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女神の趣味に付き合わされて  作者: 五月女ハギ
プロローグよりも前に
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魔力と魔法の向上を[その4 ]

設定ミスをご指摘いただき、直しました。


 フェリシアが目を覚ましたのは、馬車がデイトン伯爵家に着いたときだった。ぼうっと辺りを見渡すと、ライナスが自分をひょいと抱き上げた。


「降りるよ、フェリシア」

「はい」


 フェリシアはライナスの服を掴んだ。

 自分で降りると言った方がよかったのか、と思ったときには馬車から降りていた。

 そのまま地面に降ろされることなく、ライナスが邸へと向かう。隣にリオンが並んだ。


「あの、伯父様。歩けます」

「まだ寝ぼけているよ」

「あの、でも」


 もごもごと口にすると、リオンが笑ったのが見えた。


「父上の我が儘に付き合って、フェリシア」

「……私の我が儘?」

「父上はフェリシアに甘いですからね」


 ライナスは眉をひそめ、リオンは楽し気に笑った。フェリシアはますますどうしたら良いのか、分からなくなった。

 しかし、あっという間に邸へ入り、そこで降ろされた。


「お帰りなさいませ」

「ただいま。ウォルト、仕事の続きをする」

「畏まりました」

「リオンもおいで。少し学んでおくといい」

「はい、父上」

「フェリシアは……部屋へ行きなさい。

 読んでおいた方がいい本があるから、届けさせよう」

「ありがとうございます、伯父様」


 執務室に向かう三人に頭を下げ、フェリシアは二階の宛がわれている自分の部屋へ向かった。

 読んでおいた方がいい本とは何だろう。




 部屋へ入り、しばらくすると侍女が厚い本を持ってきた。

 表紙には、『魔法指南書・初級編』とある。中の目次を見てみると、属性ごとに簡単な魔法の呪文が載っている。

 フェリシアは自分が持っている属性を見たが、まだ使っていないのは、空間移動と麻痺や石化からの回復くらいだった。

 水属性は、きっと使えないだろうとページをめくっていたのだが、氷の作り方が載っていた。これから暑くなるので、簡単に作れると便利だ。


(初級なら出来るかな?)


 氷を使って出来ることをあれこれ考える。取り敢えずジュースを冷やそう。果物を冷やすのもいい。果汁を冷やしてシャーベットを作るとか。

 そこまで考えて、大切な人を思い浮かべる。きっと喜んでくれる。


(元気ですか、お兄様)


 フェリシアの兄は今、領地にいる。詳しいことは知らされていないが、いい加減な父と派手好きな母と異母姉が、原因らしい。

 領民のためにと努力をしているが、まだ十五歳だ。若さ故に起こる苦労もあるのだとか。


(私に何か出来たら良いのに)


 きっといつものように、大丈夫と言って頭を撫でてくれるのだろう。だってまだ子供なのだから。

 フェリシアはため息を吐き、それからネガティブな考えを振り払うように首を振る。


(せっかく伯父様やリオン兄様が教えて下さるのだから)


 今は出来ることをしよう。

 魔法がどれだけ役に立つのか、そんなこと分からないが、フェリシアはきゅっと手を握り頷くと、覚えられそうな魔法を探すようにページをめくった。




 フェリシアは魔法能力の向上に、氷を作ったり水をまいたり結界を張ったり魔晶石を作ったりしていた。

 他に出来る魔法が思い浮かばないので、毎日同じことの繰返しだが、挫けることなく続けた。

 時折ライナスにリオンと共に連れられて領内の田畑や牧場に赴くと、元気のない家畜を回復させたり、水不足の場所では水をまいたりーー


 フェリシアの滞在が十日目の今日、ライナスの悪友ジョナスと、バーシェス商会のカイルが邸を訪れた。

 リオンとフェリシアも応接室に呼ばれたので、同席している。


「これ、フェリシアが作ったの?」


 最近作れる魔晶石よりも少し質の悪いものがジョナスの掌にあった。


「はい」

「へぇ。子供でも作れるんだな」


 ジョナスの掌から魔晶石を取り、カイルがその質を確認している。


「このレベルなら、ウチでも買い取るよ」

「商会がですか?」

「一般家庭で使う魔道具だと、使う魔晶石はこれで事足りるからな。逆にいいものだと値が張るから売りにくいのさ」


 成る程。フェリシアとリオンは顔を合わせ頷く。必ずしも質がいいものを求める訳ではないのか。


「魔術団でも買い取れるよ。本当はもう少し質がいい方がいいけどね」

「これは初期のなので、最近のはもう少しいいものがあります」


 言いながらフェリシアは、何もない空間に右手を振り下ろし、空間収納を開けた。

 大体の質ごとに分けて籠の中に入れている魔晶石を取り出した。


「質はこの三つくらいですけど……」


 先程のとは違うもの二つの籠をテーブルに乗せると、ジョナスとカイルが驚愕の表情をしている。


「?」

「……おい、ライナス」

「何か?」

「……ライナスが教えたの?」

「一回だけ、ね。

 若いから飲み込み早いよ」

「はあ?!」


 ライナスの説明に二人の声が重なった。


「フェリシアはまだ五歳だろ?」

「一回だけなの?」


 迫る二人に、フェリシアはびっくりしながら頷く。その様子をライナスがくすくす笑いながら見ている。


「先日の王宮での測定だと、フェリシアの魔力は低かったらしいよ」

「嘘だろ?!」

「……下から三番目でした」


 フェリシアの発言に、信じられない、と二人が首を振っている。でも本当のことだ。


「やり方を知らなかったらしくてね」

「知らないって、魔法の練習は?」

「ここ十日くらいだよ」

「……十日でこれかよ」


 呆然とするカイルの隣で、ジョナスは腕を組み何か考えこんでいるようだった。


「フェリシアは空間移動の練習している?」

「それはまだです」

「う~ん。移動出来るなら色々教えてあげたんだけどね」

「ウチでも教えられるから大丈夫」


 ライナスが苦笑する。ジョナスが食いつくとは、フェリシアの魔力はやはり普通ではないのだろう。

 リオンを見た時もウチに欲しいと駄々を捏ねていた。


「デイトン家にはもうリオンがいるんだから、フェリシアは僕に譲るとか」

「……フェリシアはオールポート伯爵家の令嬢だよ」

「オールポート家には子供が三人いるよね?」

「ジョナス。変な考えを持たないように」


 ライナスが軽く睨むと頬を膨らませる。オッサンのそんな顔、可愛くも何ともない。


「仕方ないかぁ。

 じゃあ、デイトン家にいる間に少し教えてあげるね」

「ジョナスおじ様、ありがとうございます」


 フェリシアが胸の前で手を握り、首を少し傾けながらお礼を言うと、ようやくジョナスの機嫌もなおってきたようだった。

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