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第74話 ヴィラックの戸惑い

 デカ過ぎるミミズの魔物をシアンさんが退治して、

おれ達はブリアン家の屋敷へと帰ってきた。



 けれど、無残にも崩れ落ちた屋敷を前にして、

おれ達は呆然と立ち尽くすことになってしまった……


 街も酷かったけど、ここの惨状も酷い……



「みんな無事だったのかっ! 」

「ジョンも無事で良かった……」


 こちらに駆け寄ってきたジョンに、

ミザリーさんをお姫様抱っこしているバーントが応じた。


「ミザリーっ! 」

「も、申し訳ございませんっ……」

「ミザリーさんが悪いんじゃないんだ。おれが頼んだんだよ。」


 バーントさんの腕の上から降りたミザリーさんを責めるジョンに、

おれが口で割って入った。


 ミザリーさんがおれを連れ出したのは、おれのためだったんだから……


「ソーマ様……」


 ミザリーさんがおれへと体ごと顔を向け、


「……見ての通り、こちらの状況は最悪だよ。

庭園に避難した者達以外、全員瓦礫の下敷きだからね。」


 うわ……


 それでも何かを言いたそうだったジョンのそれを聞いて、

おれは絶句してしまった。



 どうしてこんなことに……



*



 ヴィラックは表面上は平静に、

しかし内面では動揺をしていた。



(殺そう、壊そうとばかり思っていた気持ちが湧いてこない……)


 腕に『お姫様』を抱きかかえてから、

いや、教団の仲間を裏切った時から、

 ヴィラックは日頃から湧き出ているはずの衝動(悪意)が

抑制されていることに気づいて驚いていた。


 本来であれば、雨であろうが魔物が街を襲おうが、

ブリアン家の屋敷を仲間たちと共に襲撃し『お姫様』を奪い去る。


 そういう計画を練っており、そのために高値の果実酒を調達していた。



 しかし彼が酒を買い終えた後、

雨は降るし、屋敷近くにいるはずの仲間たちもいなかった。


 直感で街中であると判断して駆け、

仲間を裏切り『お姫様』を助けてしまった。



(助けて、と言ったから……)


 腕に抱きかかえた黒髪の『お姫様』を見る。


 女子供のような小さな体躯に幼いように見える顔立ち。


 貴族女性の衣装( キメルス )に身を包み、お姫様というよりはお嬢ちゃん、であったが。



(本当に邪神様なのか? なぜそう思ったんだ? )


 ヴィラックは今更ながら、自問自答をしていた。



 ヴィラックは悪人と称される側の人間だ。


 物心ついた時から目につく物を壊し、人を傷つけるのが好きだった。

力で、言葉で、自分以外の何かを攻撃し、破壊するのが好きだった。


 そんなヴィラックは幼い内に家から追い出され、村から追い出された。


 追い出された腹いせに家や村に火をつけて逃げるくらいのことは

平気で行なえるくらいの悪人であり、


 偶然にも旅人に保護されて大人に、冒険者として成長していくと、

その悪事への欲求を、人ではなく魔物相手に変えて誤魔化していた。



 そんな彼が黒魔導教団に入ったのは、

彼の素行を探っていた者たちが、彼を団員へと引き込んだからであった。


 ヴィラック自身も、本来持っていた欲求を、

魔物ではなく人を相手にして満たしたいと思っていた時期でもあり、

信仰心なんてものは持たずにあっさりと入団していた。


 そんな彼が『邪神様』に傾倒するようになったのは、

教団たちの教え――ではなく、

ソーマをホルマの街で見かける以前の時期からであった。



 それまでは単に『存在して(い)』れば良いな。と思うくらいで、

人や魔物、物質以上の『世界』を破壊できるとされている邪神に、

小さな憧れを持っていたくらいだった。



 しかし、ヴィラックはその時期から、

『幻聴』に悩まされることとなったのだった。


(殺せ、壊せ。それが望みではなかったのか? )


 力を込めれば簡単に砕き へし折れそうな体を、

ヴィラックは自分でも信じられないほどに優しく抱きしめている。



 自身の悪意を増長させる幻聴を受け入れてから、

 自分がドンドン強くなっていくのがわかり、

彼はそれが心地良かった。


 そしてヴィラックは、ホルマの街でソーマを見かけるのだった。



 ―― 目を覚ませぇっ!!



 街中でソーマが、彼より大きな男を殴り倒す場面を、ヴィラックは見た。


 一瞬、彼の周囲に粉でも撒いたのかと思うくらいにキラキラと

彼の姿が輝いて見えていたのを、ヴィラックは今も覚えていた。


 その時は、自分が殴られたわけでもないのに、

彼の言葉通りに、目が覚めたような気がしていた。



 しばらくは聞こえなかった幻聴も再び聞こえ出し、

ヴィラックは今日まで悪意に従って生きてきたのだが……



 ―― 助けてくれて、ありがとうございました。



 『お姫様』に感謝を述べられ、『幻聴』も聞こえなくなり、

ヴィラックは自身でも、どうしていけば良いか わからなくなっていた。

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