考えてる。」

「それにしても、ルルが命の恩人とは。あの時船に助けに来たのはルルだったのか?」

「え?あれは私よ?」

「えっ」

「ああ、あの時は、ガチガチに装備させられたし、仮面もしてたっけ。」

「ほらこれ。」

リリが人差し指を眼前に立てる。

すると一瞬にしてあの仮面が装着された。

「ええええええええええええ!?」

「うわ、びっくりした。何よ急に。」

「最初から言ってくれよ!?いつ会えるか、感謝できる時が来るのか分からないでモヤモヤしてたってのに!」

「そ、そんなこと言われても、感謝なんて別にいらないわよ。」

「ありがとう!!まさか目の前に命の恩人がいるなんて!!本当にありがとう!!」

思わずリリの手を取る。

「そ、そんな!!別にお姉さまに頼まれて向かっただけだし!!」

「...それに完璧にこなしたわけでもないわ。あなたの大切な人だって。」

「でも、捕まる可能性があっても、助けに来てくれたんだろう!?命をかけて。」

「完璧にこなせる人なんてそうそういない。確かに残念だけど、俺はルルを信じてる。」

「達人...」

「ちょっと離してよ!!」

なにやら顔を真っ赤にして手を振りほどかれる。

「とにかく!!お姉さまの件頼んだわよ!!前向きに考えているんでしょう!!?」

「あ、おい!!」

リリも走り去ってしまった。

この国を救う...か。

つい最近まで考え付かないことだ。

普通の高校生で。勉強があまりできるわけでもなく、特技もあまりない。

そんな俺が勇者になり得る能力を手に入れ、選択を迫られている。

とてもうまくいくとは思えない。

思えないのだが。

つい先日、リリに熱く語った夢。

世界を救って、みんなに平和を、笑顔を取り戻すことができたなら。

この国の英雄アーデの意思を継ぐことができるのなら。

報酬としては悪くない。

「やってみても...悪くないかな。」

そう思った直後。

「達人~!!」

リリが戻ってきた。

「見せたいものがあるの!!早く来て!!」


---------------------------------------------


「偵察軍からの連絡がありました。」

先ほど足早に帰って行ったのはこのせいか。

「お連れ様の写真もございます。」

「雪花の写真が!?」

「はい。こちらです。」

奪うようにして、写真をもらう。

何枚か束になっていた。

一枚目。

そこには見慣れない、そして写真からでも伝わる、オーラをまとった人物が写っていた。

「これは一体何者だ?」

「そちらはあなたの宿敵といったところです。」

「全然見た目が違うんだが。」

「それもそのはず。」

「彼らは自陣以外に出向く時に鎧を装備してでかけます。その鎧の様子は次の写真で見られます。」

次の写真を見る。

奴らだ。あの時俺たちを連れ去った奴らが写っている。

「本当趣味の悪い連中よね。」

「そして、お連れ様ですが...」

ルルの言葉も聞かずに、次の写真をめくる。

雪花は無事なのか?雪花。雪花!!

写真には、一緒に捕らわれている人、だろうか。肌が赤い。頭にはなにやら見慣れないものが。

角?人間に見えるのだが...

雪花はその人と楽しそうに笑っている。仲はよさそうだ。

よかった。

膝から崩れ落ちる。

あいつは無事だ。笑顔でそこにいる。

「...ルル、俺引き受けるよ。」

「え?」

「この国を救ってみせる。平和に、みんなを笑顔にするんだ。」

「達人...」

「本当ですか?命を落とすかもしれませんよ?私からの提案ではありますが、決して楽ではありません。」

ルルが立ち上がった俺を見上げながら、とても心配そうに聞く。

「一度は死を覚悟したんだ。それに、英雄になるのは、男が一度は夢見る浪漫だからな!!」

「んもう、ばっかじゃないの。」

リリはまたまた呆れ顔だ。

「男の思考なんてよく分からないけど、よろしくね。達人!!」

「おう!!」

今までの不安が嘘のように吹き飛んだ。

待っててくれ、雪花。

「早速Red Lips.に発注しましょうか。何事も備えあれば憂いなしです。」

「ええ、お姉さま。それがいいですわ。」

後ろでなにやら二人が楽しそうに話しているのをよそに、俺は一人昂るのだった。

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