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女神の趣味に付き合わされて  作者: 五月女ハギ
あなたの知らない私
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君の知らない君[その5 ]

誤字を直しました。

ご指摘ありがとうございました。

 不審な動きを見せた男は、瓶に入った液体をブライズ王女にかけようと目論んでいたようだが、失敗に終わった。

 カレンが庇ったからではない。

 カレンと男の間に結界が張られたからだ。


(今日の宮廷魔術師団員は腕がいい)


 思わず口角が上がる。

 結界を伝い落ちた液体は、毛足の長い絨毯を溶かした。もしも当たっていたら、肌が爛れていたかもしれない。

 そのことに、怒りが沸く。


「何なんだよ、これ!!」


 ブライズ王女をはじめ、こちらに結界が張られていると思っていたが、男が前後左右を叩く様子に、この男が結界内に閉じ込められているのだと分かった。

 これならば誰にも被害が及ばないだろう。


「何でそんなヤツの隣にいるんだ!」

「今夜はパウル王太子とブライズ王女の婚約パーティーです。

 お二人が並ばれるのは、当たり前ではありませんか」

「ブライズ!

 君はこの前僕と庭園で話したばかりじゃないか!」


 男はブライズ王女を呼び捨てにし、更に庭園で話したとまるで何か関係があったかのような発言をした。

 リドホルムの一行から非難の表情を向けられた。


「……庭園と言うと、三日前ですか?」

「そうだ!」


 カレンと男のやり取りで、辺りが一段と騒がしくなった。

 結界の側に女性が来て、叫ぶ。


「息子がいながら、何故勝手に婚約など!」

「三日前ですが」


 カレンは女性の前に立ち、普段より大きな声を出すと、カレンの発言を聞き逃すまいと周りが静かになった。


「明日リドホルムへ立つので、同年代の方達と今夜のパーティーの前に少しお話ししようとお茶会を開催いたしました。

 ーー庭園で話したのは、そのことでしょうか?」

「ほら!話してるじゃないか!」

「……え?」


 息子がその通りだと主張すると、母親が目を見開いた。

 只のお茶会での会話をまるで恋人の逢瀬のように言うとは、普通の感性ではないようだ。


「ご理解頂けたでしょうか?」

「……はい」


 小さな小さな声でだが、母親は頷いた。俯いたまま、顔を上げれないのは当然だろう。

 この後、何かしらの処分が下されるだろう。


「王女の側に」

「はっ」


 結界内の男をどうするか、と考えようとしたら兄のヴィクターが部下を連れてやって来た。

 カレンは言われるままブライズ王女の側に、パウル王太子はブライズ王女の隣に下がってもらい、リドホルムの護衛がその前に立った。


 国王と王妃の前にも騎士が立ち、王子の前には甥のヴィンセントが立ち守っている。


 ヴィクターが更にカレンとリドホルムの護衛の前に立ち、部下に指示を出している。

 ロープを数本巡らせ、結界を解くと同時に捕縛するようだ。

 ヴィクターと宮廷魔術師団のジョナスが 目配せをし、タイミングを合わせて結界を解き、捕縛は無事に終わった。


 しかし、パーティーの熱気は冷めきり、元に戻す方法をこの場にいる王宮関係者は焦りながら考えていた。

 このままリドホルムに送り出しては、ブライズ王女の扱いが悪くなるだろうと懸念がある。


(何か……何かないの?)


 侍女達もブライズ王女と親しい貴族達も、何も思い浮かばない中、リドホルムの一行が嘲笑を浮かべた。


 ーーその時、煌めくシャンデリアの灯りが絞られ、薄暗くなった。




 □ □ □ □ □




 明日から、いやこの時より扱いが悪くなるとブライズ王女は覚悟したかもしれない。

 元々はリドホルムの都合による政略結婚なのだが、馬鹿な男が事を起こしてしまったがために、ブライズ王女はリドホルムから格下の扱いを受ける羽目になるーー誰もが忌々しく思った。

 それくらいなら結婚を白紙にしてもいいのではーー重鎮達は色々な方法を模索しはじめた。


 その時、シャンデリアの灯りが段々と薄暗くなり、一ヶ所にポンと光が現れた。

 その光は、まるで蝶のような羽根を持つ妖精を型どっていた。

 光の妖精が会場内を縦横無尽に飛び回ると一匹だったのが二匹に、三匹に、と徐々に数を増やしていき、会場内にあるシャンデリア全てに妖精が腰かけた。


 一斉にシャンデリアにキスをしてーーそれを切っ掛けに、天井に壁に、無数の光の花が舞いはじめた。

 薄暗くなった会場で、鮮やかな色と光を放つ花は、途切れることなく降り注ぐ。


「……綺麗」

「ほおぅ」


 誰ともなく感嘆の息を漏らし、呟きが重なりーーそれはアッシャーだけではなくリドホルムの一行の口からも漏れていた。


 降り注ぐ花は、アッシャーとリドホルムの国の花だった。

 その降り注ぐ花を一匹の妖精が集め、何かをしている。

 段々と形になったそれを手に、妖精はパウル王太子の元に向かった。


「これは」


 妖精がパウル王太子に手渡したのは、アッシャーとリドホルムの国の国で作られた花飾りだ。

 花冠はティアラを連想させてしまい、この場所でするには結婚式の真似事の範疇を越えている。

 そこでネックレスとなったのだろう。


 パウル王太子は、持とうとしても全く重みがないそれをブライズ王女にかけようと芝居する。

 ブライズ王女も腰を折り頭を下げ、ネックレスをかけてもらうと、先程までシャンデリアに腰かけていた他の妖精達もいつの間にかやって来て、二人のまわりを飛び回った。

 飛び回りつつ、更にフラワーシャワーのように花を振りまく。


 妖精達の速度が段々と上がっていき、やがてその早さに誰もが追い付けなくなった頃、すっと妖精が消えた。

 え?と戸惑っていると、再び天井に壁に光の花が降り注ぎ、次第にシャンデリアの灯りが煌めきを取り戻して花は消えた。


 ほおぅ、とまた誰ともなく感嘆の息を吐き、それと同時に拍手が辺りに響いた。

 拍手の主は、パウル王太子だった。


「素晴らしい!

 このように祝福されるとは、貴女は皆に愛されているのですね」


 にっこりと微笑めば、ブライズ王女はそっと頬を染め、「パウル様にそのように仰って頂き、皆も喜びます」と囁くようこたえた。

 二人のやり取りに、リドホルムの一行は顔をしかめたが、自身も見とれていたので何も言えないだろう。


 そんな二人の元に、グレンとフェリシアが進み出る。


「パウル王太子様、ブライズ王女様。

 この度はおめでとうございます」

「おめでとうございます」


 恭しく礼をし、挨拶をすれば、まだ今夜挨拶をしていない者が再度順番に並びはじめた。

 こうして婚約パーティーは、なんとか持ち直すことに成功したのだった。

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