美味しいお祭り[その4 ]
バーシェス商会の料理は、皿の上の二つスプーンはすでに入れられていた。
つまり二口分だ。
しかも女性審査員には幅の細目なスプーンで用意されていた。
「オムライスでございます」
片方はチキンライスにケチャップ、もう片方はシーフードピラフにホワイトソースだ。
ホワイトソースの方にだけ、玉子とピラフの間にチーズがのっている。
フェリシアとしては半熟ぷるぷる玉子にしたかったのだが、この世界の技術では生卵は勿論、半熟も危ないのできちんと焼いてある。
食中毒が恐いのは何処でも一緒だ。
殻の洗浄が上手くいけば大丈夫になるのだろうが、料理のレシピが浮かんできても、その手の技術が浮かぶことはなかった。
女神の仕事は片手落ちだとフェリシアは嘆きたくなった。
「……これだけか?」
「すでに九組の料理を召し上がられてますから」
観客席はどんな料理か分からず、食い入るような視線が審査員に向けられていた。
調理長がいつもと違い丁寧な口調で、つい笑ってしまう。
「白い方は少し濃厚な味で、赤い方は微かに酸味があります」
どうぞ、と言われてエルランドとヘイノはゴクリ、と喉を鳴らした。見たことのない料理に抵抗がある。
しかし、料理家のフレデリクは待ってましたとばかりにスプーンを手にし、口にした。
「おお!これはホワイトソースですね。シチューやグラタンの」
「そうですね」
「……間には?」
「チーズを使っています」
「海老やイカの食感もいいですね」
うんうんうん、と何度も頷きながら、またレモンの果汁入りの水で口内をさっぱりさせている。
フレデリクの発言に、他の審査員が同じ白い方を口にする。
「ホワイトソースにはマッシュルームが?」
「少しだけですが」
一口はあっという間で、物足りない。
「……こちらはエイジャー国発祥のトマトケチャップですよね」
実はフレデリクは、先程この色を見た時から楽しみにしていた。
隣国とは言え、エイジャー国が作った新たな調味料はリドホルム国には作り方も実物も、入ってきていなかった。
口にする前から笑みが浮かぶが、口にして恍惚とした表情になる。
「トマトの酸味が程よい。焼いた鶏肉の旨味がよく出でいる……」
そうかこれがトマトケチャップか、とフレデリクが感激していると、審査員達も口にした。
「……大丈夫そうですね」
胸を撫で下ろし、フェリシアは目を伏せた。緊張しない訳がない。
「フェリシア、助かったよ」
カイルに頭を撫でられ、フェリシアは笑顔を返す。
「カイルおじ様に恩返しが出来て良かったです」
ブロウズ伯爵家に引き取られてから、フェリシアがあれこれ思い付くままに欲しい植物や食材を入手してくれたのは、カイルが経営するバーシェス商会だ。
利益に結び付くものがなかった訳ではないが、そうそう全てが有益だった訳でもない。
決してフェリシアの名前を出さずにいてくれた。
今回だって本来はフェリシアは観客席に座って見ているだけだったのだ。
「そういうのは嫁にいく前日に言うもんだ」
「あと数年後ですね」
「……は?」
「私が卒業したら、ですから。十八か十九」
夏休みが明ければ二年生だから、とフェリシアが簡単な計算なのに指折り数える。
カイルがフェリシアの頭に手を乗せたまま、ギロリとライナスを睨む。
「聞いてないぞ」
「私も早いと言っているんだがね」
「グレンのことを考えると、待たせるのは可哀想ですよ」
なにしろジョナスに色々制限をかけられ脅されている。「優秀な魔法使いだから嘘ついたら分かるからね?」とは、あの魔道具のことか。
頬や額までしか認められていないと嘆かれた時は、リオンも慰めの言葉が出てこなかった。
「アイツのとこは、ちょっと遠いよな」
「例のあれが」
フェリシアは言外に空間移動を匂わせた。あれがあるなら遠慮はいらないな、とカイルは笑った。
「頻度は?」
「え?」
「月一は最低限、だろう」
「学校行かなくていいんだから、もっと増やせるだろ」
「伯父様の邸で会合ですか?」
「様子見で月一にしてあげようとは……」
「ちっ。リオンはグレンに甘いな」
貴方達が厳しいんです、と内心思いながらリオンは苦笑した。フェリシアは流れがよく分からないのか首を傾げている。
そんな事をしていると、結果発表の時間になった。
カイルは楽観的だった。ストークマン商会が勝手に自爆したので、あそこに負けないなら後はどうでもいい。
エルランドが中央に立つ。
フェリシアに視線を向けるのが分かっていたので、ライナスが話をふり、フェリシアの視線をわざと反らさせた。
(あんな簡単に挑発されちゃうのかよ)
カイルが肩をすくめると、エルランドに睨まれた。八つ当たりなんて怖くないので、腕を組んで笑ってやる。
微かに手が震えているが、エイジャー国のアレクシスならもう少し堪え性があると勝手に勝った気分になる。
「優勝は、バーシェス商会のオムライスだ」
うおおおおおお、と地響きがする。
アイツらも頑張ったからな、と思っているとフェリシアに何かアピールしている。
楯をもらった調理長がその楯をフェリシアに向けている。
俺じゃないのかよ、と思いつつもつっこまなかったのは、隣のフェリシアがずっとカイルの腕に手を乗せ、アピールされる度に嬉しそうにカイルと目を合わせ笑っていたからに他ならない。




