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MR-036「闇の秘め事」


 国の中央である王都から南に位置する鉱山で有名な火山地帯。その街で知り合った相手から手に入れた情報は、出来たばかりの運河付近に大量に鉱石類が運び込まれているという物だった。もう一方のとある貴族の領地にもという話だったが自身のカンに従い、運河の方まで来た俺とエルナ。


 話を聞き込み、夜の海に怪しい光が、という眉唾に近い噂は手に入れた。実際に夜の海に繰り出したわけだが……。


「これはなんとも……予想外というべきかここまでやるかというべきか……」


「よくわからないけれど、普通じゃないのよね?」


 小声で言いあう2人が見つめる先には、林に隠れるようにして建てられた建物。そこに運び込まれていく大量の何かだった。荷台の車輪が地面に結構沈んでるのが見えることから、荷物はかなり重い。状況的には答えは1つってことだな。


「ああ。問題はなんでこんな場所で隠れてやってるか、だ。別に堂々と作ればいいんだからな。量が問題になるが」


 口にしながらもなんとなくの答えはもう持っている。今俺たちがいるのはこの大陸最大の国であり、広い領土と豊かな国力、それらを武器に大陸に君臨している大国だ。とはいえ、王都と直轄領ばかりとして治めるにはやはり広すぎるのだ。東西南北を貴族たちに預けてはいるが、いくつかの制約は当然のように設定されている。大きな物でいえば1つは納税、そして……所有する兵力や武具の制限だ。兵士自体は補欠、予備ですといってごまかす場合もあるようだし、なあなあの部分も確かにある。それでも人は隠しきれるものではなく、中央の知らない大量の兵士が!なんてことはまずない。


(問題は物、だ。保管さえしっかりできればかなりの量を隠せる)


 では隠してどうするのか? 活発化してきたという魔獣に対抗する? それもあるかもしれない。天使戦? 奴らは普通の武器じゃ滅ぼせない。そんなことは常識だ。では……どうするのか。


「反乱か、騒動に乗じての領土拡大か……どちらにせよろくでもないな」


「どうして領土が増やせるの? 治める貴族様は決まってるんでしょ?」


 素直な疑問を口にするエルナだが、一般人的にはその考えが正しい。少なくとも建前は、中央から預かっている土地を肥やしているのが貴族たちだ。ただ、やはりこれには例外がある。その能力無し、あるいは手に余るとなれば領土の組み直しがあるのだ。


「何度も魔獣の襲撃を受け、さらにそれが防げない土地があったらそこの住民はどう思う?」


「そうね……なんで偉い人は守ってくれないんだ。生活できないってなるわね。あ……」


 合点が言った様子のエルナに頷いて建物の方を見る。動きは変わらない。かがり火に照らされた姿は真面目な顔をしている護衛の兵士、そして欲にまみれた商人の顔だ。恐らく何度も繰り返されてきた当たり前の光景なんだろう。道理でこの町から他の町へと鉱石類が出ていった形跡があまりないわけだ。


「武具を売りつけるのか、自分達で使って援軍に来ましたとして相手の統治能力に疑いを持たせるのでも良いな。あるいは両方かもしれん。なんにせよ……めんどくさい話だ」


 嫌な感じがしたのは外れだったか、そう思う他ない。確かにやってることはよろしくないことだが、俺が首をつっこんでいいような類の物ではないのだ。このあたりになると中央や、力のある他の貴族が糾弾するなりして処分する話になってくる。


 状況を確かめたところでこのまま戻ろうと思った時だ。どうも騒がしいように思えた。というかこの感覚は……羽根付共? こんな場所で? 外れだと思ったのが間違いだったか?


「おじ様、なんだかおかしくない?」


「ああ。もう少し近づいて……あそこから様子を確認しよう」


 ちょうど建物の窓のそばに木々が生えている。このぐらいの高さならエルナを抱えて飛び上がるぐらいは祈祷術を使えばなんとかなる。エルナもそう重いわけじゃないからな……っとそれはどうでもいいか。見張りに気を付けながら、太い枝に飛び上がり中を覗くと……眉を顰める光景が広がっていた。


「あれは魔獣、かしら」


「のようだな。鎖で捕えてある。試し切りか? それにしては妙だな」


 檻の中で鎖につながれた狼型の魔獣がいくつか見える。それらは薬でも盛られているのか静かな物で、騒動の原因とは思えない。むしろ騒いでるのは別の場所のようだ。漏れ聞こえてくる声は、なんだか焦りを帯びた物に聞こえる。


「この感じ……おじ様」


「ん? おいおい、本当にか」


 身を乗り出して別の場所を見ると、ここで作ったであろう武器をなぜか手にしている何人かの人間、そしてそれに向かい合っている他の人間、という構図が目に入って来た。明らかに武器を手にしている方の様子がおかしい。どこかで見たような姿だ……そう、あれは使徒と同じ雰囲気。


 天使そのものがいる様子はない。けれども気配のような物は漂っている。この感じ……召喚前の遺跡に似ている。遺跡から漏れ出るよくわからない物が周囲にいる人間を時に使徒にしてしまうのだ。


「まさか……まさか!? 遺跡の破片を練り込みやがったか!?」


 かなり昔から手に入れることはあっても未だに人間が作ることが出来ない素材、それが天使が召喚される遺跡の石材等である。それらは上手く使えば天使たちを防ぐ障壁を帯びた建物になり、遺跡は放っておけば天使が再召喚されるという不思議な素材だ。だがその取扱いはなかなか困難な物だ。下手に扱うとろくでもないことが起きる。


 そう、目に見えている光景のように。天使を誘ってしまう建物になった、というのは聞いたことがあるが武器にというのは聞いたことが無い。何かあった時の危険度が目に見えるからだ。それを知らない不幸な鍛冶師がうっかり試して騒動になる、というのは聞いたことがあるがここまで大々的にやる工房でそんなことが起きるはずがなかった。普通の考えなら、だが。


「あの人たち、助けられる?」


「わからん。本当に使徒になってるのなら、それはもう見た目は同じでも中身は別の生き物だ。天使の手先としてのな」


 全てに神様がいるというこの大陸の教えと違い、自らの神以外を否定する天使たちの教え。それに共感し、祈ってしまった者や半ば強制的にその教えに染まってしまった人間は使徒となり、まさに操り人形となる。天使とその神を信じない物に生きている意味はないとばかりに命を奪いにくるある意味化け物の出来上がりだ。


「抵抗は……微妙だな。術者が1人か2人はいるはずだが……」


「戦いには向いてないのかも?」


 もっともな意見に頷き、乱入の時期を伺う。どうにか出来るならそれでよし、どうにもならないなら今後を考えると全て片付けるしかない。使徒程度であればエルナに呪いを解いてもらわなくてもなんとかなるわけだが……さて。


「いつ飛び込んでも一緒か……」


「いつでもいいわよ」


 ここにいろ、と言うべきかもしれないがそれはそれで危ない状況だ。だったら手が届く場所にいたほうが逆に安全かもしれん……言い訳だな。見えていない場所でエルナに何かあったら俺はまた駄目な男に戻ってしまう、それが怖いんだ。


「行くぞ」


 そんな気持ちを振り払うように短く言って、俺はエルナを抱えたまま窓から中へと侵入した。突然の音に驚いてこちらを見る面々と、まったく気にしていない使徒化した様子の男達。厄介事しか感じられない状況に内心ため息をつきつつ、鉄剣を静かに抜き放つのだった。


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