MR-080「生き残れ、若者」
「どうした、どうしたあ! そんなんじゃ羽虫一匹落とせないぞ!」
「かすりもしないっ!? 人間か!?」
名前も知らない、若いながらそこそこ腕は立つであろうウィザードの声が他の面々の代弁をしているであろうことは見てわかる。それにしたって、人間か?はないだろうよ、こんな年寄りを捕まえて……。
ちらりと見れば婆さんは何が楽しいのか、隅っこで笑ったままだ。隣のエルナははらはらした様子で見ている。と、そんな間にも10人ほどの相手から祈祷術による攻撃が飛んでくるが……まあ、正直なことだ。若さゆえか、単調すぎる。
すいすいと避け、敢えて横合いから火球を叩き落すことまでして見せた。
「魔獣相手ならよっぽどいいだろうが……お前たちは術に気持ちを乗せすぎてるな。殺気というか……どこに撃つかがバレバレだ」
「だけど、気持ちを乗せて祈らないと神様は応えてくれないって……」
集団の中でも一番若い男、というか少年と呼ぶ方がいい奴の顔を見る。恐らくは外からではなくこの土地で育ったのだろう。足元には魔法陣を描いた絨毯のような物。移動しながらの戦いに適さないウィザードたちの苦肉の策だ。現場にいちいち書かなくていいからな。
「習熟するまではそうさ。俺だってそうだった。この中で霊力を見ることが出来る奴はいるか? 術を使ってもいい」
問いかけに応えたのは半数ほど。思ったよりも多い数だ。実際に使う機会はまずないからな……ただ、ならば話は早い。左の手のひらに霊力を集め、適当に火の球を生み出す。
「じゃあ見える状態でこれを見てろ」
「はい!……あっ!」
真面目に答えた1人が大きな声をあげてあらぬ方向を見る。霊力が見える連中は同じ動きをし、見えない奴は何のことやら、と言った様子だ。何が起きたかというと、俺が火の玉に込めた……どこへ投げようかという霊力の流れを見て取ったのだ。
「よっぽど咄嗟の一撃でもない限り、こうして霊力の流れが出来るのが重要だ。これを知って戦えば、味方に当てないようにするにはどこが良いか、相手がどこに撃ってくるか、ざっくりとだがわかる。もちろんどんな術を使うかは相手次第だがな」
「けど戦いとなれば状況から大体絞れる……合わせると相手の動きが読めるということですか?」
限界はあるがそういうことだな、と答えてやれば急に騒ぎ出し、互いに術の確認を始める。婆さんが選んだだけあって、その辺は優秀というか、やれる連中みたいだ。しばらくは好きにさせるかと思いながら眺めていると、エルナは1人、浮かない顔をしていた。
「どうした、混ざりたかったのか?」
「うん……あ、でも……私足手まといになるかしら?」
一瞬、何を言っているかわからなかった。エルナが足手まとい? あいつらより? とんでもない!その言葉をぐっと飲みこんで言うべき言葉を探した。そして気が付く。なんだかんだと、エルナは普通のドルイドとしての修行はまともに積んでいないなと。メリッサや俺、そして婆さんから教えを受けているがよくよく考えたら3人とも一般の術者ではない。
(色々過程を吹っ飛ばしてるし、比較対象が俺達じゃあなあ……)
「婆さん、ここまで考えてたのか?」
「さてね。だったらどうするんだい?」
質問に質問で返されてしまったがそれはもう答えと言ってよかった。俺は今まで気がつけなかったことを申し訳なく思いつつ、どうしたものかと考え……1つの結論を出した。
習うより慣れろ、古来より伝えられる話だ!
「よーし、お前ら。外に出るぞ」
「「「え?」」」
東がきな臭いとはいえ、逆に言えば西側とかは問題が少ないということだ。であれば……やりようはある。戸惑う10人に、金を稼ぎたいだろう?と身も蓋もない問いかけをしてみるとあっさりと頷いてきた。準備金を婆さんに渡す必要があったように、どの祈祷術使いも基本的には金がかかるのだ。
さっそく、需要はあるが手数が必要だからと敬遠されていたような仕事をいくつか選び、まとめて受けた。例えば、とある森に巣くった小さい魔獣の退治だとか、数を集める仕事だ。
「いいか、やるからには赤字は許さん。マジクルは装備品に気を付けろ。ウィザードは何もできないという状況をとにかく少なくしろ」
「「「はい!!」」」
少しは人を疑うということを覚えたほうがいいような気もする返事の術者たち。やはり、先に必要そうな雑貨を買いそろえてやったのが効いてるのだろうか? なんだか……人数が増えそうな予感である。無事に終わり、次があればだが。
ぞろぞろと、まるで昔いた教会兼孤児院で外に食い物を集めに行った時のように進む俺達。こんなことをしている時間があるのか?とも思わないでもないのだが、ここでやっておかないといざという時にこいつらは……死ぬ。
(そういうのはまあ、回避したいところだよな)
1人でもモノになれば、いざという時の援護が良くなると思えばいい、そう考えている。そうこうしているうちに現場近くになり、術者たちに緊張が広がっていくのがわかる。
「エルナ、お前ならまずどうする」
「え? えっと……そうね。今回の仕事は街道に出てくる魔獣の話だから……少し周囲を観察して足跡とか集中してるところがないか探すところかしら? 魔獣は馬鹿じゃないから、人間とぶつかれば危険なことは知ってるはず。だからそれでも出てくる理由がどこかにあるはずだって教えてもらったわ」
最後の部分は余計だがしっかりと教わったことを口にしたエルナに、術者たちからの感心した様子のまなざしが向けられる。誰かからそうやってみられるのには慣れていないだろうエルナは顔を赤くしながらも俺に言われるままに観察を始めた。
「あ、この辺ね。森からこっちに続いてる……」
周囲を警戒しつつも、ぞろぞろといった状態で進んだ先には……川。流れは緩やかで、砂地もあるからどんな魔獣でも水を飲みやすい状況になっている。昨日あたり出来たばかりだろう足跡を前に、緊張した様子の術者たち。
「あ、あの!」
「ん、どうした」
「わざわざ川に魔獣が来るってことは、森の中に何かあったんじゃないでしょうか」
おずおずとした仕草ながら、手をあげて意見を言ってきたのは術者の中でも一番最年長らしい男だった。と言ってもまだ少年のような物だ。それはそれとして、良いところに気が付いた。
「かもしれないな。こういった討伐の仕事は、対象の奴だけを倒せば終わりとは言えないことが多い。余力を持っていないと、そういった追加に対応できず……終わる。気を付けていけよ」
その後も、適度な緊張感をもってエルナの主導で仕事をこなしていく術者たち。やはりというべきか、森の中に流れる小川を占拠していた別の魔獣を退治することになったがこれも収入だ。
一通りが終わり、清算を済ませた術者たちの顔には、笑顔があった。
「で、それがどうしてこうなるんだ?」
「私にもわからないよ。それだけ世の中優しい奴が少なかったんじゃないかい?」
どの口で言うのか、そう叫ぶことも許されない。術者たちを返した翌日、俺たちの宿の前には若い連中が集まっていた。全員が術者という訳じゃなく、やむを得ず冒険者になったような……ガキどもだった。
「おじ様……」
「あー……くそっ! わかったよ。少しだけだぞ」
どうしてこうなったのか、今でもわからないがそれからしばらくの間、俺は街に残る若い連中を鍛えるというよくわからない生活を過ごすのだった。
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