010希望
あんな出来事がありましたが、ここでの暮らしは意外にも平和です。
きつい労働をさせられるのではと思ったら、特別そんなことはなく、内職のような簡単な仕事をさせられたり。
ノルマが設定されてますが、それほどきつくありません。
ダマラさん曰く、奴らに塩を送っているようなものだが、生きるためだ。仕方がない。だそうで。
部品を組み付けるだけの簡単な作業なのですが、これが一体何に使われるのか予想がつきません。
ノルマが終わったらその日は自由。牢屋...というよりお城の一室で自由に過ごしていいそうです。
通信機器以外の雑貨や贅沢品は、ドアのモニターに入力すれば、一週間以内に食事と一緒に支給されます。
ダマラさんが、キセルやお酒を愉しんでいる時があって、聞いてみるとそんなシステムがあるようで。
「すまん。うっかり説明するの忘れてたわ。」
と平謝りされました。
シャワールームまで完備されていて、この一室だけで生活できてしまい、あまりに快適でダメになってしまいそうです。
「ここでダメになるようなら、私の国の一族の恥になる。私は負けない。セッカも自尊心だけはしっかり持っておきなよ。」
とダマラさんは言います。言った矢先にゴロゴロしてますが。
私は一刻も早く、あの日常へと帰りたいと願ってます。
この平和な捕虜生活の中で私に異変が起きました。
ある日の食事のとき。
「あんなかっこいい事言った手前だけどさ、やっぱここの食事はおいしいよな~。」
「もう、ダマラさんったら。またこぼしてますよ。」
「いやー、これ本当うまいわ~。」
(いやー、これ本当うまいわ~。)
(?)
ダマラさんの声がまるでエコーのように二重に聞こえたような。
「こっちも。うまいいいぃ。」
(うまいいいぃ。)
また聞こえる。
「しあわせ~。」
(しあわせ~。)
さすがに3回も聞こえるとなると、気のせいではないでしょう。私疲れているんでしょうか。
「どうしたセッカ?こっち見て?」
(しっかしセッカは肌白くてかわいいよな~。)
今度は違う声が聞こえてきました。
「ダマラさんって正直な人って言われません?」
「おお、よく言われる言われる。」
(よくわかったなぁ。セッカ)
「ちなみに天然、わかりやすいとは?」
「う。...たまに言われる。」
(なんか痛いトコ突かれたな...)
やっぱり。
これはダマラさんの心の声…たぶん。
あまりじっと見るのもアレなので食事に戻る。
「どうしたんだ?いきなり。私ともっと親睦を深めたいか?」
「そんなことありません。これ以上親睦になったらいろいろと危なっかしいです。」
「なんだよーいいじゃねえか~。女同士もっともっと仲良くしようぜ~。」
「しょ、初対面のことを忘れたとは言わせませんよ!!」
おかしい。食事に戻ったところでダマラさんの心が聴こえなくなる。
ダマラさんに気を向ける。
「...おい。どうしたんだ、そんな気難しい顔して。」
(苦手な食べ物でもあったかな?)
「今、苦手な食べ物でもあったかなと心配したでしょう?」
「い、いや。別にそんな、あるならもらおうとかおもってないし!!」
「...」
私はお見通しだと目で訴えかける。
「...うう。すまん。なんでわかったんだ?」
「不思議と声が聴こえるんです。」
「声?」
「心の声のような、声が。直接頭の中に。」
「ふむ...お前、もしかして、適合者とかいうやつじゃないのか!?」
「適合者?」
「そうそう、まず私の国じゃ滅多にお目にかかれないエリート中のエリートのことだよ!!」
「外界から来たヤツしかお目にかかれないヤツだよ!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて。」
ダマラさんは私の手を両手で握ってくる。
「最初からそんな能力を持ってたのか!?」
目がこれ以上ないくらいキラキラしている。
「いや、これが初めてで...」
「じゃあやっぱりエリートなんじゃないか!!」
「くぅ~まさか私にエリートな友達ができるなんて!!」
「ちょ、ちょっと!!」
ダマラさんの手を振りほどく。
以前もこんなやり取りがあったような。
「私は本当に一般人で、エリートなんかじゃないです...」
「早く平和な日常に帰りたいと願う一般人なんです。」
「ああ、悪い...雪花にも故郷はあるもんな。」
「すまなかった。一人で盛り上がっちゃって。」
「い、いえ...」
通学路で人がいないと気づき、目が覚めると、牢屋というお城の一室の中で。
そこでは繁殖用として捕虜がたくさんいて。
実際には全く危害のない平和な牢獄で。
でも私の住んでいたあの平和の中じゃなくて。
そして急にエリートになって。
ああ、頭がパンクしそう。
ダマラさんのバカ。
私は一体どうすれば。
どうすればいいの。
「なあ...」
ふいにダマラさんが話しかけてくる。
「私にはセッカのような能力は無いけどさ。」
「今セッカがすごく悩んでるってのは痛いほどわかる。」
「私、セッカと会ってそんなに経ってないけどさ。」
「初対面でちょこっと失礼なこともしちゃったけどさ。」
「一応友達なんだからさ。だよね?お互いわからないことだらけだけど、力になれるよう頑張るからさ。」
「お互いいつもの日常へと帰りたいのは変わらないと思うんだ。」
「帰ることのできる日まで一緒に頑張ろうよ。頑張るからさ。」
馬鹿は私で。
「ダマラさん!!...ダマラさん...」
気が付くと私はダマラさんに抱き着き思いっきり泣いていました。
ダマラさんも泣いているようでした。
牢屋の一室で鳴き声が反響し続けました。
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あれからも私達は平和な牢屋で日々を過ごしています。
とりあえず私にできることは。
待ち続けること。
生き残ること。
これに全力を注ぐしかありません。
ふと牢屋にある小さな窓を見ると。
まるで自由の象徴のように、空は青く澄んでいて、太陽はまぶしくて。
こんなに空がキレイだと思ったのは初めてでした。
窓には外に出られないように、鉄格子がはめられていますが。
でも予感がします。
私たちは自由になれると。
いつか達人が私の前に現れてくれると。助けに来てくれると。




