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MR-079「過ぎる時間と過ごす時間」


 東の空に天使が降りて来るであろう光の柱たちが目撃されてから一か月。俺の予想に反して小競り合い程度で済んでいた。逆に言うと、小競り合いが始まってしまった、とも言える。これまでは色々と噂はありながらも隣国とは交易があったのだから。


「戻ったぞ」


「お帰りなさい! どうだった?」


 最近は婆さんに習いながら編み物もやっているらしいエルナに首を振る。今日もまた、どこぞに10人ほどの東国の兵士がいたという話ぐらいだった。一体何だって言うんだろうか? こちらの状況を探るにも明らかにおかしい。一番の問題は相手が逃げていかないということだ。


「普通でない状況だから普通の動きをするはずがない……なんて言ってしまえば楽なんだけどねえ。はて……アン坊、その兵士達は捕まったのかい?」


「ああ。こちらを見るなり突撃してきたが返り討ちにしたか、武器をはじくと棒立ちになったから捕えたそうだ。だが何もしゃべらないそうだよ」


 直接見ることは出来なかったが、話を聞く限りではどう聞いても普通ではない。まるで……そう、まるで人形のような態度だという。受け答えが全くないというのが異常なのだ。しかも、黙秘してるということではなく、どこかを見上げてぼんやりするばかりだというのだ。


「聞けば聞くほど頭が痛いねえ」


「ああ、まったくだ」


「えっと……どういうこと?」


 エルナが戸惑うのも無理はない。恐らく中央や他の奴らも気が付いているとは思うが……だからと言って状況が良くなるわけではない。つまりはそう、天使が東国にあの柱が光る以前から結構な期間で影響力を持っていたのではないかということだ。


 どれだけかはわからないが、兵士を送り出すぐらいのことは出来る状況にある……最悪に近いところだ。


「天使たちの使う術の中には、洗脳めいたことをする物もある。それを使って魔獣を馬代わりにしていた時もあるらしいからな。だがこの術は解けない」


「え、じゃあ……その兵士さんたちは生き残っても戻れないってこと? そんな……あ、私のならどうかしら!?」


 半ば予想していたエルナの返事の後半に、予想していなかった言葉がくっついてきた。なるほど、俺の右腕の呪いを解除するエルナ独自の祈祷術か……どうだろうな。


「一時的にはいけるかもしれんが、俺の腕がそうなように戻ってしまうからな。正気と狂気を行ったり来たりは、残酷だぞ」


「うっ……もしやるならあれをもっとすごい術にしないとだめなのね……」


 落ち込むエルナの頭をぽんぽんと撫でつつ、考え込む婆さんに向き直る。婆さんも俺と同じく、何年も前から隣国の中枢に近い部分に天使が食い込んでるのではないか、という予想にたどり着いたはずだ。


 もしそうであるならば、婆さんの見た夢の現実味がかなり増す。正確には、早いうちに起きるだろう可能性が上がってきている、というところだろうか。神の見せる夢は基本外れないからな。だがもしも、その夢が自分の大事な誰かが死んでしまう夢だったら……? 最後まであがくしかないだろうな。


「こうなってくると問題だねえ。戦争前に宣言する馬鹿はいないけど、始めた後も何も言ってこない奴なら現れるかもしれないよ」


「動くのが天使だけで暴走みたいな感じにならないか、それ」


 俺たちが懸念するのは、天使たちが奴らだけの考えで兵士を動かし、夢で見たように攻めてくることだった。そうなると全滅するまで止まらないだろうことが簡単に予想できる。人間としての戦争であればどこかで妥協点を探れるかもしれない。


 だが、対天使となればそれがない。生き残るか、殺されるか……それだけだ。


「ちょっとばかり街の若い連中に仕込んでくるかねえ。1人でも使い手が増えるほうがいい」


「だったら金がいるだろ? 好きに使ってくれ」


 俺やエルナと違い、ウィザードやマジクルは金がかかる。陣を描く程度ならそこそこで済むが、婆さんのように装備で戦うマジクルは祈祷術使い3種の中でも一番の金食い虫だ。魔法陣を補修するぐらいで済むウィザードと違い、マジクルは装備が壊れたらそれを新調するか直さねば術自体が使えない。


「いいのかい? おつりはないよ?」


「この辺が無事にすむなら安いもんさ」


 小袋の中身の価値を婆さんはよく知っている。だからこその台詞だろうが、実際あの世に金を持っていけるわけでもないし、なんだかんだと稼いできたのだ……国からの報酬はあまり上がらなかったけどな。その分、つまみ食いするように壊滅させた盗賊やらは多いし、発掘品もいい金になった。


 部屋を出てどこぞへと歩いていく婆さんを見送りながら、俺は隕鉄剣の手入れを始める。その横でエルナもエルダートレントの杖を握ってはうんうんうなっている。


「おじ様、私は何もしなくていいの?」


「今は杖に慣れてろ。出番がすぐに来るぞ」


 出番?と首を傾げるエルナだが、実際に彼女の出番はそう遠くない時期にやってくる。婆さんが鍛えた奴ら相手に、という形で。その時には俺も一緒かもな。マジクルの装備を壊さずに相手をするというのはコツがいる。エルナも強くならなければ勝てても装備を壊してしまうばかりだろう。


(ああ、やることは多いな)


 そんな風に思いながらも、誰かの血を見るばかりの戦いよりは、ほっとしている自分がいた。英雄として、天使を含めれば数えられないほどの命を奪って来た俺だが、戦闘狂という訳でもない。

 町のどこかで、婆さんであろう霊力が高まるのを感じながら、時間を潰す俺。


 そしてさらに1週間後。俺とエルナは街はずれで恐らくは婆さんが仕込んだであろうマジクルたちと向かい合っていた。地方では1人か2人いれば上等だというのに、やはりどちらの意味でも金の匂いには敏感な奴らだ。


「じゃあ、今日はアイツに撃ち込んでみな。心配いらないよ。今のあんたらの術じゃアイツの壁は破れないから」


「ま、自慢じゃねえが食った歳の分だけはあると思ってくれ。エルナはそこで見てろよ。祈祷術への対処法ってやつをな」


 並ぶ術者たちは全体的に若かった。若いというのは良いことだ。どんどんと吸収してくれるし……何よりも、挑発に弱い。今だって、婆さんの言いようが気に入らなかったのか、結構本気の目つきの奴が何人もいる。


「始めようぜ」


 俺の声を合図に、静かだった街はずれに祈祷術による攻撃術の花が咲き乱れた。


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