魔力と魔法の向上を[その3 ]
リオンは後ろ髪を引かれる思いで、牛舎を後にした。自分に光属性がないのだから仕方ないのだが、フェリシアに対する嫉妬が胸にある。
「リオン様、こちらです」
「はい」
ファースの後に続いて行くと、広い放牧地の端に着いた。単に草にしか見えないものの、ファースが息をのんだのが分かった。
「どれが毒草ですか?」
「この紫の花がついているものです」
リオンはファースが手にした、紫の蕾をつけた草を見た。あまり特徴がない。
「……この草だと何故分かるのですか?」
「まずこの草の特徴は……」
一つずつ丁寧に説明するファースに、リオンは違和感を感じた。それでもその説明を聞き漏らさないように、草を手に取り、特徴一つ一つを知識に組み込んでいく。
「根から抜かないと意味がないんですね」
「毒草には、根に毒を溜めるものがありますから」
「では、これらを抜きましょう。スコップか何かありますか?」
リオンはファースに手袋とスコップを借り、見本として一本もらった毒草と同じものを辺り一面から取り去るつもりで作業を始めた。
「どうだい、リオン」
「父上。毒草が混ざって生息しているので、今、除去しています」
根から抜いた毒草は三十を超えていた。それでもまだ三分の一が残っている。
「残りは私達がやりますから」
ファースがリオンの手からスコップを受け取ろうとしたので、眉をひそめた。
「いや、ここまでしたら最後までやるから」
「ですが……」
「ファース。リオンが取っているのは花がついているものだけだが、ついてないものはないのか?」
ライナスの言葉に、リオンは愕然とした。
草に花が咲いているのは一瞬だ。花が咲いてない時期だって毒草に変わりないのに、これでは見分けがつかないだろう。
「この時期は花がないものはないですね、伯爵様」
ファースの答えにほっとしたが、自分はまだまだだと痛感したリオンは、俯いた。
「やる気になっているのに悪いが、フェリシアが眠そうだから帰るよ、リオン」
「私は大丈夫です」
「……分かりました、父上」
フェリシアは大丈夫と言ったが、ぼんやりしているのは明らかだった。自分が我を通す訳にはいかない。
リオンは手袋とスコップをファースに返した。
「あまり役に立たずにすみません」
「いやいやいや。そんなことありません」
慌てて手と首を振るファースだが、大して役に立っていない自覚がある。
そんなリオンの頭に手を置き、ライナスは苦笑した。
「向こうの三頭は大丈夫。後は頼むよ」
「はい、伯爵様」
深々と挨拶するファースを後に、ライナス達は馬車に向かった。
フェリシアは馬車の揺れにあっという間に眠りだした。慣れない魔法を使った上にまだ子供なので仕方ないだろう。
「リオン」
「はい」
「君は光属性がない」
養父に言われ、リオンは俯き唇を噛みしめた。
「だから、別の方法を考えないといけないよ」
「……え?」
「ないものに拘っているだけではいけないよ。自分に出来ることをしなさい。
例えば、獣医は解毒薬を持っているし」
「え?」
薬を持っていると聞いて、リオンは目を見開いた。薬があるのにわざわざ魔法を使ったのか。いや、そもそも薬があるなら、わざわざ伯爵家に連絡する必要があるのか。
「解毒薬は万能ではないからね。
何の毒なのか分からないと使えないだろう?」
「それで毒草を見つけるのですか」
今回はライナスがいたから魔法で解毒したが、本来なら何を食べたか調べてそれに合った解毒薬を飲ませるのだろう。
「……ファースの説明が事細かかったのはそういう事ですか」
始めから、このために連れてこられたのか。リオンには知識を。フェリシアには魔法の練習を。与えるために、今日ここに来たのか。
「君は敏いね」
ライナスは肩をすくめる。敏いと言われたリオンは首を振る。自分の至らなさを先程思い知ったばかりだ。
「私も養父とは持っている属性が違ったよ。
養父に出来て私に出来ないことも、沢山あった。しかし、その逆もあったのだよ。
私と君もそういう事だよ」
「ですが父上」
「君は君として、領主になればいい。
私の方が年寄りだから、経験がある。その分いくらかしっかりしているだけだよ」
リオンは首をまた振った。
ずっと不安なのだ。自分は養父に追い付けるのかと。今日だって、力量の差をこんなに感じているのに。
「まだ私が当主として働けるから、大丈夫。
君が試行錯誤して色々試すのに、付き合えるくらいには若いつもりだよ」
だから色々試してごらん、とライナスは目の前に座るリオンに微笑んだ。
今日この時は忘れてはならない。
リオンは記憶に強く残しそうと意識する。
自分が将来子供を得たら、この事を今度は自分がする番が来るのだろう。上手く伝えられなくても、必ず伝えたい。
きっと、この事が支えになる。
「はい、父上」
リオンはライナスに笑みを返し、自分が養父に大切に思われている、その事を嬉しく更に誇りに思うのだった。




