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MR-038「清濁併せ飲め」



「ハハハハハ! いいねえ、いいねえ! 英雄の戦いってのはこうでなくっちゃな!」


 狂ったような叫び声をあげ、天使たちに襲い掛かるサフタ。若い頃も獰猛な獣じみた動きをしていたが、今の動きもそれに磨きがかかっているように見える。時に狼のように飛びかかり、時にクマのようにどっしりとした一撃を。黒剣が振るわれるたび、使徒と天使が傷を刻まれているように見える。


「あれ、おじ様。あのふとっちょが逃げそうなんだけど」


「捕まえてこっちに転がしとけ。俺はアレの中に行く」


 一人で嵐のように暴れるサフタだが、今のところ俺があいつと敵対する理由は無い。色々と問題はあっても天使を滅ぼすという点では気持ちが共通している力ある存在の1人なのだ。何とも言えない微妙な間柄ではあるが、援護はしてやるべきだろう。それが例え、呼び出したのが本人らしいとしても、だ。


「はーい。気を付けてね」


 一人前の発言をするようになった。そう思いながらも彼女の術が無ければ本気を出せない俺も果たして一人前と言えるのだろうか? 少なくとも背中を見せて恥ずかしくないような結果を示すしかあるまい。


 サフタが黒剣を振るうというのに俺だけ普通の鉄剣というのもどうもおさまりが悪い。そう思って俺も隕鉄剣を抜き放って刀身に霊力を薄く伸ばした。それだけでも、そこらの使徒や降り立ての天使なら決定打になる場合も多い。


「話は聞かせてくれるんだろうな!?」


「さあな! サボってた分、自力で探したらどうだ!」


 どういう仕組みか、次々と沸いてくる天使たちを当たるを幸いに切り裂いていく。1体1体の力は天使と呼んでいいのかもわからないほど弱い物だが、普通に切り裂いたのでは死なないであろう手ごたえは変わらずだった。天使の名は伊達ではないようだ。だが、とにかく数が多い。天使の希少性が悲鳴を上げるんじゃないかと思うほどだ。


「ちっ、エルナ! 全部吹き飛ばすつもりでいけ!」


「了解!」


 いくつかは壁際や天井を飛び、エルナたちのいる方向へと向かおうとする。俺もサフタも逃がさないようにと攻撃するがどうしても撃ち漏らしは出る。戦意を失い、怯えるばかりの男達に襲い掛かろうとした天使の1体は、その体を無数の何かに貫かれて沈黙し、そのまま消えていく。エルナが残っていた術者と協力して鉱物を媒体とした祈祷術を放ったのだろう。本来の天使であればまだ完全に消えないであろう未熟な攻撃も、今回の相手であれば有効だったのが幸いだ。


「なんだ、あんな年下が好みだったのか?」


「ぬかせっ! 人妻好きは治ったか!?」


 もう何体の天使を消し去っただろうか? サフタと軽口を言い合いながらも、俺は止まることなく天使を仕留め続けた。場所が場所なら、完全に混乱に包まれているような異常事態だ。それもようやく沈静化してくる。天使が打ち止めとなったようだからだ。


「そろそろか……一つ教えておいてやる。少し黒い場所には興味は示さないが、真っ白な場所には興味を示す奴がいるんだとよ。そうなってからでは遅いかもしれん……だから俺は動く」


「おい、まさかあいつが滅んでないってのか!」


 少なくとも俺が正面から戦って勝てるかと言われると考えるほどには強いはずのサフタ。そんな奴がこうまでいう相手は限られる。例えばそう、かつて10人20人と英雄の命を吸ってようやく地に伏せた3対の羽根を持つ天使だとかだ。だがあいつは皆の犠牲でついには……滅ぼしたはずだ。


「そこまではわかんねえよ。ただ俺は神託を受けた通りに生きるだけさ。あばよ!」


「おい、待てっ! くそ、相変わらず逃げ足の速い……」


 俺1人なら追いかけたかもしれないが、今の俺にはエルナという連れがいるし、周囲の状況も状況だ。それらを放って追いかけるというのは……まあ、正しいとは言えないだろうな。周囲には天使共が暴れた無数の跡。ついでに倒れた状態の使徒たち。まあこっちは朝日を浴びればなかったかのように消えてしまうだろうな……さてと。


「ひぃ!?」


 俺は駆け寄ってくるエルナを従えて、腰が抜けたのかへたり込んだままの太っちょの前に歩み寄る。それが死刑執行の合図にでも感じたのか、豚のような悲鳴を上げて男達がへたり込んだまま後ずさった。

 実際、こいつらのやってることは中央としては反乱に近いことだ。それに、あのことが絡んでるのであればさらに問題だ。


「聞きたいことがある。正直に答えろ」


「はいぃぃいい! なんでも!」


 わかりやすく隕鉄剣をその震える頬に当ててやると、涙なのか汗なのかわからないものが顔に滲み始めたので慌てて剣を下げる羽目になった。そのことを俺の許しが出たとでも思ったのか、ぺらぺらと喋り始める男。


 内容としてはまあ、半ば予想通りだった。隣接した領地に不穏の芽があれば踏み込んで難癖をつけて……という流れだな。ただ、残念だったのは魔獣の件は何も知らないし、関係がないということだった。命の危機を前にして嘘を言う必要性も薄いかと感じた俺はひとまずその言葉を信じることにした。非常に残念だが……なぜなら、ここでいっぺんに解決したら楽だったからだ。また魔獣を操るやつらの手がかりを探して旅をしなくてはならない。


「おじ様、この人達どうするの? 突き出すの?」


 エルナの顔は厳しい。それも当然である。エルナの故郷ぐらいの村でも農具以外の金属用品、つまりは武具に関しては例え自衛のためでもため込みに国はうるさいのだ。だというのにここでこんなに作られているのでは、何のための制限なのかということになる。


 国に突き出されれば処罰は避けられない。そのことがわかっているのか男達が震えあがる。俺は髭の伸びた顎を撫でつつ、考えていた。このまま突き出すのもいいが、もっとうまい手は無い物か……そしてひらめいた。


「なあ、ちょっとばかり内緒話をしようや」


「な、なんでしょう……」


 後で、エルナにはおじ様って、ひどい人ねなんて怒られた顔をして、俺は男達と交渉に入った。





「あんなのでよかったのかしら?」


「だめかもしれんが、上手くいけばめっけもんさ」


 のんびりと馬に揺られ、俺たちは運河を北上する。その脇を、上流に向かっていく船が通り過ぎる。大きさのわりに速度が無いのは、積み荷が重いからだろう。中身は王都へ献上する武具のはずだ。


 そう、俺はそのまま突き出すのではなく、半ば強引に装備の更新を王都へ持ちかけるという手段を取らせたのだ。良質な鉱石を大量に手に入れた、これは国を強くするために武具にしなければ! 面倒な手間を取らせません! 勝手に作ってしまったけど武具を買っていただければ!というわけだ。


 暴論も暴論、王都とてその背後にある状況に気が付かないわけではないと思うが、それはそれだ。王都だって下手に騒ぎ立てて統治が揺らぐのを望むことはない。それに、時々勝手に何かを開発してからそれを献上するのは貴族には良くある話。ただその規模がちょっとばかり大きいだけだ……うん。


 下取りとして元の装備を買い取るように言っておいたので反発も少ないだろう。少なくとも、反乱予備軍として処罰されるよりはましのはずだ。


「なんだか卑怯な感じがするわ……」


「世の中、そんなもんだ。よし、行くぞ」


 納得のいっていないエルナを追い立てながら向かう先は……以前知り合った貴族らしくない貴族、マスクルの領地だった。

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