魔力と魔法の向上を[その6 ]
今日もジョナスはやって来た。本当に宮廷は大丈夫なのかと言いたくなるが、彼の才能を知っているライナスは、苦笑して二人のことを任せた。
「じゃあ今日は結界ね」
「結界、ですか?」
リオンは既にデイトン家に結界を張っている。まだ条件付けは不審者や不審物が中に入ったら知らせる、という簡単なものだが、デイトン伯爵家の領地は治安がいいので、そこ以上の結界が必要だとは思っていない。
「う~ん、もっといい結界を張ろうとは思わない?」
「ここではそれほど強力な結界は……」
「ここでは、ね。いつ、どこで必要になるか分からないよね」
ジョナスが珍しく硬い声を出した。
「出来る努力を怠って、後々泣きをみるのは嫌なんだよね。僕」
ジョナスの言いたいことが分かり、リオンは居心地が悪い。
わざわざ教えてくれる彼に、妥協してしまった自分が見捨てられるような気がした。
「……そんな顔しなくていいよ」
「……はい」
頷いたものの顔を上げれない。
まだまだ不十分な自分は、もっと頑張らなければいけないのに。慢心があったのかと、自分自身が嫌になる。
思わず強く握っていた拳をジョナスが軽くはたく。
「あんまり力み過ぎると上手くいくものもいかなくなっちゃうよ」
「え?あ、はい」
慌てて手を軽くぶるぶると振る。
ふいに隣のフェリシアが視界に入り、心配をしているのが分かったので、安心させるために頭を撫でた。
「そうそう。それくらい無駄な力を抜くと上手くいきやすいよ」
「え?」
「?」
リオンとフェリシアが首をかしげる。自分達のしていた表情が分かっていないのだ。
とてもほんわかとした空気感だったのになぁ、とジョナスは残念に思った。
「リオンはこの邸と敷地ももう結界張れるよね?」
「はい」
「フェリシアはどのくらい?」
「私は部屋くらいです」
う~んと唸ったジョナスは、リオンには今日は敷地とそれに難易度が高めな条件付けをさせることにした。
家自体は、フェリシアに任せてみる。部屋くらいと言ったのは、それ以上のものを張る必要がなかっただけだろう。
「取り敢えず、僕が少し大きめに結界を張るから。その後、今の結界を外してね」
「はい」
先に結界を外してしまうと、その間に何かが起こってしまう可能性がある。慎重な対応は治安がいいとは言え、伯爵家の結界なら当然だ。
「ーー時と空間の住人達へ。僕の力に応えて、僕の求めるままに守ってね」
ジョナスの呪文は囁くように小声で、リオンとフェリシアには聞き取れなかった。
囁きの後、ジョナスを中心に魔方陣が広がったかと思ったら、すぐさま光が飛んで行った。魔法の発動の早さに二人して目を見開いた。
「はい、終わり。二人は今張ってる結界を解いて」
「はい」
フェリシアとリオンは、自身が張った結界を解除した。フェリシアは解除だけでも少し息が乱れている。
「まずはリオンから。
そうだねぇ。条件は悪人と魔物避けかな?普通の人まで避けたら駄目だよ?
あと不審物も中に入らせないこと」
「はい」
深呼吸して息を整える。イメージをより明確に。迷いが出ると無駄に魔力が消費され、きちんと結界が張れない。
「ーー時と空間を司るもの達よ。我が力に応え、この地を護る結界を張り巡らせたまえ」
リオンはデイトン伯爵家の敷地をイメージする。微かに光がイメージしたラインで光っている。
ここから条件付けだ。
「デイトン家またはデイトン家に滞在する者に害意を持つ者、魔物の侵入を禁じ、危害を与える物資から防ぐ、強固な結界を!」
リオンを中心にして、光が渦巻いた。
いくつもの図形と文字で作られた魔方陣が浮かび上がり、すぐにそれらが地を駆けるように動き周る。
リオンがイメージしたデイトン家の敷地のラインにまで散らばると、瞬くように点滅し、消えた。
「はっ、はっ……」
光が消えると、魔力がごっそり引き抜かれた。リオンは立っていられなくて地面に座り込んだ。
目の前がチカチカする。
「リオンはしばらく休んでて。
フェリシアは、この呪文と魔方陣を覚えて」
「はい」
フェリシアはジョナスから渡された紙を見る。そこには不審物と不審者の侵入を防ぐ呪文とそれに伴う魔方陣が描かれていた。
特に魔方陣は覚えてなくても魔法はかけられるのだが、より精度を上げるには分かっていた方がいい。
「魔物の侵入は防がないんですか?」
「今のフェリシアには荷が重いからね」
苦笑するジョナスにフェリシアは頷き、魔方陣を何度も指で辿った。
何度も何度も繰り返し辿り、自分に宛がわれている部屋を思い描いてみる。
「じゃあそろそろフェリシアも」
「はい」
フェリシアは返事をすると、胸に手を当てた。指先が冷たく、緊張していた。
「ーー時と空間を司るもの達よ。我が力に応え、かの地を護る結界を張り巡らせたまえ」
魔方陣が展開し、さらに条件付けを行う。
「この内に不審な者、物を決して入れぬよう」
フェリシアの言葉で魔方陣に変化が起こり、そして光ったと思ったらフェリシアの部屋へ向かって行き、部屋を包むように微かに光り消えた。
光が部屋に向かう時と消えた時に、フェリシアの中からごっそりと魔力が奪われ、まるで貧血を起こしたように立っているのが辛く、ゆっくりと地面に座り込んだ。
「はっ……」
隣で座り込んでいたリオンは、大分呼吸が整ってきていた。
「大丈夫?寄りかかっていいよ」
頷くことさえ億劫でフェリシアは目を閉じ、リオンに寄りかかった。するとリオンはフェリシアの頭を撫でる。
「二人とも大丈夫そうだね」
二人の張った結界を検証していたジョナスは、強度を確認し、自分が先程張った結界を解除して振り返った。
「じゃあ合格。しばらくはこのレベルの練習をしてね。
明日からはしばらく僕、来ないから」
「え?」
「僕も一応仕事があるしーーフェリシアの家から帰宅させてくれって言われたみたいだよ」
まだ荒い呼吸のフェリシアの身体がビクリと強張った様子にリオンは撫でる手を止めない。
「……いつでもまたおいでよ」
「うん」
フェリシアのデイトン伯爵家滞在は、こうして呆気なく終わりを告げた。
次回かその次あたりで、女神いわく攻略対象が出てくる……予定です。




