MR-060「神々の加護」
多分200話まではいかないとは思います。
「まてまてー!」
「ほーら、こっちよ!」
そう広いでもない庭に、子供たちの声が響く。その中にエルナの声が混じっているのはご愛嬌ってやつだな。周囲にも家があり、場合によっては苦情が来そうなものではあるが……今のところ、そういった苦情を言いに来る奴に出会ったことはない。思い返せば、俺がここにいた時もそうだったな。
「皆が子供たちのことを大切に思ってくれている。素晴らしい事ですよ」
「そんなもんですかね?」
朝の祈りを終えた先生に試しに聞いてみると、確かに大騒ぎをすると顔を出すぐらいはするらしいけどうるさいと言われたことは無いらしい。どちらかというと先生の人徳のような気がしないでもない俺だった。先生、カインド司祭は昔から周囲に好かれる人だった。力もあまり強くないのに、住民の喧嘩に割って入ったり、若い頃には街の外に出て駆け出しが怪我をしないようにと見回っていたとか聞いたこともある。
「ええ、そんなものです。ですから、無理せず自分の届く範囲を手助けしていればいいのです」
「先生はそう言いながら結構無茶してましたよね」
昔を思い出して笑いながらそう言うと、そんなこともありましたかね、なんて笑って流されてしまった。もういつ死んでしまってもおかしくない、そう自分で言う先生だが確かにそんな歳だ。俺だって倍は生きられないだろう。それでも視線は変わらず、生き生きとしている先生を見ると俺もうかうかしていられないなと思う。
「どうですか。置いてきたものは見つかりましたか」
「たぶん……いえ、はい。仮にそのまま英雄を続けていたとしても、助けられなかった命はどこかにあった。全てを救おうと思うのは傲慢で……自分以外の誰かを信じていないのと同じなのだと……」
思い出すには少し辛い思い出の場所もこのあたりにはいくつもある。既にこの世にいないかつての仲間と過ごした店なんかの前を通る時には気になったりな。でも、それすらも今思えば、大事なことだと気が付いたのだ。忘れずに胸に彼らのことを残していくそれが正解だと。
「ルナルネーヴェ様はずっと加護を授けてくれていたのでしょう? 月は、どんな夜も変わらず貴方を見守っていたということですね」
「今度は、俺がその優しさをアイツに与えてやろうと思います」
視線の先では、子供たちに囲まれて笑顔ではしゃいでいるエルナ。子供達もエルナがかなりの力を秘めたドルイドであり戦える人間だということを知っても態度を変えない。むしろ、尊敬しているフシすらある。子供にとって、物語の英雄と、目の前にいる実力者には大差が無いのだ。
日が暮れるまで遊び倒し、その流れでここ数日そうしてきたように一緒に食事をし、片付けもして寝る時間。俺はエルナを教会に連れだして行っていた。俺を疑わずついてくるエルナに大人としては少々考える部分があるのは間違いないが……。
─ だっておじ様が私が困るような何かをすることは絶対にないもの
なんて言われては俺も何も言えない。苦虫を嚙んだような顔をしていると言われてしまい、さらに困ったぐらいだ。予定とは主に俺の方が違う状況だが……誰もいない教会に2人で入る。
静かな祈りの場。昼間や朝なんかは結構周囲の人々が祈りに来るこの場所も夜は無人だ。何人も祈りを捧げている場、というのも色々な神の気配を感じられて学ぶ物は多い。次はそう言う時間帯に連れてこようと思っている。今日は……集中出来たほうがいい祈りを行うのだ。
「エルナ、俺が月の女神から加護を受けてるのは知っているな?」
「うん。だからこういう時間帯の方がおじ様は活躍できるのよね」
彼女の言うように、俺の加護が強まるのは月明かりが目立つ夜だ。昼間も十分加護は働くのだが、照らされていた方が間違いなく、強い。天使もまた、昼間より夜の方が活動が活発になるというのだから皮肉のような何かを感じる。
「そうだ。今のエルナは俺のように決まった神からの加護は受けていない状態だ。そこでこれから思いつく限り神様に祈り、それを感じてもらう。上手くいけばその中の神が加護を授けてくれるだろう」
「昼間じゃいけなかったの?」
「昼間はな……太陽の力が強すぎるのさ」
事実、昼間に同じことをやると大体は太陽に宿るとされる神からの加護が得られる。ただ、その力は幅があり、無いよりはマシ、という場合が最も多いのだ。その上、下手に強い加護を貰うと太陽の場合……うん、目立つ。北にいるというあの小僧がいい例だ。
自分の中で納得がいったのか、静かにエルナは膝をつき、祈りを開始した。つぶやかれる祈りの句、そして混じる神の名前。自然と壁にかかったランタンにその神に対応した光がほのかに灯る。これだけでもエルナの素質を熟練者なら見抜くだろう。普通にやったら精々が3つ。なのにエルナは既に10は超えている。床の石、椅子の木材、水瓶の水、さらには風や火、思うままに祈りを捧げ、神々もそれに応えていた。
そして……。
「あ……」
「これは……」
エルナを中心に、光が漂って来た。1つ1つは小さな……とても小さな光。赤や青、緑や白……どこか知っている、けれども俺も正体がつかめない光だった。数えるのも面倒なほどの数となり、光は無数の模様となってエルナを中心に渦巻き……その体に飛び込んだ。
俺の目には、エルナの中に確かな加護の輝きが感じられた。しかし、この輝きと気配は……単独の加護ではない輝きだ……。
「エルナ、何を感じた?」
「えっとね……全部……かしら? 空や大地、森も……うーん、星……って聞こえた気がするわ」
その言葉に、しばらく呆けた後……静かに笑い出してしまった。エルナにはけげんな顔を向けられたが勘弁してほしい。なんということだろうか? 誰か1柱の神が加護を与えるのでは問題があるのか、少しずつだが多くの神々から加護を授かったようだ。それはもう、彼女の言うように星からの加護と言えるだろう。
「おじ様、これでいいの?」
「ああ、問題ない。明日からやれることをどんどんとやっていこう。背中は任せたぞ」
「うん、うんっ!」
ひどく喜ぶ姿を見て、もっと早くからこうしていればよかったかな、と思ったのはエルナには内緒である。
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