第67話 想いを乗せて
ソーマとブラウが話を終えた後、
ブラウはジョンとバーント、
それにマルゼダを連れて別室へと行った。
その時、アルテナはブラウに、
「彼のそばにいてやってくれ。」
と、頼まれた。
ブラウに頼まれるまでもなくアルテナは彼のことが心配だったし、
あの時のことがあったから尚更、彼から目を離すことができなくなっていた。
アルテナがシアンのそばにつかずに、
ソーマ達と一緒に加工屋まで同行したのは、それがあったからだった。
部屋から出ていくブラウとすれ違う時、
「彼に問い詰めないでやってくれ。」
とも、アルテナは頼まれていた。
アルテナがブラウの部屋に入ると、
ソーマは床に膝をつき、寝台の横に上体を預けた状態で体を震わせていた。
あの時とも違う彼の姿に、
けれど彼から漏れる しゃくりあげる声に、
アルテナは、また胸がじわりと熱を帯びて痛むような思いをしていた。
「ソーマ……」
「……な、何? 」
パッと振り向いてこちらを見上げた彼の作り笑顔。
アルテナには、
(まるで幼い子ども―― )
――のように見えてしまい、
「あ、アルテナ? ど、どうしたんだよ!? 」
彼のそばで膝をつくと、正面から彼を抱きしめてしまっていた。
「どうした、じゃないわよ。……泣いてばっかり。」
「ご、ごめ、―― んっ!? 」
抱きしめて密着した状態で顔を彼へと向けていたアルテナと、
抱きしめられて驚き、顔を赤く、慌てて彼女へと振り向いたソーマ。
そんな二人の頬はもちろん、唇の端っこが、ちょんと触れてしまい、
ソーマは再び慌てて、顔を背けてしまっていた。
アルテナは触れた唇の感触に目を丸くしていたが、
驚いたのはその一瞬だけで、
「……ソーマ。」
落ち着いた様子で彼の名前を呼んだ。
「な、何? 」
顔を背けていたソーマは呼びかけられて、
今度はゆっくりと顔を振り向かせ、
「んぅっ!? 」
唇に押し当てられた彼女の唇の感触に、目を見開かせて驚いていた。
「~~ !? あ、アルテナっ!? 」
抱きしめられていた時から顔を赤くして体が固くなっていたソーマだが、
「ソーマ。」
「は、はいっ!? 」
耳元でアルテナに声を掛けられると、
さらにガチガチに緊張していた。
「……今まで言うのを忘れてたけど。」
「? 」
アルテナはソーマの両肩に手を置いて顔を少し離して、
「魔物に攫われた時、凄く心配したんだからね。
それに森の中でソーマが死んだかも、って思った時には私も、
もうどうしたらいいかわからなくなったし……
最近は、私が見てない間に何か色々あったみたいだけど、とにかく――」
ソーマの目を見ながらアルテナは、本音をうち明けた。
「―― 生きていてくれてよかった……」
「―― っ!? 」
何を言われるのかと不安そうにしていたソーマは、
その言葉にビクンと体を震わせ、じわりと瞳が濡れてきていた。
「また泣きそうになってるじゃない。」
「だ、だって……ぅんっ……」
言い訳をしようとしていた彼を、彼女は唇で黙らせた。
「こんな状況じゃないと、私だって『こういうこと』しないんだからね。」
「う、うん……」
「ほら、ソーマ。」
こくこくと頷く彼を、アルテナは改めて抱きしめ直し、
「あ、アルテナ……」
ソーマの両腕がそっとアルテナの背中にまわり、
二人は抱き合って、唇を触れあわせていた。
*
体温が、汗が、匂いが、そして唇と唇が触れ合う感触が、
アルテナとキッスをしているんだ、ってことを実感させてくれていた。
アルテナは出逢った頃より、おれより背が高くなっていた。
唇を密着させるために、彼女の方へ向くために若干上向きになってしまう。
でも嫌じゃない。
アルテナの腕鎧や胸鎧のごつごつとした感触が、おれをキツく抱きしめる。
服の下の鎧が、彼女の鍛えた筋肉が、今はおれを強く安心させてくれる。
けれど、おれが彼女を両手で抱きしめると
折れてしまうんじゃないかと思うくらい、彼女の体が細く感じていた。
おれは自然と瞼を閉じてしまっていて、
彼女の匂いが、唇の感触が強く感じる。
触れて、離れてもまたすぐに重ね合わせて、
互いの鼻息が顔に触れていても、今はそれさえ受け入れられている。
自分の心臓が凄くドキドキしているの、アルテナにも伝わってるのかな……?
アルテナの綺麗な白金の髪は、出逢った頃に比べるとかなり伸びて、
さらさらと揺れている。
初めて女の子と―― アルテナとキスをしている。
それは凄く嬉しくて。
でもそれ以上に――
―― 生きていてくれてよかった……
そう言って微笑んでくれたのが、キス以上に嬉しかったんだ……




