第31話 大鷲の魔物の巣
ホルマの街から彼ら―― ソーマを尾行していた黒魔導教団の男は、
焦りと苛立ちと危機感に苛まれるも、気持ちを落ち着けながら尾行を続けていた。
街を出た当初は、彼らは見晴らしの良いところを選んで通っているため、
遠くからでも目で追いやすく、また尾行しやすかった。
街の英雄であるブラウ・マディソンが
こちらに気づいているのかいないのか、こと細かく振り返るせいで、
迂闊に近づくこともできなかったくらいで。
警戒はされていても、尾行をすることがそもそもの目的なのだから、
他の教団の者に引き継ぐまでは、時間も余裕も この男にはまだあった。
それなのにあの鳥の魔物が、
(事もあろうに邪神様を狙い――)
誘拐していってしまうとは思ってもみなかった。
まだ魔物が彼らに襲い掛かり戦闘をするのであれば良かった。
戦闘になれば邪神様のお力を拝見することもできたであろうから。
その様子を観察し教団へ報告するだけでも、
褒美がもらえるであろうと考えていた。
だが邪神様はあっという間に攫われ、それを半裸の少女が追い、
街の英雄は連れの女とともにのんびりと後を追っている始末。
本来なら今すぐにでも邪神様の様子を確認するため駆けだしたかった。
しかし迂闊に行動すれば、街の英雄に気取られる。
もしこのまま彼を見失ってしまっては教団から何を言われ、
どんな処罰が下されるかはわからない。
(忌々しい元冒険者の老いぼれが……)
男はブラウとシアンを尾行する形でソーマの後を追っていた。
いずれは彼らと合流できるものとみての判断であった。
*
森の、木々の間にある巨大な巣を見つけて、
おれはこの魔物の目的がわかった気がした。
地面や木の幹のせいで歪に変形した巣の残骸。
むせ返る動物の血の匂い。
散乱する卵の殻、でろんと流れ飛び散った粘り気の強い液体。
おれの胸の中で、義憤と悲しみが渦巻いている気がしている。
それが例え、相手が魔物で、動物であっても……
アルテナから聞いた、あの時の親蜘蛛の魔物の話を思い出す。
子蜘蛛の大群をやられた親蜘蛛は怒りのあまり、
地上に降りてきて執拗にアルテナを追いかけ狙ったと言っていた。
この鳥の魔物はどうだろうか?
おれが狙われたのは……
巣を荒らされ、子供をやられて、その敵討ちのためなのだろうか?
そう思っていると、そーっと巣に乗せられた。
雑に落とされるかと思ったけど意外と優しい?
そう思い見上げた頭上。
「えっ? 」
その一言しか出て来なかった。
視界一面を覆いつくして なお迫りくる魔物のお腹。
動物ならば、鳥ならば、その行動がどういうことか理解した。
自分がなぜ連れ去られたのかもまた、理解し直してしまった。
自分が背負っている荷物は、この鳥の魔物の卵に似ていたのだろう。
色とかまるっこい感じとか――。
ってことは……つまりはこの鳥の魔物、まったく おれのことに気づいてない。
そして視界が完全に真暗になったら、
お腹の下で蒸されるのもわかりきっていた。
あ、アルテナっ、早く助けに来てくれーーー!!




