たまねぎ
主催者なのに、大変遅くなりました。
この作品は、私の活動報告(2018/1/1)で実施した「第七回 かっぽうミニ企画」のお題「以下の絵から着想したショートストーリーまたは詩(ただし、本文中に『愛してる』という語を必ず入れること
)」に挑戦した作品です。(挿絵は後書きに入れています。)
参加者のみなさんには、忘れさられているかな……。
「愛してるよ」
「嘘ばっかり」
これが、私たちのルーティン。
冗談のつもりで始めたんだけど、だんだん本当に思えてきちゃった。
あの人が玄関で靴を履いて、「愛してるよ」
それに答えて私は、「嘘ばっかり」
はじめのうちは、しばらく二人でにやにやしてた。
だんだんその時間が短くなって。
今ではもう、くちびるが横に伸びきる前に、あの人はドアを開けてしまう。
だから私は、慌ててつけ足すようになった。
「いってらっしゃい」
って……。
「愛してる」って、単純な言葉。
なんのひねりもなくて。
かといって、軽やかな感じでもなくて。
「愛してるよ」
「嘘ばっかり」
顔を見なくても言える。
毎日の繰り返しが、表情を隠してしまう……。
最近、実感できたのは、
私が風邪をひいたとき。
いつものように言わなかった。
私が布団を出られなかったから。
あの人は代わりに持ってきた。
階段の隅にあったたまねぎを、
寝ている私の枕もとに。
一番赤くて、まるいやつ。
そして、何も言わずに出ていった。
ちょっとよくわからない、
あの人なりの優しさだった。