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MR-059「芽吹く不穏たち」


 王都を中心に活動し、お互いの経験を積むこと、そして運が良ければ遺跡から良い道具でも見つかれば……そう思っていた。残念ながらというべきか、遺跡の類はほとんどが外れ。そのほかはこの前のような屋外を拠点にする盗賊等ばかりだった。対天使は実のところ、実入りという点では少ない。盗賊と違って財宝をため込むことは少ないし、そんなものが残っているのは僻地か、今だに前線として争っているような場所ぐらいの物だった。


「ただまあ、経験は詰めたからマシかと思っていたんだがな、あるところにはあるもんだ」


 誰にでもなく小さくつぶやいた。それは周囲の騒ぎに溶け、誰も聞いてはいない。というのも、今回討伐した盗賊共が予想外にため込んでいたからだ。銀貨なんかは言うまでもなく、どこの大店を丸ごと襲ったのかと言わんばかりの状態だったのだ。


「コイツラどこからこんだけ持ってきたんだ?」


「本当だな。山分けしても一財産だぞ……」


 今回は共同での依頼受注となっており、俺とエルナ以外にも何人かの冒険者が参加している。元軍人らしく、魔獣よりも盗賊共を相手にしている方がいいという考えの特殊な奴らだ。これだけ聞くと、人に褒められつつ人を殺したいというような危ない奴らに感じるかもしれないが、魔獣は場合により人を襲う存在だが盗賊は間違いなく人を襲う、という考えから来る奴らであった。


「見て、おじ様!」


「んん? オイ……こいつは……」


 恐らくその価値を正しく把握はしていないであろうエルナの差し出してきたもの。それは杖だった。もちろんただの杖ではない。一見するとただの細い木の枝にも見える短杖とも呼べるもの。片腕には他の何か、例えば盾だとかも持てるような大きさだ。肘から先ぐらいの長さしかないと言えば短さがわかるだろう。


 その正体は、今となってはこのあたりでは貴重品であるエルダートレント、トレントが長く生き抜いた先に進化するという相手の芯材を使った一品だ。こうしてエルナが持っているだけで感じる力は間違いないだろうと思われた。


「俺たちはこれといくらかの銀貨で構わん」


「それほどか? そうなると俺たちじゃ捌ききれないからな、それでいい」


 俺たちの会話に、エルナと男の仲間たちも驚いた顔をする。それはそうだろう。盗賊共がいた洞窟の奥には金銀財宝があったわけだが、その量は先ほど言ったように、かなりの物。何年も遊んで暮らせる量だ。それなのに、こっちはこの杖1本と少々でいいというのだから。


 ここで揉めるようなら考える必要があるが、価値がありすぎるというのも厄介であることを男達は十分知っているようだった。あっさりと交渉はまとまり……主街道から近い場所にあった盗賊の根城から外に出る俺達。


「また一緒にやれる時があればよろしく頼む。最近動きが気になっているところだ」


「その時があればな」


 別れる男達を、エルナがなにやら納得いっていない顔で見送っていた。男の1人が、大きな袋をいくつも馬にくくっているのがそんなに気になるのだろうか? 確かに見た目の儲け具合ではあっちの方が上だろうし、実際に合わせた金額でもあっちが上になるかも……しれない。ただ、こればっかりは金を積めば手に入るという物でもないからな。


「エルナ、飯ぐらいはおごってやるぞ?」


「いつも出してくれるじゃない! おじ様ぁ……なんでこっちを選んだの? 確かに普通じゃなさそうだけど……」


 俺は祈祷術を使うにも剣を使う、というわけでトレントの杖はエルナに渡してある。短い杖だ、エルナでも扱いに困るということは無いだろう。杖に限らず、何かを手に持って祈祷術を使うというのはドルイドではよくあることだ。長杖で地面に魔法陣を描いたり、杖自身に刻んで使い捨ての道具とする場合もある。ただ、今回のそれはそれらとは大きく違う。


「そいつは使い込むと使い手にあった形に成長していくんだ。いわばもう1本の腕のようにな。貴重品だぞ」


「え? た、高い?」


 今さら慌て始めたエルナを笑いながら、馬を進めさせた。後ろから追いかけて来るエルナは必死な顔だ。こちらを見る顔に頷きを返し、背負ったままの隕鉄剣を叩いて見せる。それで言いたいことがわかったのか、腰のベルトに杖をしっかりと固定し、馬の操作に集中するエルナ。そうだ、それでいいのだ。良い戦いをするには良い装備がいる。それだけのことだ。


 王都へと戻った俺たちは、先生に挨拶をした後……ゲルダの店に顔を出していた。相変わらず怪しげな物も、そうでないものも並ぶ店だがつぶれる様子は全くないから儲かっているのだろう。あるいは昔稼いだ分で暮らし、半ば趣味なのかもしれないな。


「おう? 今日は嬢ちゃんも一緒かい」


「こ、こんにちは!」


 最初に出会った時はその姿に互いに驚いていたエルナとゲルダだったが、何がどう気に入ったのかエルナには菓子を出すような始末だし、エルナもまたあれこれと店の物を遠慮せず質問する関係となっていた。今日もまた、俺にはただの茶だがエルナには果実を絞ったと思わしきものを出している。確かそこそこ高い奴だったような気がするが……。


「なんてえ顔してんだ。孫がいるんだよ。このぐらいなんだ」


「孫ぉ!? お前、いつの間に……まあいいか。今日潰してきた盗賊共が妙に羽振りが良くてな。この前言ってた、隊商が襲われたって話と関係がありそうかと思ったんだが……」


「たぶん別口だろうさ。お前はいなかったから知らないだろうが、結構前から規模のでかい盗賊はいるんだよ。平和過ぎるのも考え物だな。多少の被害がまた儲ければいい、そんな空気がいくらかの商人にあるのさ」


 その言葉に思わず眉をひそめた。その考えは、最後には肥え太った盗賊にまとめて食われる可能性を考えていない話だったからだ。ただ、襲われる回数が減っているということがあればそんな風な考え方にもなるのだろうか。


「それよりも、だ。いいネタ入ったぜ。西の貴族と将軍家の娘が結婚する際、騒ぎがあっただろう?」


「……ああ。むしろその場にいたよ」


 ゲルダはどこまで知っているのか、人の噂は怖いな……そう思いながら先を促した。嬢ちゃんを泣かせるつもりはないよ、なんて言いながらの話は驚く物で間違いなかった。例の天使像を送ってきたやつが査察を受けたらしいのだ。


「ささつ?」


「簡単に言うと、怪しいうわさが出たから調べる。知ってることを話せ。嘘をついてもわかるぞってことだな」


 実際にはなぁなぁの関係で、形だけのこともあるようだがゲルダにまで話が来ているとなると本来の意味で査察が行われたのだろう。となると何か問題が見つかったということか?


「開けてびっくり。隣国と通じた形跡があったらしい。まだ表立って動いちゃいないが、城は大騒ぎだよ」


「なるほどな……」


 なんでそれをゲルダが知っているか、なんてことはいちいち聞かない。それが出来るからこそ今日までゲルダはここで生きて来た、それだけのことだ。訳がわからないといった顔をしているエルナを尻目に、どっかりと座り直して話を聞く。


「近いうち、東が戦場になるだろうさ」


「領地の召し上げ、切り取り……か。めんどくさい話だな」


 背を預けると音を立てる椅子。そのまま天井を見上げ……ため息のように息を吐いた。なんとなくだが、無関係ではいられなさそうな予感がひしひしとするからだった。まったく、落ち着いて暮らしたいものだね。

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