本当の力
またまた遅れてすみません。
できる限り週一投稿目指します。
アルイアに「奴」と呼ばれたその魔物は親から生まれたわけでもなく、魔素から発生したわけでもなかった。
唯一覚えている幼い頃の記憶は、液体の中で実験を繰り返されているものだった。
そして気づいた頃にはこの山にいた。
まず手始めにたくさんいた鳥のような物を引きちぎり、他にも様々な生き物を殺していく。
そんな時だった。見慣れない格好をした者達を見たのは。
奴らは鋭い爪や牙など持っていなかったし、体は小さかった。
今までよりも弱そうだったからすぐに殺せると思い、少し遊ぼうと思った。
しかし別の奴が現れて自分に少しとは言えダメージを与えただけでなく、獲物を奪っていった。
その魔物は初めて山から出ようとして考えた。
あの傷ではもうもたない。
ならば奪っていったほうが食事を終わらせて万全の状態になった時に、真正面から叩き潰してやろうと。
そこで暗くなってからまた明るくなるまで待って、去っていった方向に向かう。
そこに待っていたのは沢山の弱そうな奴らと死んだはずの獲物、それにその横に立っている奪っていった奴だった。
◆◇◆◇◆
ようやく現れた奴は俺を見て少し驚いたようだった。大方死んだとでも思っていたのだろう。
だが、少し動きが遅くなったくらいですぐに周りの冒険者達に襲いかかった。
犠牲者を出さないためにか、ムラクモは気を引くように走り出した。
「ほら!我はここだぞ!かかってこい!」
すると、思惑通り奴は彼の方に向かっていく。そしてムラクモは急に振り返って、すごいスピードのパンチを繰り出した。
並の魔物がくらえばひとたまりもないような一撃でも、奴には全く効いた様子はない。
鬱陶しそうな顔をして腕を振りおろすと、彼はすごいスピードで吹き飛んでいく。
ありえない勢いなので思わず叫んだ。
「おい!大丈夫か!」
「大丈夫だ!我は強いからな!」
砂煙の中から返ってきた声は遠いとはいえ、あまりにも小さいし震えている。
あのムラクモですら…なら俺なんて……
そんな悪い思考に取り付かれそうになったとき、いつの間にか戻ってきていたムラクモがまだ少し苦しそうな声で言葉を続ける。
「我は強いが、こいつとは相性が悪いようだ!お前が戦え!我は強いがな!仕方なくだ!」
「しかし…」
あの力を使えば、また周りに迷惑をかける。それにあの姿は…
だから使ってこなかった。
でもここで戦わなければ、また守れない。
そんな葛藤の中、その一言は俺の背中を押した。
「あの姿を見ても、我はいなくならないぞ!現に我らはいなくならなかっただろう!」
それを聞いて、考えるのをやめた。嫌われても守らないといけない。
◆◇◆◇◆
その場にいた冒険者は後にこう語る。
そこには理不尽の権化が降臨した、と。
自分たちの何を持ってしても敵わないであろう力の塊だった、と。
この世のものではなかった、と。
紅の竜には勝てない、と。
◆◇◆◇◆
覚悟を決めた。
もう引かない。
瞳を閉じて、右手に集中する。
懐かしい感覚だ。
身体中に力がみなぎる。
前に使ったのはいつだっただろうか……
瞬間、意識が奪われそうになる。
さすがに全身を取られるわけにはいかない。
右手だけに封じ込めなければ…
心の中で身を任せろと囁かれる。
しかし、負けるわけにはいかない。
だから……
―*―*―*―*―*―*―*―*―
目を開けると、右手には懐かしくて忌々しい鎧の一部が現れていた。
それは赤黒く光っていて禍々しい。
周りの冒険者達も少し引いているようだ。
しかし今は気にしている暇はない。
奴はどこだ…?
見つけた。ただならぬ気配を感じたようで、飛んで逃げ始めていた。
普段なら追いつけなくても、この姿なら余裕だろう。
直接的な強化は右腕だけだが、その影響は体全体で受けている。
足に力を入れて地面を蹴ると、風になったかのような速さで走った。
すぐに追いついて飛び上がる。
さすがにこれは驚いたようで一瞬動きが鈍った。
俺はここぞとばかりに殴りつける。
「おらぁあ!!」
奴の巨体は地面に叩きつけられ、凄まじい砂埃が舞った。
そのまま畳み掛けるように急降下して拳を振り下ろすが、そこには奴の姿はない。
次の瞬間、奴は後ろから現れた。
「グギャアアアアアア」
さっきまではあげなかった鳴き声まであげて相当怒っているようだ。
だが、それに威圧されるわけにはいかない。
相手の攻撃を受け流しながら、負けじとこちらも殴り続ける。
「グガァ!」
これではジリ貧だと思ったのか大きく腕を振り上げる。
ちょうどこちらも決着をつけようとしていたところだ。
さらに腕に力を込めて、スキルの名前を叫ぶ。
「『ブーストナックル』!」
グシャア!
奴に断末魔を上げさせる暇もなく消しとばした。
なんとか倒せた…
倒したことの実感がわいてきて、ガクンッと足の力が抜けて崩れ落ちる。
ムラクモが大声で叫ぶのを聞きながら、俺は意識を手放した。