君の知らない君[その6 ]
誤字を直しました。
ご指摘ありがとうございました。
パウル王太子とブライズ王女に挨拶を済ますと、グレンとフェリシアは一旦会場を抜け出した。
何処かで休憩をしたかったのだが、すぐあとに出てきたアレクシスに案内され、今夜のパーティーの王族の控え室に休むことでなった。
「その疲れ具合からいって、フェリシアがやったのだろう?助かった」
侍女に三人分のお茶を言い付け、アレクシスはソファーに腰かけた。
グレンとフェリシアは並んでアレクシスの前に着席する。
「甥や姪との遊びが役に立ちましたわ」
光属性には単に明るく周りを照らす明かりを作る魔法が存在する。
その明かりで、絵本の読み聞かせの時に、ドラゴンやら妖精やら様々な形を作り出したのだ。
寝る前に読んだときにハイテンションになり、寝てくれないという失敗をしたので以降は昼間限定になった。
今回は、場所が広く光がぼやけないように、わざわざ暗い色をつけた結界の側に光を配置した。
ただ、結界の両側に光を配置しなければならず、更に動かすために結界をいくつも作っては消すという作業をしたので、さすがにヘロヘロだ。
そっと祝福もかけていたので、あのゴタゴタでの疲れが少しは消えただろう。
「しばらくここで休ませてもよろしいでしょうか?」
「勿論だ。これで少しはマシに嫁に出せる」
アレクシスはほっとした表情で有りながら、寂しげな瞳をしていた。
ブライズ王女は十六と若く、また外国に嫁ぐ予定があった訳ではないので、兄として寂しくもあるのだろう。
「隣国ですもの。お会いする機会は沢山ありますわ」
「ああ。
……駄目だな。アーリンにも言われたばかりだ」
アレクシスは苦笑し、しばらく休むようフェリシアとグレンに言うとパーティーに戻っていった。
「無事に済んだようで良かったです」
「そうだね」
「これで伯父様との結婚式の準備に取りかかれるでしょうし」
「……ああ」
ふふふ、と楽しげに笑うフェリシアは、グレンの表情が曇っていることに気付かなかった。
□ □ □ □ □
パーティーが終わり、ライナスはカレンを連れてデイトン伯爵家のタウンハウスに戻り、珈琲を口にした。
護衛をするということは、身を呈して守るということだ。
分かっていたつもりだが、あんな危険な場面に出くわし、多少混乱していたのだろう。まさか結婚前の令嬢を連れ帰るとは。
「君にも怪我がなくて良かったよ」
「ふふ。それでは私は実家に戻りますね」
「いや、送っていくよ」
カレンはライナスのらしくない様子に終始笑みを浮かべている。照れ臭くてまともに視線を向けれなくても仕方がない。
立ち上がり部屋を出ると、玄関ホールが騒がしい。こんな時間に来客か、と二人で眉を寄せた。
「五月蝿いわね!ライナスを出せと言っているでしょう!!」
姿を見るより先に、声でこの来訪者が知れた。
「……どうしたんだ」
ライナスが声をかけると、エイダきっとライナスを睨み、更に横に視線を向け、カレンをも睨み付けた。
「ライナス。貴方、結婚するって本当なの」
地を這うような低い声でエイダは言い、腕を組んだ。
ライナスは話が長くなりそうだとため息を付き、執事に馬車の支度をさせた。
本来なら送っていくのだが、今日は仕方がない、とリオンに送らせることにした。
カレンは一人で大丈夫だと繰り返したが、妊婦をこんな時間に一人で帰す訳がない。
カレンを見送っている時も無言の圧力を感じたが無視した。こんな時間に来たエイダを優先する必要はない。
「結婚はするよ」
場所を移動することなく、そのまま話を続けた。エイダが移動することすら拒否したのだ。
「昔はしないって言ってたじゃない!」
「今はリオンも育ったからね。
跡継ぎはリオンのままにして、結婚をする」
「何馬鹿なこと言っているの!
自分の子供が出来たら、跡を継がせたくなるのよ!!」
「今から生まれても、跡継ぎになるまで育てられる時間はないさ。リオンに任せれば安心だ」
エイダは憎々しげにライナスを睨みつけた。
エイダにこうした表情を向けられることが増えたのは、いつからだったか。
「お父様もお母様も貴方も、皆自分勝手ね」
「自分勝手?」
「そうでしょう?自分のしたいようにして」
まるで自分は好き勝手していないような言い分だと、ライナスが苦笑するとエイダに再び睨まれた。
「私からは、選択肢すら奪ったくせに」
エイダは未だあの件に縛られているのか。
ライナスはため息を付き、ゆっくりと首を振る。
「養母は、自分のした苦労を君にしてほしくなかったんだろう」
「それが勝手だと言っているのよ!
自分は苦労をすることを選べたんじゃない!!」
「君はもう、結婚して子供も生んで。
ローレンスは結婚して子供もいる。
それなのに……」
「だから何だって言うの?!」
エイダがこうなってしまったのは、養母がライナスとは結婚させないと言ってからだった。
ライナスも好意を向けられていると感じていた。エイダと結婚してデイトン伯爵家を継ぐ可能性もあるのだと認識していた。
しかし養母はその事に危機感を抱き、エイダは他家へ嫁がせると養父と共に決定した。
魔力の高いライナスとの結婚では子供に恵まれにくく、また男児を生んだとしても跡継ぎに出来ない可能性が高い。
気苦労も多く、娘にそんな道を歩ませたくなかったそうだ。
その後、ライナスに惚れていた侍女が「お嬢様には可能性がありませんけど、私にはまだまだ可能性があります」と嘲笑したことがだめ押しになった。
エイダは親の薦める縁談を悉く断り、現オールポート伯爵との間にローレンスを身籠り結婚した。
まだ十六だった。
「君は、自分がされたことだけはよく覚えているな」
「何ですって?」
「エイダ。君は両親を責める立場だと思っているのだろう」
「当たり前でしょう」
「逆は考えないのだな」
「……逆?」
エイダは眉を寄せた。
彼女はいつまで娘の立場でいるのかとライナスは腕を組んだ。




