表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/87

MR-051「王都への道」


 その日、俺たちは王都へと向かう馬車の中にいた。護衛も付き、少なくない金額を支払う乗り合い馬車といっても幌もあるなかなか立派な物だ。話を聞くに、王都と街を行き来する中流以上の顧客を狙った物らしかった。馬車は2台。1台は客の荷物や、そのほかの物資を乗せている。


「なんだか落ち着かないわ」


「普通の馬車は痛くなるものだからな」


 どこが、とは言わない。自分たちがそこそこいいところの出という役割を演じている以上は口にする言葉にも気を付けないといけない。隕鉄剣自体は布でくるみ、若い時に身につけた護身用だとごまかすことは出来た。旅慣れた雰囲気を出しておけば、後はエルナは素のままでもそんな祖父か叔父に見える俺についてきてもらった少女、の出来上がりだ。


 あの事件からしばらく、何件かの捕り物を目撃した俺たちだったが結局はそれだけだった。いくつかは俺たちの手で被害を与えたところに騒動を聞きつけてやってきた兵士に捕まえさせる、ということもしたがそれぐらいだ。残された弟の気持ちも落ち着いたようで、俺たちの役目はひとまず終わったわけだ。


「お二人は王都のどちらへ?」


「知り合いが住んでるのでね。そこを訪ねに……後は俺は何度も行ったことがあるが、彼女は初めてでね」


 そういってやれば大体は納得する。王都は巨大な湖に面し、水の都とも評される美しい街なのだ。湖に浮かぶ小島にある神殿等は死ぬまでに一度は見ておくべき、そう言われるほど。そこに住む者は皆、神々に感謝をささげ、幸せに生きる……やや盛りすぎな気もするが平和は平和なのだろう。


 なおも雑談を続けつつ、エルナの言うようにふわふわとした尻の感覚に俺も若干戸惑っていた。どこの魔獣の毛皮を加工したのかはわからないが、出した金の分は良い旅を保証してくれそうだった。とまあ、そんな思いもあっさりと砕かれるのが世の中ってやつだな。


「エルナ、ここにいるように」


「わかったわ。中でこっそりね」


「おや? どうかしましたか?」


 さすがに一般人にわかれというのも酷な物。地形的に大体こういう場所だろうという経験からくるカンと、実際に感じた殺気が俺に少し先の未来を教えてくれる。この馬車たちを襲おうという存在が近くにいるということも。


 幌越しに中を守る障壁を張るぐらいならエルナにもお手の物だ。俺はというとまだ気が付いていなさそうな御者の横に向かい、外を見た。そこには護衛に雇われた5名ほどの男女。後方の馬車にも同じ数。冒険者と言えば聞こえはいいが、要は何でも屋だ。そんな彼らだが、姿勢は変わらずともその気配はちゃんと変わっていた。


「爺さん、俺たちはアンタからは金は貰ってねえ。任せておきな」


「お手並み拝見と行くよ。まあ、このぐらいはいいよな?」


 代表格らしい男が眉をひそめたのと、矢が飛来するのはほぼ同時だった。まったく、我慢しきれない奴だ。これで馬車が暴走でもしたら追いつくのが大変だろうに……そう思いながらも別の目的があっておいてある木の板を手にして御者に向かっていた矢を防いだ。


 音を立てて突き刺さる矢が合図となり、木々の陰から出てくる男、男……まあ、大体こういう集団で女がいることはないが、みんなむさくるしい野郎というのも見ていて面白くはないな。それはそれとして、少々面倒な数だ。


「あ、あの」


「なんだ? そばにいるなら一緒に防いでやるぞ?」


 俺が何かするでもなく始まる戦い。矢をけちっているのか最初以来、飛んでくる様子はない。あるいは直接どうにか出来ると思っているんだろうな……相手の数はこちらより多いのだから。

 震える御者は、そのまま腰に下げた袋から何かを摘まみ出した。銀色に光る、硬貨。こんな状況でそれを出すということは……。


「依頼金はこれで。あの人たちの援護と、馬車を守ってくださいませんか?」


「おいおい、仕事に横やりを入れることになるぜ?」


 厳密に決まりがあるわけではないが、こういった形は好まれないことが多い。要はお前たちじゃ足りなかったから、と言われるような物だからだ。実際に不安を抱いているからこそのことなんだが……。

 ちらりと見るが、確かにしのぐのが精一杯というところで馬車の護衛にまで気を回せるか微妙なところだ。


「わかった。主役はあいつらだ。そういうことでいいな?」


 後の交渉はそっちでやれ、と言外に言って俺はエルナと頷きあう。彼女にはそのまま馬車を守ってもらおう。依頼金としては相場よりも多い物だった。緊急ということをよくわかっているということだ。


 素早く俺は大地に宿る神へと祈りを捧げ、足音を探る。慣れないうちはあちこちから音が聞こえるだけの祈祷術だが、俺のように慣れた状態で使えば場所や方向が大体わかる。その数も……な。


(ふん。後ろに増援、か)


 ありきたりだが効き目はでかい。このままだと俺たちは何もせずに包囲されるだろう。そうなるのは……面白くない。天使を傷つけるには遠く及ばない、人間や魔獣程度ならという強さのかまいたちを手の中に産み、出来るだけ大きな音が出るようにして幌を振り返りつつ後ろに放った。


「なんだぁ!? くそっ、そういうことか!」


「時間稼ぎは任せておけ。ほうれ、続けていくぞ!」


 盗賊共は策が見抜かれたことに。冒険者達は乱入ともいえる行為に驚いて動きが鈍っていた。俺の声はそんな中に響き渡り、ついでに冒険者達を支援するべく同じように風の刃を。それで致命傷になることはなかなかないだろうが、細かい怪我は戦意を削る。しっかりと力が入らず、すっぽ抜けるなんてこともあるかもな。


 冒険者達もきっかけさえあれば、さすがの経験者の動きをし始める。1人、また1人と盗賊を仕留め、その動きは徐々に良くなっていく。薪一本が燃えるよりは短い時間で、盗賊共は壊滅した。1人か2人は逃げてるかもしれないが逆にしばらくこのあたりは安全になるだろうと思われた。


「援護、感謝する」


「今回は観光の予定だったんだがね……成り行きってやつだ」


 ちらりとエルナを見てやれば、冒険者達もそう思って(・・・・・)くれる。全盛期は過ぎた元冒険者が手伝ってくれたのだ、と。盗賊共の荷物を剥ぎ、一角に集めて燃やし始める頃にはかなり打ち解けたように思える。ちなみにこういう時は処理が終わるまで馬車はとどまったままだ。放置というのも獣や魔獣を呼び寄せ、街道の治安を悪くするというのは誰もが知っていることだからな。


「多いのか?」


「わからん……が、減ってはいない。俺たちは儲かるから問題ないが、兵士の巡回もあるはずなんだがなあ……」


 再び進み出した馬車。俺は話をするためにあえて降りたままで冒険者達と歩いていた。昔を思い出して懐かしくなったともいえる。道中、盗賊の頻度について聞いてみたがそんな答えが返ってくる。良くもなく悪くもなく……か。


「ただの盗賊一味に英雄様は出てこない、か」


「まあな。そうなったら俺たちが飯が食えなくなるさ」


 笑いと共に言われたことが俺の過去を刺激する。あの時は若かった。力があり、出来るのならそれを使うのが英雄の義務、そんな風に思っているときもあった。結果として平和は一時的に産まれたがその後が問題だった。安くやってくれる英雄がいるなら高い金を払わなくなる、そんな循環だった。幸い、途中で仲間の1人が叱ってくれたので最悪の状況は回避したが……。


 今はそれとは違うが、何とも微妙な状況だ。英雄と呼ばれる存在自体は王都にいることは会話からわかったが、最近はまともに見ていないという。確かに天使もおらず、魔獣も地方にしかいないとなれば英雄が王都にいるというのはただの抑止力でしかない。出てくる機会はそうそうないわけだ。


(平和なのは良いことだが……辛いだろうな)


 使われない力なら、その力を持っている必要がない。そのことに人はあまり長くは耐えられない。英雄とて例外ではないだろうと思えた。耐えるためには他に何か信念のような物を持つ必要がある。それは国への忠誠であったり、そのほかの……。


「見えて来たぞ」


「……変わらないな」


 俺のつぶやきを隣の冒険者はどう感じただろうか? 懐かしさからと思うのか、それとも……。

 胸がざわめくのを感じながら、アースディア王都グラネスへと馬車と共に入った。









感想、拍手はいつでもお待ちしております

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。

小説家になろう 勝手にランキング

○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ