あなたの隣
誤字を直しました。
ご指摘ありがとうございました。
その日は朝から快晴だった。
ライナスは文官でも武官でもないが、カレンが騎士団だったこともあり、内々での挙式のはずが、気付けば普通の結婚式並みの人数となっていた。
今は挙式のあと、教会の敷地内で披露宴のかわりのガーデンパーティーをしている。
グレンは隣のフェリシアを気遣っていた。
楽しげに笑っているが、落ち込んでいるのではないか、と。
「今日は天気が良くて良かったね」
「うん」
グレンはフェリシアを会場から連れ出した。
パーティーの喧騒は聞こえるが、丁度向こうから見えないベンチに並んで腰かけた。
グレンがそっと抱き寄せれば、その身を預けてくる。
どれくらいそうしていたことだろう。
「なんだ、こんな所にいたのか」
バーシェス商会のカイルがグレンとフェリシアを見付け、声をかけてきた。
「大好きな伯父が結婚したからって、いじけるなよ」
「いじけてなんていません」
ぷっくりと頬を膨らませるフェリシアは、まるで子供だ。
それを笑いながら、カイルは更にからかう言葉を紡ぐ。
「将来お嫁さんになってあげるって言ってたじゃねぇか」
「だってそれはカイルおじ様が」
立ち上がって言い返そうとしたが、フェリシアはそこで言葉を止めた。なんでもないから、と話を打ちきりたそうだ。
対してカイルはにやにやと笑っている。
「どうしたんだ?」
今日の主役の一人ーーライナスがやって来た。
少しぐったりしているのは、気のせいではない。慣れない挨拶回りに気疲れしているようだ。
「フェリシアがライナスに将来お嫁さんになってあげるって言ってた話だよ」
「もう。やめてくださいって申してますのに」
「それはカイルが嘘を教えたからだろう」
「え?」
思わずグレンが疑問符を差し込むと、カイルは豪快に笑っている。
「いやぁ。あんなに簡単に引っ掛かるとはなぁ」
「五歳児に変なこと吹き込まないでくださいませ」
「変なこと?」
「男の人に大好きって伝えるには、将来お嫁さんになってあげる、って言うんだって聞かされたらしい」
ライナスの言葉に呆然としていると、「昔の、子供の頃の話ですから」と慌てたフェリシアがオロオロしている。
そんな様子をカイルとライナスは陽気に笑っている。
「あっ、いたいた」
「主役不在は駄目ですよ、伯父さん」
ジョナスとローレンスが連れ立ってやってきた。ライナスがいなかったのでつれに来たのだろう。
「ジョナスさん」
グレンが静かに問う。
「私に嘘をつきましたね?」
「え?」
「フェリシアがライナスさんに、いや他の人にもお嫁さんになってあげると言ったのは、カイルさんに吹き込まれた嘘からですよね」
「俺?
いや、まあ……面白かっただろう?」
フェリシアの婚約者であるグレンに改めて言われると、ちょっと罪悪感があるのか、カイルは頭をかいている。
「確かに言われたけどね。
私だけじゃなく、カイルもリオンもローレンスも言われていたし。家令のウォルトも言われていたんじゃないかな」
「ウォルトまで?!」
ジョナスが悲鳴をあげ、項垂れる。
何故その様にがっかりしているのか分からなからず、皆不思議がった。
「……僕だけ」
「ん?」
「言われてないのって僕だけ?」
辺りが沈黙に包まれ、視線がフェリシアに集まる。
フェリシアは何がどうなっているのか把握出来ずに困って首を傾げる。
「お父様に言ってなかったですか?」
「言われてないよ?
フェリシアがカイルにからかわれてると気付いて、それっきり。
なのに、グレンはお嫁さんになるって言われてさ。ズルい」
ーー八つ当たりだ。
グレンは義父になる人がフェリシアを溺愛している事実を軽んじていたのだろうか。
というか、単純に頭がいたい。
「……フェリシアの初恋はライナスさんだと嘘をつかれたんですよ」
グレンの言葉にフェリシアは首を振り、周りは納得するかのようにため息を吐いた。
「それで俺やリオンと一緒に、伯父さんに教わりに来たのか」
「フェリシアはブラコンですから。
ローレンスさんにも追い付きたかったんですよ」
「……僕は?」
いじけたジョナスが口を尖らせている。
グレンはにっこりと笑い、ジョナスを見た。
方向性が違いすぎて、目指すもなにもない。
それに。
「一つ嘘をついたのですから、私は一つ約束を破棄します」
「破棄って何を?!」
ジョナスが慌ててグレンに掴みかかった。
約束は二つだけ。
結婚するまで頬や額へのキスだけ。
結婚後、少なくとも週に一度は顔を出すこと。
「どちらをなくして良いですか?」
「どっちも駄目だよ!」
ジョナスがグレンを揺らす中、ローレンスが呆れたように息を吐く。
「結婚前の方だな。
結婚後のことも、なるべく顔を出せってくらいに緩和するよ」
「なんで勝手に……」
「ありがとうございます」
ジョナスの言葉に上から被せ、グレンはローレンスに礼を言った。
「それでもちょくちょく顔を出すとは思いますから」
「ああ。
子供達がフェリシアになついているから、そうしてくれると助かるな」
「私もまだまだ勉強中ですから、ご指導を賜りたく……」
「口調がおかしいよ、グレン」
「父の補佐をしようとすると、難しい言葉遣いになってしまって」
「領地経営も学びにおいで」
「はい。今後も宜しくお願いします」
グレンが頭を下げると、ライナスとカイルがジョナスを強引に会場に連行した。
ローレンスも後を追い、会場へと戻っていった。
二人きりになり、グレンはそっとフェリシアを腕の中に囲った。
ジョナスに騙されたとはいえ、フェリシアの基準があの人達であることは間違いない。その事は忘れないようにしよう。
「フェリシア」
「はい」
「私と結婚してください」
「!」
「子供の頃に婚約したから、ちゃんとプロポーズしていなかったからね」
照れてしまい言い訳するように言えば、フェリシアはにっこり笑い、瞳に涙がたまっていく。
「はい。
私をグレンのお嫁さんにしてください」
そっと触れるだけの口付けを落とす。
唇が離れ、瞬間真っ赤に頬を染めたフェリシアが、やっぱり可愛い。
普段より少し腕に力が入って抱き締めても、フェリシアはグレンの胸に頬を寄せる。
「グレン大好き」
「フェリシアが卒業したら結婚しよう」
「はい」
少し身を離し、誓いのようにもう一度口付けをかわした。




