第64話 おやっさん
「街からは少し離れたけど、ここの加工屋は腕が良いからね。」
街の中央から南に外れたところにある この店に、
おれとアルテナと、ジョンとバーントさんは訪れた。
屋敷の中で、おれの持ち物がなくなっていたことを、
ジョンはひたすら謝ってくれて、
ただでさえ服も靴も作りに連れて行ってくれたのに、
今度は鎧まで用意してくれることになった。
「それで、なんでソーマは抱き上げられているの? 」
「裸足で石畳を歩きまわるのは痛いんだよ……」
アルテナがこちらを見上げてそう聞いてきたのを、
おれは恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じながら答えた。
昨日、靴や服を作りに行ったばかりだから、
おれが履ける靴がないんだよね……靴もなくなったし……
「……」
「……」
バーントさん、どことなく表情が暗いんだよな……無表情だけど。
まぁ、バーントさんの顔見て……怯えちゃったからな……おれ……
朝起きた時には、頭にズキズキとした痛みを持っていた記憶だけど、
時間が経つにつれて痛みもなくなって、
押し倒されてからのことを思い出せるようにはなっていた。
思い出せるってだけで、思い出すのが辛いのは変わらないけどね。
シアンさんは、あれからも顔を合わせてくれないし、
一人で斡旋所に行って、依頼を受けに行ったらしい……
ブラウさんは、どうやら昨日は帰ってきてないみたいだし。
……アルテナも、いつ旅を再開させるつもりなんだろうか?
それもわからない……
加工屋に入ったけど、入り口の受付みたいな部屋には誰もいないし、
しばらく待ってから奥の部屋に入ると、なんだか雰囲気が暗いのか、
どことなく様子がおかしいような気がした。
「あれ? 家主はいないのかい? 」
「あ、ブリアンさん。」
ジョンが店内を見回していると、
ガタイが良くてなんだか知的な感じの男性が近寄ってきた。
「おやっさんは……」
「何か、あったのかい?」
この人は加工屋の主人じゃないのか。
でもって、なんだかおやっさんとやらに不幸があったような感じ。
「なんでも、子供が死んだって斡旋所から報告を受けたらしくて、
それ以降、もう物を作るのはやめるって……」
「そ、それは……」
その人の話を聞いて、ジョンも、おれたちも何も言えなくなった。
子供が死んで悲しんでいるのに、そりゃ仕事なんかできないよね……
「おれたちがいくら『続けてくれ』って頼みこんでも聞いてくれないし、
このままじゃ、住み込んで師を望んだ連中も他所に行かないといけないし――」
「―― 誰と話し込んでんだ。表閉めとけって言っただろうが。」
「おやっさんっ!? 」
声が聞こえたのか、男性よりも背も体格も大きい爺さんが顔を見せた。
この怖そうな顔のおやっさん、バーントさんよりデカいんじゃないか?
男性も男性でデカいんだけどさ。
「あ? ブリアン家の嫡子じゃねぇか。
悪いがもう仕事はしねぇよ。そんな気にはなれねぇ。」
「け、けれど……」
「私からもお願いできないかしら? 」
最初から聞き入れるつもりのないおやっさんに、ジョンも戸惑っていたけど、
なぜかアルテナが声を掛けた。
「はあ? 」
「……」
「……っ、……ないな。絵描きのアイツにも言っておけ。
『二度とこっちに話を振ってくるな』ってな。」
「そう……」
アルテナと何かあったのか?
なんか暗黙のやりとりがあったみたいだけど……って、いうか……
「そっちのお兄さんは作れないんですか? 」
「おれ? 作れるには作れるけど……」
おれが声を掛けるのに驚いた様子で男性がそう答え、
「いや、ダメだな。おれが認めない。」
「やっぱり……」
おやっさんの言葉にガクリと肩を落としていた。
見た目みたいに、腕前に関してもかなり厳しいみたいだ。
「何の用で来たかは知らんが、二度と来るな。」
そう言って、おやっさんが背中を向けて戻っていくのを見て、
「まぁ、お子さんがなくなって悲しんでるところを
無理強いするのも悪いですしね。」
おれはジョンやアルテナたちに向けて言ったつもりだったんだけど、
「――っ!? 待て、黒いの!! 」
「っ!? 」
いかつい顔をさらに怒らせておやっさんが詰め寄ってきた。なんで!?
「斡旋所で聞いたぞ!! ヒューリーが死んだ依頼の村で、
黒い髪の人だか魔物だかが出たって話だが、
お前、何か知ってるんじゃないだろうなっ!? 」
おやっさんが怒鳴りながら、そう問い詰めてきた。
こ、怖ぇよ、このおやっさん……
思わずバーントさんにしがみついてしまう。
「ヒューリーの父親だったのか……」
そして、それに反応したのはバーントさんで――
「なんでぇ。ヒューリーのバカは斬られて当然だったのかよ……」
―― バーントさんの説明で、おやっさんは事情を理解したみたいだった。
バーントさんだけでは言葉が足りなくて、
ジョンが説明を補ってたけど。
で、ヒューリーって人は魔物の卵を密輸、売買していたところを、
たまたま通りかかったマルゼダさんに見つかって、
口封じしようと襲い掛かったけどマルゼダさんが返り討ちにした……らしい。
マルゼダさん強ぇなぁ……
おれが『母さん』に連れ去られたのも、これに絡んでるみたいだし……
「あー、あいつ昔っから手癖悪かったしな。
ここから叩きだしたけど、他所で迷惑かけてたんじゃあ斬られるわ……」
そう言っておやっさんは、片手で目元を押さえて天を仰いでいた。
「……」
そんな様子を弟子の人? は、ハラハラした様子で見ていた。
「アイン。」
「は、はいっ!? 」
「もうちょっとだけ待ってくれや。それと酒と食い物をありったけ。
食って寝て、あいつのことは忘れる。物を作るのはそれからだ。」
「はいっ!! 」
おやっさんに言われて、弟子のアインさんは嬉しそうに返事をして、
「おめぇら、今の聞いたか!? 」
通路の方に引っ込んだかと思ったら、結構ドスの効いた声で、
他の弟子の人達? に、いろいろと命令を出していた。
「そういうことだから、また来てくれや。」
おやっさんは険が取れたみたいで、
そう言って少し口元に笑みを浮かべ、
「脅かして悪かったな、お嬢ちゃん。」
頭をぐりぐり撫でつけられた。
頭ハゲるからやめて欲しい。それに、
「おれ、男です。」
「……、……なんでそんなヒラヒラを着てるんだ? 」
おやっさんは信じられなかったんだろうけど、
みんなが無言で頷いていたのを見て、信じてくれたようだ。
「いろいろありまして……」
「そ、そうか……」
おやっさんは気まずそうにしていた。
あー、早く服と靴と、それから鎧が欲しいなぁ……
いつまでもバーントさんにお姫様だっこされてる場合じゃないしね。




