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女神の趣味に付き合わされて  作者: 五月女ハギ
美味しいお祭りの女神
39/52

後の祭り

誤字を直しました。

ご指摘ありがとうございました。

 ジョナスが孫二人とたどり着いた時には、品評会は終わっていた。

 リドホルム国に入って、盗賊団にばったり出会ったのがよくない。正確には、盗賊団に襲われている商人を助け、いらないと断ってもしつこく感謝の宴まで催されたのがよくない。

 結果間に合わなかったのだ。

 なので孫のアーロンとアリスが普段もパツパツの頬を更に膨らませている。


「フェリシア達を探そう?」

「……」


 二人にきっ、と睨まれ情けない顔をしているだろう。

 しかし天使はいた。


「お疲れではありませんか?お父様」

「お姉様!」


 二人の孫が自分にかけられた声に反応して、フェリシアに抱きついた。

 孫のためなら我慢する。孫だって天使だ。


「着いて早々問題がある」

「は?」


 折角フェリシアに会えたのに、と口を尖らせるがライナスはそれくらいでは怯んでくれない。

 リドホルム国の王子に目をつけられたようだ、ということを簡単に経緯を加え説明された。


「……なんでそんな事に」

「いやでも誰だか調べられるだろうから……何も気にせず、過ごすしかないな」

「うん」

「子供達は一緒に過ごしたいだろうから、こっちの部屋に合流しないか」


 人目があるのでここではそう言いながら、ほぼ決定事項だった。カイルは商会のメンバーと料理の配布とその片付けに参加している。


「そうだね」

「滞在日分の料金は払ってからだな」


 カイル達と一緒に出来るのは有りがたかった。

 バーシェス商会は一週間程滞在し、三日程の休暇と商品の仕入れをするらしい。

 ライナス達は合わせてあと三日程部屋を確保していた。支払いはカイルがまとめて請け負ってくれているので、例えば帰らなくても問題はない。


「フェリシア、市場を見たいのだろう?」

「はい。でもその前に、皆様喉が渇いてませんか?」

「カラカラー」

「わたしもー」


 気付けばフェリシアがアーロンとアリスに水を霧状にして吹きかけていた。

 僅かに使える水属性の魔法で、熱中症対策にフェリシアが試行錯誤して編み出したものだ。

 更にリオンがそよ風程の強さの風を送り、その効果をあげていた。


「市場か出店で何か頼むか」

「やったー」


 アリスはリオンにベッタリなのでそのまま任せて、フェリシアはアーロンと手を繋いだ。


「手を離さないでね」

「そんなに子供じゃないよ!」

「手を離されたらお姉ちゃん、迷子になっちゃうよ?」


 そう言えば、ちょっと大人な気がするのか、もう一度手を繋ぎ直して、フェリシアの前を歩く。


「アーロンはなにを飲みたい?」

「お姉様は?」

「……あれは何かしら?」


 一歩踏み出しかけて、はっとして思い止まる。飲み物の話なのに、変わった植物が目に入ってきた。


(あっ。あれは大根?向こうには、茄子?キュウリもある!)


 視線を戻せなくて、じっと見てしまうとくいっとアーロンに腕を引かれた。


「お姉様?」

「あっ。皆と一緒に行きましょう」


 慌てて四人に追い付いたが、にっこりとライナスに微笑まれた。


「フェリシア、分かっているね?」

「……申し訳ございません」


 祭り中で人が多いのにうっかりし過ぎだ、と反省する。

 と同時に、ちょっと荷が重い。


「お父様、アーロンと手を」

「やだ」


 ジョナスに任せようと思ったが、途中でアーロンに拒否された。

 自分が暴走する姿がありありと見えるため、不安でしかない。


(多分あれは柚子ね。苗木は売ってるのかしら?領地で育つの?先程見つけた大根、茄子、キュウリは種も売ってるのかしら?あ、桃もあるのね。え?まさかあれはアロエ?!嘘でしょ?)


「フェリシア!フェリシア!!」


 肩を掴まれ、はっとして振り返る。

 はぁー、と長いため息をついたのはライナスだ。


「……四人はそこで飲み物を飲んで、休んでいて。

 フェリシア、三十分だけだ」

「!はい!」


 アーロンの手をジョナスに渡すと、ライナスの腕を掴み、ほぼ走るように去っていった。


「……取り敢えず、休もうか」


 リオンはアリスの手を引き、ジョナスの肩を押した。

 三十分では済まないだろうと、ため息が漏れたのは仕方がない。




 そして、両手いっぱいの種や苗を持ちニコニコとフェリシアが戻って来たのは、ギリギリ三十分後だった。

 先程見つけた柚子、大根、茄子、キュウリ、桃、アロエの他にかぼちゃも見付けたのでフェリシア本人は大満足だ。

 更に栽培方法を聞ければ良かったのだが、さすがに三十分では購入だけで精一杯だった。

 勿論、ライナスもフェリシア以上の荷物を持たされている。


「……一度帰りましょう」


 本来なら空間収納に入れるのだが、人前ではフェリシアの持つ容量と内容物が問題になる。

 わざわざ危険を犯す必要もないだろう。

 リオンが疲労感を感じていると、アーロンとアリスが興味津々とフェリシアに寄っていく。


「続きは部屋に戻ってから!」


 リオンがフェリシアの手から全てを奪い、歩き出す。ライナスもさっさとと歩き出せば、ジョナスとフェリシアがアーロンとアリスと手を繋ぎ、あとを追った。




 多分、本人は気付いていないが、上機嫌ゆえに先程から鼻歌を歌っている。

 空間収納の中を見て、リオンはため息をついた。

 フェリシアの中では買い物もメインイベントだったのだろう。果物や野菜を入れる籠がいくつか中に用意されていたし、苗木等を置くスペースも確保されていた。


 アーロンとアリスは、果物や野菜がどんな料理に変わるのか、時おりフェリシアに聞いているが、「ナイショ」とはぐらかされている。


「栽培をするつもり?」

「はい。アロエは食べるのも肌につけるにもいいんです……あ」


 途端にフェリシアがしょんぼりする。一気にしおしおとなった。


「アロエ軟膏って聞いたことはあったけど、作り方なんて分からないわ」


 ぽつり、と独り言が出ているが、リオンは苦笑しながら頭を撫でた。


「軟膏なら薬学を学んでいる物に聞いてみたら?」

「……ご迷惑ではないでしょうか?」

「研究家なら、新たな研究材料に惹かれる人もいるんじゃないかな?

 ジョナスおじさん、どうでしょう?」

「宮廷で聞いてみる?」

「お願い出来ますか?化粧水も作れるはずなんですけど」


 化粧水と聞いて、女の子は大変だな、と苦笑する。一方、アリスが目を輝かせるのが見えた。


「片付いたら、話がある」


 ライナスが右手を上げると、フェリシアが空間収納を閉じ、ソファーに座った。


「アーロンとアリスは今日はフェリシアの部屋に泊まること」

「やったー!」


 二人が走り出そうとしたので、リオンが両腕に抱きとめる。


「明日、朝食を外でとってーー馬車に乗るよ」

「馬車?」

「……ちょっと遠出をする」


 ライナスは、子供二人には話さない事にした。その方が良さそうだ。


 ローレンス、リオンとフェリシアはここまでではなかったので、話せば分かると思ってしまっていたが、確か子供は一筋縄ではいかない生物だったな、と改めて思い出していた。




 □ □ □ □ □




「申し訳ございません」


 青ざめた間諜は、遠い国を真似て土下座という謝罪をしている。


「分かった。大丈夫だ」


 それとなくバーシェス商会のカイルに聞けば、もともと品評会の後は別行動だから分からないの一点張りで、収穫はない。

 市場で買ったはずの品はバーシェス商会が持たされたのかと探っても、そんな品物はないようだった。


(一体、いつ?)


 朝食を外で食べて、乗り合い馬車で隣街に向かった。その街には、二台の馬車がすでにいた。

 ーーつまり。もう帰る手筈が整えられていたのだ。


 間諜もしばらくあとを追ったが、長距離とばされ、仕方なく戻ってきた。


「滞在日数は残っていたはずだ」


 後からやって来た方は、さっさと部屋を移ったが、それは彼女達の宿へ移っただけだ。

 彼女達はまだ日数があるのに去った。


「逃げられましたね」


 従者に言われて、エルランドは苦々しい表情を浮かべる。言われるまでもない。


「話さえしていないんだぞ」

「そのためでしょう。警戒されているのです」

「……何故だ」


 項垂れて呟くエルランドに、従者は気づかれないよう苦笑した。その執着に逃げ出したのだろうと簡単に予想がつく。


「殿下は如何されるおつもりだったのですか?」


 従者に聞かれ、エルランドは固まった。

 取り敢えず会って話して……それから?


「……」

「誰かの養女にして、側室にでもしますか?」

「!」


 エルランドは驚きのあまり顔を上げ、従者を見た。

 側室ありきの発言だ。


「……国境の関所に、一人間諜を送っております」

「それは、出国の確認にしかならないだろう」

「手続きがありますから、名前くらいは分かるかと」

「!」

「ただ、寄り道していなければ間に合いません」

「……それは、間に合ってないな」


 今は祭りの時期だ。入国出国共に人数が膨大で、例ええすがたを見せても覚えてさえいないだろう。

どこの誰かなど分かりようがない。

 エルランドは椅子の背もたれに身を預け、天井を見上げた。


 全てが遅かった。


 ただ、それだけだ。

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