前奏(プレリュード)
目を開けると、そこには宇宙が広がっていた。表現でもなんでもなく、それはそこに当たり前のように、平然と存在していた。
僕は地面に居なかった。というか地面というものがそこには存在していないように思える。星のような明かりがぽつぽつと見受けられるが、とてつもなく遠い。地球はおろか、太陽系の星々なんて一切見受けられないような辺鄙な場所だ。
――そういえば僕はなぜこんなところにいるんだ?
――普通に考えてただの夢だな。
頬をつねる。まったく痛くない。それもそうだ。本当に生身で宇宙に来ているならとっくに呼吸できなくて死んでいる。
何か夢特有のふわふわ感があるし、間違いなさそうだ。いや、間違いなはずがない。
――突然、光の線が降り注いだ。これは、雷?
いや、雷ではなく、流星だったとも考えられるが...今の光の動きはジグザグに曲がっていたように思われる。
なんだったのだろう、と考えていると、突然地面が現れた。
「やぁやぁ唯斗君」
声をかけられた。知らない声だ。明るくてチャラそうな声だ。
「誰、ですか?」
「やぁやぁこれは失敬。私の名前はゼウスだよ~」
「?ゼウスって言いますとギリシャ神話の主神の、あのゼウスですか?」
「やぁやぁその通り!よく知ってるね~」
「まぁ、ほかの人よりは、知ってる、つもり、ですけど」
この男があのゼウスか、金髪碧眼でイメージしたのと違うな。けど不思議と違和感はないな。本に書いてあるのや挿絵で想像していたのは――
「こぉんな姿かい?」
「あっはい」
――白髪でひげのおじいさんが現れた
って
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?ビビったわ馬鹿!!」
「やぁやぁ馬鹿はひどくないかぃ?」
「うっ、すみません...」
まぁ神だし何でもありでいい、のか。
「っていうかそのゼウス様が何でここにいるんですか?」
ゼウス――最初のチャラ男スタイルに戻っている――は、困ったように頬を掻くと、
「うーん、説明するとめんどいかもしんないけど、最初僕たちオリンポスの神々は君たちの世界に居たんだ。でも、君たち人間が発達しすぎて、僕たちは必要とされなくなった。そこで、神一人ひとり世界を創ろうか、ってことになったわけなんだよ」
「どんなわけだ」
話のスケールが大きすぎて理解が追い付かない。まじわけわかめ。
「やぁやぁテキビシーねぇ」
「てか、世界を創ったってどういうことですか?」
「ん?言葉の通りだよ。ちなみにここも僕の創った世界の一部だよ」
「ってことはここは宇宙じゃあないのか...」
「やぁやぁその通りだよ!!理解が早くて助かるね!!」
てか待てよ?ということはこれは...
「異世界転移?」
「やぁやぁ転生だよ」
「―――――――――――はぁぁぁぁぁぁ!?ふっざけんじゃねぞ糞野郎があっ!!」
転生とか僕の一番嫌いなジャンルじゃねえか!!
――ってか
「あぁ、そういや僕、死んだんだっけ」
今の今まですっかり忘れてたな、あんなに痛かったのに...思い出したらまた痛くなってきやがった...
「やぁやぁ、ご愁傷さまだ。けど、まあもう一回人生やり直せるんだよ?ポジティブにいこうじゃないか。後糞野郎は言い過ぎじゃあ無いかぃ?」
まあそりゃそうだ。ポジティブ、ダイジ。
「ちなみに生きていれば君は家に帰った直後に謎の生命体が襲ってきて特殊能力に目覚めて人類最強になってたんだ」
「それならう○こなんて漏らせばよかった」
「や、やぁやぁそれはちょっと、うん。」
酷いなほんと。確かに人生やり直したい。転生的な意味じゃなく。
「やぁやぁでもさっきも言った通りいいこともあるんだよ?」
「たとえば?」
「世界で唯一の能力を持てます」
「よしやろうじゃないか異世界転生」
あ、でもそういえば
「あなたの世界はどんなんなんですか?それと、なぜ僕はあなたの世界に呼ばれたんですか?」
「ん。僕の世界は君たちの世界のアアルピイジイみたいなやつだよ。魔法とかいっぱい使う世界。好みだろ?」
「んー現代でやるなら」
「ありがたく転生してくれよ」
「すみません。てか、もう一つのほうの質問の答えは?」
「それは言えないな」
雰囲気を、変えてきた。先ほどまでは全く感じられなかった神格みたいなものが感じられる。
が、すぐに消して、
「ん、まあ直にわかるよ。じゃあ、おやすみ」
「おや...す...み...?」
視界が、暗転した。