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女神の趣味に付き合わされて  作者: 五月女ハギ
プロローグよりも前に
8/52

出会いと転機と[その1 ]

 あの日、デイトン伯爵家に知らせが来た。その翌日には、オールポート家へ向かわねば間に合わないことになっていたので、急いで支度させたのだ。


 ライナスはいつもとは違って忌々しげに舌打ちを何度もしていたが、本人は気付いていなかった。

 オールポート家からの手紙には、王宮の茶会にフェリシアも呼ばれたので帰宅させろ、と書かれていたのを思い出していた。


(全くあいつらは)


 全ては自分のためにあると勘違いしている、腐った特権階級の嫌な見本だ。

 何度も書き直して漸くなんとかなった手紙の封をすると、ライナスは家令のウォルトにオールポート家へ渡すよう命令した。


「これが済めば、もうあいつらと関わることもない」


 独り言は、しかし解放される悦びに溢れてはいない。ようやっと、と苦々しい思いだけだ。


「鳶が鷹を生んだとはね、二羽も」


 ライナスは目を伏せ、これから羽ばたく二羽の鷹の未来が明るいことを願わずにはいられなかった。



 □ □ □ □ □



 フェリシアはぼんやりと、王都にあるオールポート家のタウンハウスに帰ってきた。

 ライナスとリオンから貰った餞別は、秘密にしておきたかったので、空間収納に隠してある。

 執事が開けてくれた扉をくぐり抜けると、両親が待っていた。

 デイトン家からの帰宅を両親に向かえられた記憶がないフェリシアは、一拍対応が遅れたが、それでも笑顔を作ることに成功した。


「只今戻りました。お父様お母様」

「おかえり、フェリシア」

「間に合ったわね。明日着ていく服はもう用意してあるから、それを着て行きなさい」


 母親のエイダは言うと同時にフェリシアに背を向け、二階の自室へ戻って行った。

 フェリシアはその背中を見送り、父親のクラークに視線を戻すと、既に背を向けていた。

 フェリシアはため息をつくと、自室へ向かった。そこには、薄い黄緑色のドレスと、それに合わせるアクセサリーとして、翡翠の髪飾りが置いてあった。




 翌朝、フェリシアはよく眠れず顔色が悪かった。馬車で王宮に来たが、ここからどうするのか何も分からず、胸の前で両手を握っていた。


(どうしよう)


 通された庭園は綺麗に整えられていた。そこには何人も貴族の子息令嬢が来ていたが、フェリシアは特に交流をしていないので、知り合いがいなかった。

 会場の隅に佇み辺りを見渡すと、ふいに知った顔を見つけた。


(ジョナスおじ様!)


 フェリシアが見つめるとジョナスも気付き、微かに笑う。その時、ジョナスに誰かが話し掛け、顔をしかめた。

 少し距離がある場所からでもジョナスがため息をついたのが分かったほどだ。

 ジョナスは肩をすくめるとフェリシアに軽く手を振った。どうやら何か用事が出来たらしく、ジョナスは庭園を後にし、話し掛けた人が代わりにその場所に留まった。


(本当は忙しい方なのかしら?)


 つい先日まで毎日のように魔法を教わっていたのに、変な感じがして笑った。


「アレクシス様」


 庭園の奥の椅子に座っていた令嬢が歓喜の声を上げる。フェリシアは入り口に視線を向けると、こちらを睨んでいる少年と目が合い、ジョナスを見つけて少し解けていた緊張が再度襲ってきた。王太子が来たのだ。


(挨拶。まずは挨拶を)


 フェリシアは臣下の礼をとった。

 バクバクと心臓が痛いほど緊張が膨れ上がる。浅い呼吸を何度繰り返しても、空気が足りない。マナーも先生に習っていない。はてしてこれで合っているのか。

 フェリシアが地面に落とした視野の中に入ってきた靴が、ピタリと止まって動かない。


「おい、お前」

「はい」


 返事を返すが、どうにか声が裏返らなかっただけでも、自分を誉めたいほどだ。


「顔を上げろ」

「はい」


 ゆっくりと上げると、やはり睨まれている。この短時間に何かしてしまったのかとつい涙目になる。


「俺の茶会で他のヤツに愛想笑いか」

「え?あの……」


 意味を把握出来ず、フェリシアは首をかしげた。愛想笑いなど出来るほど強い心臓は持っていない。

 そして何故かアレクシスは、ジョナスと入れ代わった青年も睨んでいる。


「もういい。下がれ」

「!」

「下がれと言った!聞こえぬか」

「殿下、それはあまりにも……」


 隣の少年がアレクシスの発言を諌めようとするが、それすらも忌々しげに顔をしかめた。


「茶会の雰囲気を壊したのだ。もう下がれ。

 ーー俺がいいと言うまで、二度とその面を俺に見せるな」

「アレクシス様!!」


 諌めるための少年の声に反応せず、アレクシスはフェリシアを睨むように見ているだけだった。

 フェリシアは何が王太子の機嫌を損ねたのかさえも分からず、しかしスカートを少しつまみ、お辞儀をしながら言うよりほかなかった。


「……畏まりました、殿下」

「……言い訳もなしか」


 アレクシスが鼻で笑う。言い訳って何に対して、と思ってから先程言われた勘違いを思い出した。


「愛想笑いなどしておりません」

「……アヤツに笑いかけたではないか」


 アヤツ呼ばわりされた青年がぎょっとしている。


「あの方は存じ上げません。先程いらしたブロウズ伯爵が伯父の友人ですので、ご挨拶を致しました。

 ーーそれでは、私はこれで……」


 フェリシアは頭を下げ、命令のまま庭園を後にした。

 後で「ブロウズ伯爵と?」とアレクシスが呟くのは聞こえなかった。

またしばらく攻略対象はお休みです……

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