表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
302/302

第302話 黒の思惑集いて

 ソーマ達は、シュロソ導師の動向を注意すべく、

オーソバの街のボルレオ城に向けて、チカバの街を旅立(たびだ)った。


 黒い寄生樹の魔物から()れた『黒魔力(くろまりょく)()


 それは、食べた人間を魔族に変える 恐ろしい果実(かじつ)だった。


 その果実を持ったシュロソ導師が、どこに行こうとも、

その先に住んでいる他人に食べさせるのは予想できていたからだった。


 ソーマ達の他に、道中の護衛として雇われた冒険者達や

衛兵士長の(フレーデンの)手紙を持った兵士達も馬車を走らせていた一方(いっぽう)

黒魔導教団 本部の、導師以上の者でしか入れない室内では――



 教団の中では古参で、最年長のローグレー導師が入ってきた時、

薄暗い室内の中には、壁掛けの火の棒(照明 )の火の光に()らされ、

白い人影が六つ、ぼんやりと浮かんでいた。


 本部(ここ)()る会議室や、団員達も(つど)う集会場、

団員達の 日々の(いの)りを(ささ)げる祈祷場(きとうば)とは違い、

ここは、導師達の(おこな)う 儀式の場の(ひと)つだった。


 この場所が選ばれたと言う事は、

他の者達には聞かれたくない導師達の、

内密(秘密)の話をするには 絶好の場所だった。


 椅子も 机も無い、木の板も床に()かれていない、広い石室に、

ローグレー導師の足音だけが カツコツ と 響いた。


 部屋の中央を(かこ)むように立つ六人を見ながら、

彼等と同じように中央を避けて歩くローグレー導師は、


(『手捏糸(てこし)』のシュロソが()ない……? )


 室内に()面々(めんめん)の顔を見つつ 歩き、

床に(えが)かれた『火の紋様(もんよう)』の上に立ち止まった時、


(そろ)ったか。」


 湾曲(わんきょく)した六角形の、下の二辺(にへん)が半円状の『X』に似た形で、

中心に 縦の線が入った紋様――『裏の紋様』の上に立つ男が、

誰にともなく 声を上げた。


 白く 長い外套(ローブ)を着た、濃い灰色の髪に、

切れ長の(するど)い目をした男性で、


「グラファイト。一人(ひとり)()ないのに(そろ)っただと? 」

「……」


 ローグレーの言葉と視線を、冷たく受け止めていた。



 穏健派で『火』の上に立つ ローグレー導師は、

過激派の導師の『手』『足』『水』『裏』の四人の中では、

『裏』のグラファイトが 一番 嫌いだった。


 ローグレーから見て――


 『手』の導師は邪神を信仰していたが、その信仰心が強く、

危ない性格をしていたが、研究室に(こも)っていれば動かなかったし、

魔法の研究など、団員達への恩恵(おんけい)(もたら)した。


 『足』の導師は物資や人員の運搬のため 各地を転々としていたが、

『足』の導師本人は考え()らずだが 役目上 争う事は無かったし、


 『水』の導師は 水の研究や海への進出のために活動していて、

水中の魚や水草など、食用に利用できるかの実験していたらしいが、


 『裏』だけは、ローグレーでも何をしているのか把握できなかったし、

好戦的 排他的な『裏』の配下の者を、ローグレーは焼いた事があった。



 ローグレーは、(かす)かな(あか)りにキラリと光って見える男の目を、

主神(しゅしん)の名を持って焼ければ どれだけ()いかと考えていたし、


 グラファイトはグラファイトで、自分を敵視している老人(ローグレー)を、

闇の中に消してしまいたかった。先代の『裏』のように。



 その冷たい空気が流れるのを 取りなす様に、


「まぁまぁ、シュロソが来ないのなんて珍しくないでしょう。」


 素足を描いた『足の紋様』の上に立つ男が二人(ふたり)に話しかけ、

頭に巻いた赤い布を巻き直す前に、淡い茶色の髪を、

後ろへ かきあげていた。


「シュロソも、カーフに言われたく無いでしょうに。」


 その男――カーフに、深い青色の長い髪をした女性が声を掛け、


「おれは あちこちに行くから来れない時があるけど、

シュロソは そもそも、話を聞いてないだけで。」

「どうかしらね? 」


 と いう 掛け合いをしていると、


「カーフ導師、インディーノ導師、

不要な話は そこまでにしてもらおう。」


 その二人(ふたり)の会話を、薄い黄色の髪と目をした男が止めた。


 その男の足元には、目にも 太陽にも似た『前の紋様』が、

インディーノの足元には、波線と水滴の『水の紋様』が描かれていた。


 その一連(いちれん)の流れを、


「……」

「……」


 『風』と『土』の導師二人(ふたり)は無言で見ていた。



 この室内の石床には、

中心を(かこ)むように、八つの紋様が(えが)かれていた。


 ローグレー導師の足元には『火の紋様』が、

グラファイト導師には『裏の紋様』が、

カーフ導師には『足の紋様』が、インディーノ導師には『水の紋様』が、

先ほど二人(ふたり)を止めたビケット導師の足元には『前の紋様』が、

『風の紋様』の上に ウィステリア導師が立ち、

『土の紋様』の上に カクタス導師が立っていた。


 そして、この場には不在のシュロソ導師が立つ場所に

『手の紋様』が描かれていたのだった。



(また、総統(そうとう)に呼ばれて集まったのに……)


 ウィステリアは、この状況を(この)ましく思っていなかった。


 導師の半数が過激派である事もだが、

そもそも 勢力を二分(にぶ)する現状もだし、

『土』のカクタス導師が中立の立場を取っている事も、

彼女や他の穏健派の導師から見ても不安要素であった。


 先代の『土』の導師が教団を抜けた事が、

教団内部に 確実に影響を与えていたのだった。


 それに、過激派の導師達は全員、

先代の導師が急死して代替(だいが)わりした者達ばかりで、

穏健派の三人ほどの信仰心も持ち合わせていなさそうな態度が、

穏健派が(いだ)く不信感を強める結果に(つな)がっていたのだった。



「導師達よ。」


 この場に()た全員が、入口(いりぐち)とは正反対の、奥に注目した。


 奥には 一体の石像が置かれていた。

石像は一人(ひとり)の男性を(かたど)られ、

右手に剣を 左手に(くわ)(たずさ)えていた。


 黒魔導教団の信仰する主神(しゅしん)ヤクターチャの像だった。

過激派や他の者は、邪神ヤクタルチャイルだと呼んでいた。


 さらに、その石像の奥は、黒い布で(おお)われていて、

その黒布の向こう側から、導師達に声が掛けられたのだった。



 向こう側、その 導師達の立つ床よりも一段高くなった所から、


「教団員同士での争いは禁じたはずだが? 」


 教団の最上位に()総統(そうとう)(するど)い声が飛んできた。


 そのために、導師達は(だま)った。


総統(そうとう)本日(ほんじつ)、我々を集めたのは どのような――」


 その中で、グラファイトだけが(くち)を開いて 話しかけたが、


「『裏面(りめん)』のグラファイト。」

「はい。」


 総統(そうとう)に名を呼ばれて返事をし、(くち)を閉ざした。


「『踏果(とうか)』のカーフ。」

「なんでしょう? 」


「『水妖美(すいようび)』のインディーノ。」

「はい。」


 総統(そうとう)は 次々と名前を呼び、


「『震土(しんど)』のカクタス。」

「はい。」


「『風読(かぜよみ)』のウィステリア。」

「はい……」


「『進光受(しんこうじゅ)』のビケット。」

「ここに。」


「『拓火(たくか)』のローグレー。」

「はい。」


 他の者達も、総統(そうとう)に名前を呼ばれて返事をしていた。


 そして (あらた)めて導師全員が総統(そうとう)の言葉を待ち、


「ホルマの街で確認された黒髪の男。その男は今 どこに()る?

ノースァーマの街を出て、チカバの街に()る事が確認された。

それが わかっていながら、彼は(いま)だに ここに来ていない。」


 総統(そうとう)は本題に入った。


「お言葉ですが――」

「話は終わってない。」

「―― 失礼しました……」


 また(くち)を開いたグラファイトを総統(そうとう)(だま)らせ、


「わかっている。教団本部に連れてくる事ができない現状は。

だが、話をする事も できないのか? 手紙を送る事も?

以前、強引に連れ去ろうとしていた と 聞いたが、

まさか、そのような手段しか使えないのでは あるまいな? 」


 総統(そうとう)は導師達に(たず)ねた。


 しかし、これに答えられる者は(かぎ)られていた。

担当する地域や役目があり、するべき事をしている者達には、

ソーマを教団本部へ連れて来る余裕が無いのであった。


 これに答えられたのはグラファイトだけであった。


「そんな事は ございません。

急ぎ()た情報では、彼の身辺を守る者達が多く、

彼自身も常人(じょうじん)ならざる強さを持つようで、その……、

周囲の者達が()るために近づけない状態なのです。

近づけば 近づいた者が捕らえられるでしょうし、

手紙も、彼が読む前に握り潰されるでしょう。」

「ふむ。」

「まだ 街に潜伏している者達が()りますので、

彼に動きがあれば追う事ができますので ご安心を。」


 そのグラファイトの報告を、穏健派のローグレー、

ビケット、ウィステリアは(こころよ)く思っていなかった。


 それは つまり、捕まえられる時には捕まえる と、

そう言っているようなものにしか聞こえなかったし、

総統(そうとう)と話をする事で 優位性を持っていたからである。


「その、常人(じょうじん)ならざる強さとは? 」


 総統(そうとう)は質問をし、


「素手で()の七人を倒し、シュロソの手下を倒し、他人の暗殺を防ぎ、

魔族と()した者と対等に渡り合っておりました。また、魔法を扱い、

屋敷の外壁を復元、雨を降らせて火を消し、傷を(いや)しました。

また、街の人々は彼に対し、畏怖(いふ)(いだ)いて ひれ()しました。」


 その報告を聞いて、全員が どよめいた。

といっても、足の導師(カーフ )(すで)に それを知っていて 驚かなかったが、


(知らない間に、そこまで強くなっていたのか――!? )


 ソーマと出会った事のあるローグレーの動揺は大きかった。


 以前会った時は、ただ 髪が黒いだけの非力(ひりき)な人間だったし、


御主神様(ごしゅじんさま)の子では? )


 と、黒髪(つな)がりで考えた事もあるローグレーだったが、

過ぎ去る日々の(いそが)しさの中で そんな考えも抜け落ちていて、

その強さの変化に ローグレーは驚いていたのだった。





 報告を聞いて動揺する家臣(かしん)達の中で、


「それでは、その『黒髪』こそ、脅威ではないかっ!? 」


 丸々と太った 金髪の男が、

(つば)と食べかすを()き散らしながら驚いた。



 ボルレオ城近隣の 高級料理店の二階の個室で、

ポルコ・ネェロが中心となって話し合いが行われていた。


 この太った男こそが、家臣の中でも重鎮(じゅうちん)のポルコで、

この部屋に集められている者達は皆、豪華な服を着た、

ポルコの息が掛かったネェロ派とも言える家臣達であった。


 各々(おのおの)に並べられた豪勢な料理を食べ、酒を飲み、

今後も このような食事の機会を続けるための会議をしていたところ、

以前、ゴルド王にソーマの事で報告をした事が()る、

比較的若い臣下(しんか)の男―― サングニア・デモノシベが現れ、

チカバの街で起きたソーマ達の戦闘に(かん)して報告し、


「えぇ、その状況を見ていた者も、

思わず ひれ()しそうになったのを(こら)え、

早急に こちらに戻ってきたと言っていたらしいですからね。」


 報告書を持つ手が震えている事を隠そうとしていながら、

ポルコの(くち)から (つば)と食べかすが飛ぶのを見たのだった。



「以前は、来るかどうか わからないから『様子見』だと言われたが、

こちらに来るつもりである事は明白だ。」

「チカバからの手紙を手に入れたのは幸運だったな。」

「王子が直々(じきじき)に何度も受け取っていたのは不審(ふしん)だったしな。」

「黒髪の男、報告書通りの強さなら、あまりにも危険過ぎる。」

「ラウドが(かか)わっているならば、余計に だ。」

「だから、最初に報告された時に――」


 と、家臣達が次々と(あせ)り、不安、恐れの声が上がる中、


「ポルコ様、どうしますか? 」


 斜め後方に近づいてきたサングニアの質問に、


「どうするも こうするも、消えてもらうしかない。

『黒髪』も ラウドも。生きていてもらっては困るのだからな。」


 ポルコは そう答えて焼肉(ステーキ)(かじ)りつき、

その勢いで 肉汁が飛び散った。





 教団内での派閥争いの事や、黒髪の男(ソーマ )の事、

それぞれの活動の成果や、人員の増減について(など)を話し合い、

他の導師達が()った後の儀式の場で、


「ローグレー。」

「はっ。」


 総統(そうとう)は居残っていたローグレーに話しかけた。


 (いま)だに 二人(ふたり)(あいだ)には黒い布で(さえぎ)られていたが、


「黒髪の男、確かに見たのだな? 」

「はい。見た目は……背も小さく、女の子のようでしたが……」

「女の子? まぁ良い。

この世界に 確かに生きている事が わかっていれば、それで。」


 総統(そうとう)は先ほどよりも(した)しみのある雰囲気で、


「破壊に()る新生、それが黒魔導教団の教義。

悪しきモノ 古きモノを壊すのは この世に生きる人々のため。

剣を振るうのも (くわ)を振るうのも そのためだ。」

「その通りです。」

「黒髪の男が現れたのは……いや、なんでもない。」

総統(そうとう)? 」

「ローグレー。その黒髪の男を……守れ。

報告通りの強さだとしても、この世界には必要だ。

教祖(きょうそ)が黒魔導教団を作ったのは、

魔力(まりょく)と魔物に()る 世界の変化から、人々を救うため。

今の この世界は、彼に守ってもらうしかないかもしれない。」

総統(そうとう)……」

「下がって良いぞ。」

「はっ。……」


 退室を(うなが)されてローグレーは出て行ったが、

総統(そうとう)の言葉に ただただ 驚き戸惑(とまど)うばかりだったし、


(この世界に……? )


 その言葉が 彼の頭に、(みょう)に こびりついていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ