ともだちと小説祭(三十と一夜の短篇第8回)
『 おっす! おら、太郎。山田太郎ってんだ。
太郎は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。』
「うーん、こんな感じかなぁ」
友達から誘われて、俺は小説祭というものに参加することになったのだ。
小説祭の説明は、簡単に言うと小説が好きな人の祭り。
もうちょっと詳しく言うと、読書好きが転じて遂に痛々しくも小説を書き始めちゃった系の人の、集まりである。
そこに参加するからには、俺も小説を書かなければならない。
俺だって執筆には興味があったし、簡単だと思っていた。
なのに、書き始めにこんなにも苦労するとは思わなかった。
ちなみに内容としては、俺を主人公とした冒険もの。
ドラボンゴールを集めて、邪智暴虐の王を除く。または超ヤサイ人になって、邪智暴虐の王を草食系男子に変える。
大まかなあらすじとしては、そのどちらかにしようと考えている。
「なぁ、友だち。小説を書くのんって、思ったより難しいんね。どしたら良い?」
一時間あれば、小説を一冊くらい書き終えると思ったのだが、実際はたった二行しか書いていない。
自己紹介と決意を述べただけである。
やっと絞り出した二行だと言うのに、それに続く言葉が見当たらない。というわけで、俺を誘った張本人たる、友だちを家に呼び出した。
数秒後、友だちは俺の部屋を訪れてくれた。
「続きがわかんねぇんだ。アドバイス頼む」
立ち上がって俺は、友だちを部屋の中心までご案内。目の前に立って、しっかりと頼み込んだ。
まずは、二度、拝礼をします。
次に、パン、パンとかしわ手を二度打ちます。
そして、手をあわせてお祈りをします。
最後に、一礼して、お参りを終えます。
これだけ本気で頼み込んだんだから、友だちだって本気でアドバイスをしてくれるはずだ。
「あ、小説ですね。太郎ちゃんが悩んで悩んで書いてくれた小説、読んでも良いんですか? あぁ、楽しみです」
嬉しそうに、友だちは俺の小説を受け取る。
今時なことに、小説は原稿用紙ではなくパソコンに書いているので、小説をと言うか、パソコンを友だちの方へ向けただけなのだが。
とにかく彼が俺の小説を読んでいる間に、俺はみんなに友だちの特徴を説明しようと思う。
まずはプロフィールだろ? 名前は友だち。身長は棚と同じくらいの高さ。体重はりんご三個分よりも重いと思われる。誕生日は六月八日以外のどれかで、血液型はABCのどれか。
うーん、これくらいで良いかな。
外見だよね。顔は小さくて、大きな瞳は他の色がなさすぎて怖いくらいの黒。髪の毛もそれくらいの黒で、艷やかに背中のあたりまでスラリと伸びる。今はポニーテールにしていて、覗く項には興奮する。
肌は真っ白で、日焼けというものを知らないかのように思える。
体型はスラリとしている。それでも、ガリガリじゃないところがまた良い。
声も良い。高くて透き通るような、きれいな声なんだ。
前言撤回して良い? やっぱり興奮はしない。そこは口が滑って本心が漏れただけ。気にしないで。
何にしても、女のように美しい男だ。
だから友だちでいるのかって?
ハハハ、ソンナワケナイジャナイカ。
友だちは友だちだ。美女と仲良くなるのは無理だから、とか、そういった思いは少しもない。
「私、感動しました。さすがは太郎ちゃん、才能イナズマ級ですよ」
たった二行を読むのに、どれだけ時間がかかっているのだ。もう説明することがなくなってきたぞ。
そう思った頃に、大きな瞳に涙を溜めた友だちが、超高速拍手とともにそんな言葉をくれた。
ブラッ◯サンダーみたいに言われても困る。
これじゃあ、少しのアドバイスにもならない。友だちは期待できなそうだ。
しかし一緒に参加するということは、友だちも小説を書いているはず。それも彼は二年目だというのだから、経験がある。
今はちょっとふざけただけで、これからしっかりとしたアドバイスをくれるに決まっている。
「続きが思いつかないんだ」
「そうですね。この素晴らしい始まりに相応しい続きを考えるのは難しいかもしれません」
それなりに面白い設定と、それなりに面白い書き出しだとは自分でも思うけれど、そこまで言われてしまうと照れるな。
しかしまあ、本当に友だちは頼りにならない。褒めるばかりで、アドバイスらしきものが出てくる気配はないのだからね。
こうなったら、もう一人助っ人を呼ぶしかないか。
「おい、田中地味子。至急我が家にきてくれたまへ」
俺が次に電話をして呼び出したのは、田中地味子である。
なんの特徴もない、眼鏡の地味っ子。ツッコミという特技があるので、俺の超絶面白い小説に、一つの味を加えてくれるのではないかと思ったのだ。
友だちとも相談しながら待っていると、十分くらい経った頃、家にだれかが訪れたようだった。
「……だれ?」
扉を開けて見ると、そこには初めて見る男が。
年齢としては、俺と同じくらいだろうか。顔の特徴は全くない。
「だれって、お前が呼び出したんじゃないか!」
なぜだか男は怒っているようだ。呼び出したって、俺が呼び出したのは地味子だけだし。
「まさか、地味子、なのか……? すっかり変わってしまって、どうしたんだ……」
「あぁ、眼鏡を変えただけでしょ。お前にとっては、相変わらず僕は眼鏡なんだね」
よく見ると、地味子のようにも見える。
その変化に戸惑いを隠せなかったけれど、俺は自分の部屋に地味子のことも案内する。
「太郎ちゃん、その男の人だれ? だれを連れて来たのですか」
「お前もかい! 二人揃って、僕をなんだと思っているんだか」
部屋で待っていた友だちも、地味子の変貌ぶりには戸惑いの表情である。
「地味子くんに来てもらったのは他でもない。俺が書いている小説の、続きを考えるのに協力してもらいたいのだよ」
友だちに頼んだのと同じ手順で、俺は本気のお願いをする。
「なんで参拝? まぁ良いや。小説の続きを考えるなんて、僕には無理だよ。僕の国語の成績は知っているだろうに。もはや嫌味の域だよ」
これは自慢である。
俺たちが通っている高校は、そこそこに賢い神学校……じゃなくて進学校だ。
その中でも地味子は頭が良く、特に国語は神の領域なのである。
嫌味の域だよだなんて、嫌味を言っているのは地味子の方だ。
特徴なしのツッコミの分際で、嫌味を言うだなんてなんと生意気なことだろうか。
「まず、ツッコミを入れても良いかな?」
「仕方がないから許可しよう。地味子からツッコミを取ってしまったら、何も残らなくなってしまうからな。ただでさえ眼鏡が変わってしまい、だれだかわからない状態だというのに」
読み終えた地味子は、ツッコミの許可を取った後、大きく深呼吸をした。
「主人公自分とか痛いわ! 自分のヒーロー譚とか、痛さのあまり死ぬわっ! パクリ臭! 臭い! 臭いどころの騒ぎではなく、近所迷惑で家を追い出されるわ! こんな始まりで真面目に冒険ものを書こうとしているのなら、諦めろ! どれか諦めろ! それと、僕は地味子でも眼鏡でもなぁい!!」
そこまで言うと、言いたいことを全て言い終えたようで、地味子は息をふぅーっと吐き出した。
九割くらい聞いていなかったけれど、まぁどうせ、地味子の言うことだからどうでも良いようなことだろうな。
「眼鏡くん。太郎ちゃんに謝りなよ。なんで、そんなひどいことを言うのさ」
「そうよそうよ。太郎ちゃん、傷付いちゃったんだから」
「お前は黙れ。絶対傷付いてないだろ!」
それはもう、ツッコミではなく悪口である。
友だちが俺を庇ってくれたから、俺もそれに同調しただけだというのに、あんまりな扱いだ。
もしかして地味子は、友だちに気があるのでは……?
「とにかく、書きたいことを纏めなさい。慣れないパソコンなんか使っていないで、まずは紙に纏めなさい。それで構成がしっかりしてから、文章を起こすようにしないと駄目だろう? タイピングは得意だから、文章の打ち込みは僕がやってやるよ。最初はなんとなくで良いんだ。そこから推敲していくから」
まるで経験者のような口振りである。
そんな地味子に従うのは癪だったが、友だちよりは頼りになりそうなのも確かだから、やむを得ず僕はそれに従う。
でもなんで地味子の癖に、執筆経験があるはずの友だちよりも、頼りになる感じがするのだろう。
そういえば、俺を小説祭に誘った友達って、友だちじゃなくて、地味子だったかもしれない――。
終
わ
り
普通に終わりにしてしまいましたが、本当は最後を”おしり”にするつもりだったんですよ。ツッコミを入れずらかったので、それは断念する結果となってしまいましたが。
”おしまい+おわり”で”おしり”です。
僕の記憶が正しければ「うちの三姉妹」のネタでしたかね?
僕のおふざけに付き合って下さり、本当にありがとうございました。そして、すいませんでしたっ!