第61話 闇の黒さに動くもの、夜の暗さに眠るもの
ソーマの悲鳴がブリアン家の屋敷に響き渡る夜、
闇の暗さに紛れて蠢くものたちがいた。
「おお、本当に黒いな。」
「どうせなら、昼に見ておきたかったがな。」
「こいつ生きてたら、被害凄かったんだろうなぁ。」
「村の連中はこいつを恐れて、ここに近づかなくなってて助かったぜ。」
尾行の男――ヴィラックの報告を受け、
黒魔導教団の命を受けた者達が 黒い魔物の死骸を回収しに森へ来ていた。
「これが元は鳥の魔物だって信じられないな。」
「下の方は犬……狼か? 」
「もう死んでるけどな。」
「そろそろ包んで持って帰るぞ。」
荷車に、包み隠す布にと、
着々と運び込むための準備が進められていた。
だが――
「なんだっ!? 」
「気を付けろっ!! 」
森の木陰 夜の静寂に、
彼ら以外の草葉を踏み慣らす音が響き、
教団の者達は一斉に警戒を敷いた。
樹をなぎ倒して現れたのは、緑色の体毛を持つ大きな犬の魔物。
「魔物か、こんな時に。」
「まぁ夜だしな。」
「囲んで同時に、だ。」
「わかってるよ。」
現れた魔物に対して、軽口を叩きつつ彼らは武器を構えていた。
数の上では教団の者達のほうが有利だが、
魔物の強さは数で測れるわけではなく、彼らは魔物を囲むように散開していた。
犬の魔物の唸り声を聞きつつ、男達は目配せをし、
いつでも同時に攻撃できるよう気を配っていた。
しかし彼らは気づいてしまった。
「なっ!? 」
「嘘だろっ!? 」
「魔物が群れを成してやがるっ!? 」
「ど、どうすんだよこれっ!? 」
その魔物のより小さめの犬の魔物 数体が、魔物ではない野犬の群れが、
彼らを遠くから囲んでいたことに。
彼らが周囲を見回すうちに群れがジリジリと寄り、近づいていき、
最初に現れた犬の魔物の咆哮と共に、群れが一斉に彼らを襲い掛かった。
飛びかかった野犬を何匹かは切り伏せた彼らも、
数の暴力に蹂躙され、悲鳴すらも群れの鳴き声に『食われて』しまった。
ついでに黒い魔物の死骸をも貪った犬の魔物の群れは、
一つの塊のように統率の取れている状態で、西へと向かって行った。
*
ノースァーマの街より西には、
北にある山々から流れる川と巨大な湖、
湖から水をカラドナ大陸の南や南西に送るために作られた水路があった。
その水路を渡るための橋の上を 複数台の馬車が東へ走っていたが、
鋭い鞭のような一振りが、そのすべてを壊して水路の中へと叩きこんでしまった。
壊れた馬車の木片とともに、水面へ浮かびあがった者達がいたが、
その者達が一斉に水の中へと引きずり込まれて、二度と出てくることはなかった。
その代わりに水路から、びちゃびちゃと音を立てて触手の魔物が現れ、
東へ向かって移動していた。
*
「どうしようかなどうしようかな。」
用意された部屋の中、上半身裸のヴィラックは枕に頬擦りしながら、
寝台の上をゴロゴロ寝返りをうちながら呟いていた。
「呼ばれたよね呼ばれたよね。これ絶対呼ばれてるよね。」
喜びながら、そしてまた困っていた。
「だってまた聞こえたからね。助けをねぇ。殺せってねぇ!! 」
笑いながら、泣きながら、怒りながら、
「でも、今行くのはマズいんだよ、それがわかるんだよ。んぃぃー! 」
コロコロと表情を変え、ついには枕を噛んだヴィラックは、
「ぐぅ……」
寝た。
寝顔だけは穏やかなヴィラックであった。
*
もがき、叫び疲れて、ソーマが寝ている。
幼児のように丸くなって寝ている姿を見て、
アルテナは なぜだか胸が痛んだ。
「って、なんで裸になってるの!? 」
寝台のそばで服を脱いでいくミザリーに、
アルテナは目を丸くしていた。
「なぜ? って、今日改めてジョン様から、
ソーマ様の傍にいるよう申し付かりましたから。」
「それはみんなが出て行く時に聞いたわよ。
それと裸になるのは 別じゃないの? 」
脱いだ服すべてを備え付けの衣装棚へ入れたミザリーを、
ジト目で眺めつつアルテナは言った。
「服を着たままでは、服に皺ができてしまいます。」
「ちょっ!? 裸で添い寝!? 」
躊躇なく寝台に上がり ソーマに添い寝するミザリーに、
アルテナは顔を赤く、
(待って、ソーマが寝込んだ日から、
アイツが片時も離れなかったんだから……夜は二人とも裸だった!? )
それに気づいて両頬に手を当て、更に顔が紅潮していた。
「……、……、……」
アルテナは しばらくソーマとミザリーの様子を見ていたが、
(ね、寝る時に鎧は邪魔だし、ふ、服に皺ができるのは嫌だものねっ! )
腕や脚、腰鎧、借り物の衣装を脱いで、
ミザリーのように衣装棚へ入れ、ソーマの添い寝をすることにした。
流石に恥ずかしくてミザリーのように
全裸にはなれなかったアルテナだったが、
(ソーマがあんな風になるなんて……何があったのかしら? )
灯りも消して部屋の中が夜の暗さだけになると、
彼への疑問が恥ずかしさをも塗りつぶしていた。
(朝、起きたらどうなるのか……)
それが気になりながらも、アルテナも眠りについた。




