魔力と魔法の向上を[その5 ]
誤字を直しました。
ご指摘ありがとうございました。
ジョナスは王宮勤めなのに、暇さえあればーーいや、暇がなくてもデイトン家に来るようになった。彼の得意な空間移動なら、瞬時に来れる。
「じゃあ、まずは僕とフェリシアで。ウチのカントリーハウスまで。さっき行ったところだから、ちゃんと頭の中に思い描いて」
ジョナスがフェリシアの手を両手で握る。途中で万が一手が離れても、フェリシアの魔力は覚えたのですぐに探し出せるだろうが、迷子にはさせない方がいい。
魔法に苦手意識を持たせるのは得策ではないのだ。
「いきます。
ーー時と空間を司るもの達よ。我が力に応え、かの地へと導け!」
いつもより少し張った声でフェリシアが唱えると、瞬時に足元に魔方陣が浮かび上がり、煌めきを残し、二人の姿が消えた。
そして五分ほどで二人が帰ってきた。
「はあ……っ、はあっ……」
肩で息をするフェリシアをソファーに座らせ、ジョナスはリオンを振り返った。
「次はリオンの番」
「はい」
ジョナスがフェリシアにしたようにリオンの手を取る。息を整え、リオンが呪文を唱えるとジョナスのカントリーハウスに瞬時にたどり着いた。
「じゃあ帰ろう」
「はい」
少し疲労してあがる息を整える。リオンはさっきフェリシアが何も喋れず、身体全身を使って息をしていた理由を思い知った。
「いきます
ーー時と空間を司るもの達よ。我が力に応え、かの地へと導け!」
自身に纏う風の煌めきが辺り一面を占め、そして緩和するとデイトン家へ戻っていた。
フェリシアは未だ呼吸が荒い。リオンは自分の呼吸も荒いと思ったが、ジョナスはにっこり微笑むと、さらりと告げる。
「じゃあもう一度」
「……え?」
「もう一度。リオンはまだ余裕があるからね」
リオンは息を吐き、もう一度ブロウズ家とデイトン家を往復し、フェリシアの隣に座り込んだ。
「はあ……っ、はあっ……」
隣ではまだフェリシアが荒い呼吸を繰返している。リオンは自分の呼吸の荒らさもそこそこに、フェリシアの頭を撫でた。
フェリシアはリオンに寄りかかり、目を閉じた。
「今日はここまで。ゆっくり休んで」
はい、と言いたいが、息の荒らさがそれを許してくれない。取り敢えず頷いた。
二人は最近ジョナスの教えで、空間移動をメインに鍛練していた。始めは庭を数メートル移動しただけだった。次第に邸内の部屋から部屋へ。段々距離を伸ばし、今日はとうとう他の領地であるブロウズ伯爵家のカントリーハウスだ。
まずリオンとフェリシアを連れてジョナスが自分の家へ移動した。空間移動するには、その場所をきちんと知っておく必要があるからだ。
(流石ジョナス様だ)
リオンは宮廷魔術師を窺い見た。侍女が用意した紅茶と菓子を楽しんでいる。
自分はジョナスを連れて二往復しただけで息があがっている。
しかしジョナスは二人を連れて、しかも呼吸を荒くしていない。なぜ?
リオンの視線に気付き、ジョナスはにっこり笑う。
「慣れて無駄な魔力を使わなくなるともう少し楽に出来るよ」
欲しい答をさらりとくれ、リオンも目を閉じた。しばらくどうしようもない。
「宮廷魔術師がこんなに頻繁に抜け出していいのかい?」
「魔術団は僕一人じゃないしね。問題ないよ、きっと」
きっと、か。ライナスは苦笑したが、割りを食うのは自分ではないので放っておくことにした。
先程までフェリシアとリオンに空間移動の指導をしていたのだが、二人とも魔力をつかいきり、ソファーで眠ってしまった。
「ブロウズ家への移動の練習とは……何を考えている?」
「いやぁ。リオンとライナスが持っている属性が違うから、僕が協力してあげようかなって」
嘘ではないが、本当でもないだろう。軽く睨むと目をそらす。
「ウチは別に魔力がなくても跡継ぎに問題ないんだけどね。そろそろ何とかしろって言われちゃって」
「親戚は?」
「ダメダメ。遠縁の上に強欲なのばっかりだよ」
ライナスはいい子がいたよね、と羨ましそうにジョナスがため息を吐き出す。
「別に血が繋がってなくてもいいんだけどなぁ。良さそうな子いない?」
跡継ぎ問題は、貴族なら避けられないだろう。領地の運営もある。
「さあ?私も詳しくないからな」
「僕は全く知らないしね」
二人はため息を漏らし、二杯目の紅茶を手にした。