君の知らない君[その4 ]
誤字を直しました。
ご指摘ありがとうございました。
元々カレンが王女の護衛から外れたくないと入籍を伸ばしていたが、ライナスは先代ドイル伯爵夫妻には挨拶をしていた。
だからといって、結婚が子供を授かってから結婚というのは、向こうが気にしているのではないか、と申し訳なくも思う。
しかし久しぶりに会った先代の夫妻は、やっと娘のウェディングドレス姿を拝めると、特に夫人がライナスの両手を取って上下に激しく振りながら喜んだ。
「子供の性別は分かりませんが、リオンが跡継ぎなことに変わりはありません」
「その方がいいだろう」
「幸い、甥は文官ですし、ドイル伯爵家は代々武官でいらっしゃる。
友人には宮廷魔術師団員もおります。
男子であっても、どの道にも指導を頼める人材がいますから、心配ないかと思っています」
「……文官に甥がいたのか?」
「週に三日ですが、財務省か宰相の補佐をしております。
ローレンス・ブロウズです」
先代は、「あの青年か!」とローレンスを知っているらしかった。
以前、若い文官が間違えて必要な書類を破棄してしまった時に、誰しもがもう翌朝からの議会に間に合わないと項垂れる中で、徹夜で間に合わせたそうだ。
しかも間に合わないと思った人々はーー破棄した本人でさえーーさっさと帰っていき、最後まで仕上げたのがローレンスだった。
勝手に帰っていった者達に激怒したローレンスが、出来上がった書類と共に辞表を提出。
そのまま登城しなくなったが、財務大臣と宰相がお互いの所で働いていると思っていたため発覚が遅れた。
すでに領地経営と子育てを満喫していたローレンスは二度と戻らないと突っぱねていたが、妹の義父になるグレゴリーに頼まれれば断れなかった。
「腕がいいと聞いているが。そうか、あれが君の甥だったのか」
「本人は辞めたがっていますよ。子煩悩なので仕方がないですが」
「デイトン伯爵家の跡継ぎも、若いなりにいい手腕だと聞いたが」
話を向けられてリオンが「まだまだ修行中です」とそつなく答えた。
「隠居すると聞いたが、まだ若いだろうに」
「今ならまだ手を貸せますからね。
ギリギリで当主を代えると、周りも対応が難しくなります。丁度いいタイミングでした」
「領地に帰るのか?」
「カレン次第ですね。
リオンが空間移動出来るので、カントリーハウスでもタウンハウスでも、連絡は取れますし」
生まれるまではタウンハウスにいるつもりだと答えると、先代は少し嬉しそうだった。
現在デイトン伯爵家には女性がいないので、カレンのことを夫人に頼みたいのだと言えば、伝えておこう、と請け負ってくれた。
その夫人は、カレンにあれこれドレスを試着させては悩んでいる。
カレン本人はすでに魂が抜けたような流れ作業で言われるがまま、何着も試着している。
「あれが結婚出来るとはなあ。しかも子供か」
「順序がずれて申し訳ありません」
「いや。あれが護衛から外れたくないと言ったのだからそこは問題ない。
ーーリオン君。君の義母になるあれは女だてらに騎士団に入り、王女の護衛をしてきた。
君には迷惑をかけるだろうが、よろしく頼む」
先代は、自分の子供よりも幼いリオンに躊躇なく頭を下げた。
□ □ □ □ □
カレンはこの婚約パーティーを最後に、王女の護衛から外れることが決まっていた。
王女の嫁ぎ先が隣国リドホルムの王太子パウルのため、もとよりついていく訳にはいかない。
女性騎士は女性の王族があまり気を使わなくていい護衛という立ち位置だ。
二人きりになっても問題ない。女性特有の話題を出しても構わない。
実際には、更に見えないカ所に騎士が護衛としてついている。しかし、見える所に男性がいるのといないのとでは、気分的に違いがある。
(それも今日までね)
明日にはブライズ王女は、リドホルムへ出発する。自分が護衛するのはこのパーティーが最後だった。
(お幸せそうで良かった)
切っ掛けは、リドホルムが隣国と緊張状態に陥ったからだ。
エイジャーとリドホルムはそれなりにいい関係を築いていたが、緊張状態にある国との間に事が起こり、その隙を狙って何かされては堪らない、と今回の婚約の話が打診それたのだった。
完全な政略結婚だ。
しかし相手であるパウル王太子は気遣いの出来るリドホルムの偉い人にしては珍しい人で、護衛としてここ数日二人の様子を見てきたが、相性は良さそうだった。
(まあ王太子に嫁ぐのだから、向こうの貴族達がなにか、しでかしそうで嫌ではあるけど)
それでも夫となる人が支えてくれるのなら、ブライズ王女は大丈夫だろう。
アレクシス王子は難色を示していたが、パウル王太子と関わるうちに少しの不満があるものの二人のことを認めたようだった。
不満の一つは他国に嫁ぐこと。
更に、まだ十六歳で結婚することだ。
丁度倍の年齢差がある自分と王女が同じ年に結婚とは、なんの因果か。
少し物思いに耽りすぎた、と辺りを窺う。
今日は上位貴族達が家ごとに、ブライズ王女とパウル王太子の婚約にお祝いを一言ずつ述べている。
当たり障りない発言ばかりだが、中にはパウル王太子を見て、羨ましそうな顔をした令嬢も多い。
残り何組か、と確認していると、動きがおかしいと咄嗟にブライズ王女を庇おうと動くと、パウル王太子が庇おうとしていたので、さらにその前に身を置くことになった。
リドホルムの護衛が、パウル王太子よりも動きが遅く、ブライズ王女の今後が心配になった。
(それにしても)
カレンは今の状況に苦笑していた。




